新型コロナウイルス感染症へのMSFの対応【最新情報】
2021年12月20日最新情報
10月15日掲載:新型コロナウイルス危機対応募金 受付終了のお知らせとお礼
1月18日掲載:WHO推奨のコロナ治療薬 価格はジェネリック薬なら400分の1
11月29日掲載:新たな変異株でWTO閣僚会議が延期 いまこそコロナ知財保護の免除で世界の連帯を
活動概要 世界70を超える国と地域で対応
医療機関における感染予防・制御に関する取り組みをはじめ、新型コロナウイルス専門の治療センターの設置、感染者の治療、感染予防のための健康教育など、幅広い活動を実施。特に、医療や衛生面で脆弱な環境に暮らす難民・避難民など、弱い立場に置かれた人びとへの支援に力を入れている。
また、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬などが、「世界の公共財」としてあらゆる人びとに公平に行き渡るよう、各国政府をはじめとした国際社会に訴えている。
新型コロナウイルス感染症への対応 5つの柱
過密状態のキャンプに暮らす難民や移民など、感染のリスクが高く、医療へのアクセスが限られた環境に暮らす人びとを支援。
感染予防対策を十分に行い、母子保健やHIV、結核など、人びとが必要とするさまざまな医療ニーズに継続して対応。
新型コロナウイルスやさまざまな医療ニーズに対応し続けられるよう、個人用防護具の提供などを通し、医療従事者を感染から防ぐ。
施設に入居している高齢者や、糖尿病やHIV、結核などの病気を患っている人びとなどを感染から守る。
新型コロナウイルスのワクチンや治療薬、診断ツールなどが世界で公平に分配されるよう、各国政府への対応を求める。
2020年活動ハイライト
異例の1年──2020年、パンデミックへの対応
2020年末までに全世界で8200万人余りが新型コロナウイルスに感染し、推定182万人の患者が新型コロナウイルス感染症に関連する理由で命を落としたとされる。
MSFは、2020年1月には最初の新型コロナウイルス感染症プログラムを開始し、3月からは世界各地で対応を急速に拡大。医療事情のもともと悪い国や紛争地域から、医療リソースの豊富な中高所得国まで、さまざまな医療従事者や地域社会とともに活動した。
医療機関を支援し、医療従事者を守る
また、医療従事者をはじめ保健医療に関わる人びとを対象に、数多くの研修を実施。患者を安全に受け入れて治療する方法、患者の優先順序に従ったトリアージ区画を作る方法、病院での患者の流れを改善する方法などを研修で伝えた。
支援活動の一環として、現場の医療従事者へのカウンセリングや心のケアも行った。さらに156カ所の病院や治療センターで、MSFの医療チームが新型コロナウイルス感染症の患者を直接治療し、新型コロナ専用に4300床を上回るベッドを設置した。
新型コロナウイルス感染症患者のケア
最も診療数が多かったのが、バングラデシュ・コックスバザール県の難民キャンプにおけるプロジェクトで、2020年には感染疑い患者の外来診療を2万2000人余り対応。アフガニスタンや、ギリシャの島々の難民キャンプ、ベネズエラなどでも多くの患者に対応した。入院を必要とする重症患者の数が最も多かったのは、イエメンの1950件だった。
弱い立場に置かれた人びとのもとへ
多くの介護施設では新型コロナウイルス感染症の感染率が高く、入居者やスタッフの心身の健康が急速に悪化していたため、MSFチームは欧州各国やブラジルなどの1000カ所近くの長期ケア施設で心理社会面のカウンセリングや心のケアを行いながら、感染予防・制御策の改善に努めた。
検査ツール、治療薬、ワクチンの公平な分配を
特に、新型コロナに関する医薬品、検査ツール、ワクチンを通して利潤追求は行わず、各国政府が特許権などの知的財産権を一時停止することで、普及を徹底して価格を引き下げ、より多くの命を救うことを求めている。
2020年4月、複数の団体と世界保健機関(WHO)やGavi ワクチンアライアンスなど国際保健に関する組織が協力し、新型コロナの検査ツール、治療薬、ワクチンの公平な分配を目指す「ACTアクセラレータ」が立ち上げられた。
MSFはこのような枠組みを、新型コロナ関連の保健医療ツールの公平なアクセス確保への重要な一歩として歓迎する一方で、世界全体の分配に十分に対応ができないのではとの懸念も示している。
2020年末には数種類の新型コロナ治療薬やワクチンが実用化され、MSFは製薬会社、各国政府、Gaviワクチンアライアンスや世界貿易機関などの国際機関に向けて、公平な分配を呼び掛けてきた。
また、COVAXファシリティが調達したワクチンの一部を、紛争下の人びとなど取り残される恐れのある人びとのために確保する「人道的バッファ」の確立に向け、WHOが主催する関係諸機関による議論に参加し、深く関わってきている。
海外派遣スタッフの派遣回数
活動国への出入国には、移動、検査、隔離期間などに時間を要したものの、4月から12月までの間に海外派遣したスタッフは約4000人に上り、2019年の同時期と比べて25%の減少にとどまった。8月にはチャーター便の本数が大幅に減ったためMSFスタッフの移動は再び制限され、7月以来、派遣回数が再び前年の水準に達したのは12月だった。
新型コロナウイルス感染症関連物資の供給先および内訳
