新型コロナウイルス:若者の自殺も──ソマリア難民を覆う絶望

2020年10月20日掲載

MSFが実施する心理カウンセリングを受けに来た女性 © MSFMSFが実施する心理カウンセリングを受けに来た女性 © MSF

ケニア東部に位置するダダーブ難民キャンプ群は、内戦で故郷を追われた大勢のソマリア難民が生活する、世界でも最大級の難民キャンプのひとつだ。国境なき医師団(MSF)は、30年ほど前にこのキャンプが形成された直後から、難民および受け入れ側の地域住民らに医療を届けてきた。

現在MSFの活動の重点は、キャンプ群の1つであるダガレイ・キャンプへと移り、抑うつ、統合失調症、不安障害など心の病に苦しむ患者に心理ケアを提供している。しかし一向に改善しない劣悪な生活環境や将来などへの失望感に加え、新たに襲いかかった新型コロナウイルス感染症にまつわる不安と恐怖が、人びとの精神状態をさらに悪化させている。

食料配給4割減。過酷な現状に自殺者も

8月のある日、24歳の青年がダガレイで自ら命を絶った。母親のハレト・アブディルラフマンさんによると、将来の見通しが立たない現状に追い詰められた末の選択だったという。「高校を卒業したものの、仕事のないキャンプでの暮らしがどれほど辛いかという話をいつもしていました。死にたい、とよく言っていましたが、まさか現実になるなんて……」

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、ダダーブで活動していた各NGOは援助体制の縮小を余儀なくされた。国連世界食糧計画(WFP)の食料配給は40%削減され、食べ物を入手する手段をもたない人びとを取り巻く環境は、過酷さを増している。

キャンプ内では人びとの心の健康状態が著しく悪化し、心理・社会的支援の相談件数が昨年の同時期に比べて今年は約5割増加。自殺者数もここ2カ月で5件報告されている(うち3件は未遂)。

診療所を訪れた女性にスタッフがそっと付き添う © MSF診療所を訪れた女性にスタッフがそっと付き添う © MSF

終わりが見えない絶望感は、まるで「終身刑」

ダダーブを出て故郷のソマリアへと自発的に帰還する人の数は、年々減りつつあったが、結局それも新型コロナ感染拡大の影響で全面中止となった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、今年に入ってから8月までの時点で、帰国した人は報告されていないという。
「新型コロナの影響による移動制限、食料不足、そして人道援助の縮小などといった問題が大きな絶望感となって、キャンプ全体を覆っています」と話すのは、現地で活動するMSFのプロジェクト・ コーディネーター、イェルーン・マタイス。

このキャンプ群で暮らすソマリア難民の中には、一度も祖国の地を踏んだことのない人も多い。将来にわたって根本的な解決策が見いだせないという現状は、どうあがいても抜け出せない「終身刑」のように、人びとを苦しめる。

ダダーブ難民キャンプに対しては、2017年の政府間開発機構(IGAD)で採択された「ソマリア難民に関するナイロビ宣言」、そして2019年にUNHCRとスイス政府の共催で開催された「第1回グローバル難民フォーラム」における支援宣言によって、ソマリアへの帰還や第三国への定住などの社会的・経済的支援を行うことが約束されていた。しかしこれらの政策は遅々として進まなかったうえ、新型コロナウイルスの流行によってさらに実行が難しい状況に陥ってしまった。

数十年という長期にわたり難民生活を強いられている人びと。彼らが健康と未来への希望を失うことがないよう、MSFはこれからも医療を届け、そして現地からの声を発信し続ける。

ダダーブ難民キャンプでMSFが運営する心のケア診療所 © MSFダダーブ難民キャンプでMSFが運営する心のケア診療所 © MSF

関連情報