プレスリリース
WTO閣僚宣言:全てのコロナ医薬品での知財保護免除に至らず 世界を救う解決策の欠如に失望
2022年06月17日ジュネーブで6月12日から16日まで延長開催となった世界貿易機関(WTO)の第12回閣僚会議は、閣僚宣言を採択した。新型コロナウイルス医薬品の知的財産権を一時放棄するよう求めた、インドと南アフリカ共和国の提案から20カ月。加盟国が合意に達した文書は、既存の公衆衛生上のセーフガードを明確化し、今後5年間は例外的に適格国が新型コロナワクチンの輸出に強制実施権を利用できる手続きを定めたが、ごく限定的な内容であった。
国境なき医師団(MSF)は、WTOが新型コロナ対策で知財保護の本格免除について合意できなかったことは地球規模の失態であり、約2年に及んだ協議に十分な成果が見られなかったことに失望。決定についてMSFインターナショナル会長の談話を発表する。
MSFインターナショナル会長クリストス・クリストゥ医師の談話
今年5月に提示された「成果文書」案の中の特に懸念すべき要素を一部緩和する修正が盛り込まれたことは確かです。しかしながら、あらゆる新型コロナ医療ツールとすべての国を対象とする2020年10月当初の提案は、1500万人以上の命を奪ったパンデミック(世界的流行)が続く中でも実現に至りませんでした。
この合意は、パンデミック下で医薬品普及を拡大するための効果的で有意義な解決策を示していません。必須となるすべての新型コロナ医療ツールに対し知財保護義務を適切に免除するものではなく、すべての国に適用されるわけでもないからです。今回の決定で示された措置は、製薬会社の独占権に対処し、命を救う医療を安価で入手できるようにするものでもありません。今後の世界的な健康危機やパンデミックに悪しき前例をつくることになるでしょう。
MSFは今回のパンデミックを通じて、新型コロナ患者をケアする最前線の医療従事者が直面する課題と困難について繰り返し声を上げてきました。高邁な政治的公約や連帯を掲げる言葉とは裏腹に、富裕国が低・中所得国の人びとの命を救う新型コロナ医薬品の普及において明らかな格差を解消できなかったことが残念でなりません。
医薬品が届かないという課題に対し、真に世界的な解決策の合意がなされなかったことから、MSFは各国政府に対し、人びとが必要な新型コロナ医療を受けられるよう、自国内での早急な対策を求めます。新型コロナ医薬品の知財権の停止、主要な医療技術の特許障壁を解消するための強制実施権の発動、ジェネリック(後発)医薬品の製造・供給促進に欠かせない必須の技術情報の開示を認める新たな法律や政策の採択など、考えられる限りの法的・政治的手段を検討すべきです。
MSFはまた、命を救うための医療ツールの開発・製造・供給が公平に行われ、独占と市場の原理が普及の妨げとならないよう、バイオメディカル開発の仕組みを再考・再編していく具体的な施策を各政府に求めます。企業や政治上の利益を守るのではなく、命を救うことを優先しなければなりません。