新型コロナウイルスへの備えと直接的な対応のために用意された品は、MSFが世界各地で行う活動に使う物資の約44%を占めた。
「新型コロナウイルス感染症危機対応募金」の金額推移と寄付額上位国
2020年4月から12月までに世界35カ所のMSF事務局を通して集められた金額は、1億2100万ユーロ(約147億5000万円)に上った。米国、日本、スイス、スペイン、ドイツ、イギリスからの寄付が全体の3分の2を占め、特に個人からの寄付が多く寄せられた。
「新型コロナウイルス感染症危機対応募金」項目別および国別支出内訳
パンデミックが始まってから2020年末までに、新型コロナウイルス感染症対応に関連した総額支出は、1億1780万ユーロ(約143億6000万円)に達した。医療活動と人件費が支出額の70%余りを占め、次いで旅費・宿泊費、事務費、物流・衛生活動費に充てられた。
また、MSFインターナショナルが中心となって進めるプログラム支援活動や国際的な啓発活動、およびアドボカシーキャンペーンにも130万ユーロ(約1億5800万円)を支出した。
新型コロナウイルス感染症危機対応募金から支出した費用の大部分は、人道危機下や紛争地でのプロジェクトで生じたものである。MSFが2020年に実施した新型コロナ関連の活動のうち、規模・費用ともに規模の大きかったイエメン、コンゴ民主共和国、バングラデシュ、南スーダン、イラクでの活動が、総支出の4分の1を占めた。
地域別情報
中東と北アフリカ
そこに新型コロナウイルスの感染が広がり、以前から医療システムが脆弱な状態の人びとにさらなる負担をかけることとなった。
(2020年9月~12月)
イエメン
内戦下のイエメンで広がるコロナ不安とデマ 患者の治療が遅れる理由(2021年08月20日掲載)
【動画】1日500本の酸素ボンベが必要 満床が続くイエメンの治療センター(2021年06月23日掲載)
予防啓発から重症患者の治療まで 写真が伝える1年(2021年3月31日掲載)
イエメンの避難民キャンプ、一時中断していた移動診療を再開(2020年10月14日掲載)
【動画】酸素ボンベが足りない——イエメンの新型コロナウイルス治療施設、日本人スタッフの葛藤(2020年9月15日掲載)
「明日ついに退院です」治療を受け無事に回復へ—— イエメンからの報告(2020年7月20日掲載)
入院患者の4割以上が死亡 イエメン南部、病院が危機的状況に(2020年6月5日掲載)
イエメン:南部アデンで新型コロナウイルスによる死者急増 さらに多い可能性も(2020年5月22日掲載)
イエメンで初の新型コロナウイルス感染者 MSF、行政当局に対応加速を要請(2020年4月13日掲載)
イラク
レバノン
シリア
パレスチナ
アジア
(2020年9月~12月)
アフガニスタン
ヘラートで重度の新型コロナウイルス感染症患者数が増加したことを受け、9月から一時休止していた治療センターでの受け入れを再開した。また、ヘラート地域病院でのスクリーニングとトリアージ活動を継続している。
ヘルマンドでは、新型コロナウイルス専門病院であるマリカ・スラヤ病院を支援。ブースト病院では、患者数の減少を受け、新型コロナウイルスのベッド数を減らす方向にある。
カンダハルでは、10月末に患者数が急増したことを受け、保健省の医療スタッフを対象に新型コロナウイルスに関する再教育訓練を実施した。また、新型コロナウイルスに感染またはその疑いのある多剤耐性結核患者の入院と治療のための隔離ユニットを設置した。(11月時点)
パキスタン
バングラデシュ
フィリピン
インド
欧州
(2020年9月~12月)
イタリア
スペイン
ベルギー
フランス
ギリシャ
キルギス
アフリカ
(2020年9月~12月)
コンゴ民主共和国
ケニア
ナイジェリア
リベリア
南アフリカ共和国
ソマリア
エスワティニ
南スーダン
当初の想定よりも患者数が少ないことを受け、新型コロナウイルスに関する状況は危機的な段階を脱しつつある。MSFは国立公衆衛生研究所への支援を継続するとともに、首都ジュバで水と衛生の活動を行っている。
MSFはジュバ以外でも3カ所で新型コロナの検査施設を運営。陽性患者の隔離と治療を継続するほか、感染予防のための啓発活動および研修も推進していく。(11月時点)
マラウイ
北米・中南米
(2020年9月~12月)
アメリカ合衆国
ハイチ
ブラジル
コロナ死者が50万人を超えたブラジル MSFは新たな取り組みで対策を強化(2021年07月07日掲載)
誤った安心感が命を脅かす 死者数2位のブラジルで広がる 「あの薬」(2021年5月11日掲載)
大惨事を招いたブラジルは科学的根拠に基づいた対策を(2021年4月16日掲載)
酸素が足りない……窒息死する例も ブラジル・アマゾン川流域で支援を強化(2021年2月1日掲載)
【動画】伝統を受け継いでいくために──ブラジル先住民族の健康と文化を守る(2020年10月5日掲載)
診療ボートに乗って──ブラジル・アマゾンの先住民を感染から守るために(2020年8月19日掲載)
住民の25%が感染した都市も……終わりの見えないブラジルの「悪夢」(2020年6月25日掲載)
感染者が10万人を超えたブラジル ホームレスや移民を支える(2020年5月5日掲載)
ホンジュラス
メキシコ
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)基本情報
新型コロナウイルスとは?
2020年2月11日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスが引き起こす疾患にCOVID-19という呼称を付けた。当初の症例は圧倒的多数が中国に集中していたものの、その後世界中に広まっている。3月11日、WHOは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を宣言した。
新型コロナウイルスの感染経路は?
新型コロナウイルスとそれによる疾患については今なお未知の部分が多い。ウイルスは人から人へと感染するが、症状が現れない人もいるため、感染経路を把握することが非常に難しくなっている。
WHOの説明によると、感染した人が咳をしたり、息を吐いたりした際に鼻や口から拡散する飛沫を介して伝染する。ウイルスに汚染された物質やその表面に触れ、その後、目、鼻、口に触れることで感染する恐れがある。また、ウイルスの保有者の咳や呼気から出た飛沫を吸い込んだ場合も感染する可能性がある。WHOは、症状の見られる人との間に3フィート(約1メートル)以上の距離を保つことを勧めている。
新型コロナウイルスの危険性は?
高度に整備された保健医療体制であっても、入院の必要な患者が増えることで対応能力を超える恐れがある。MSFは、保健医療体制の脆弱な国での影響を懸念している。新型コロナウイルス感染症は、特に高齢者や持病を抱える人にとって危険だ。現在のところ、致死率は場所によって著しく異なっている。
新型コロナウイルスの感染予防策は?
それぞれの人が自分自身だけでなく、他人も守ることが重要。新型コロナウイルスは、感染した飛沫を吸い込んだり、飛沫が付着したものの表面を触り、そのまま目、鼻、口を触れたりすると、口や鼻から人体に侵入する恐れがある。
そのため、入念な手洗いや適切な咳・くしゃみエチケットといった感染抑止策が、予防に効果的であり、大きな意味を持つ。手の衛生は特に大切で、水と石けんで頻繁に両手を洗うことが求められる。十分な量の石けんを使い、20秒以上かけて両手をすみずみまでよく洗う。目につく汚れがなければ、ジェル状のアルコール含有消毒剤も有効。
体調のすぐれない場合は自宅にとどまり、他の人との接触を避ける。咳やくしゃみの出る場合は、ティッシュペーパーやひじの内側で鼻と口を覆う。使用済みのティッシュペーパーは速やかにごみ箱に入れ、両手を洗う。
集団感染を抑え、新規症例と重症化を減らし、高リスクな人びとを守り、保健医療体制を維持する方法として、隔離措置や一定の対人距離の確保といった公衆衛生対策が効果的だ。
マスクや手袋などの個人用防護具の供給に支障が生じているが、保健医療従事者の需要を優先することが望ましい。
国境なき医師団(MSF)とは
国境なき医師団は、紛争や災害、貧困などによって命の危機に直面している人びとに医療を届ける国際的な民間の医療・人道援助団体です。
・医療援助活動
活動地は、シリアやアフガニスタンなどの紛争地や、貧困により医療が不足している地域、自然災害の被災地、感染症が流行する地域など。医療を受けられない人びとのために、約4万7000人のスタッフが世界70カ国以上で活動を行っています。
・「独立・中立・公平」な立場
活動資金の9割以上が民間からの寄付に支えられていることにより、中立な立場での援助活動を実現。政治などの干渉を受けることなく医療を提供します。寄付収入や配分先などを掲載した、年間の活動報告書はこちら
・証言活動
医療援助だけでは人道的危機が改善しない場合、その現状を国際社会に広く知らせる証言活動もします。こうした活動が認められ、1999年ノーベル平和賞を受賞しました。
寄付控除、税制優遇措置
認定NPO法人である、国境なき医師団日本への寄付は税制優遇措置の対象になります。所得税、法人税、相続税、一部の自治体の住民税の優遇措置を受けられます。詳細はこちら