プレスリリース

新型コロナ医薬品:インドと南ア政府が知的財産権の差し止めを要請──MSFはWTO理事会で各国の支持を呼びかけ

2020年10月09日
イエメン南部アデンの病院で新型コロナ重症患者を集中治療室へ移すMSFのスタッフ=2020年6月19日撮影 © Jacob Burns/MSF
イエメン南部アデンの病院で新型コロナ重症患者を集中治療室へ移すMSFのスタッフ=2020年6月19日撮影 © Jacob Burns/MSF

インド南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)は10月2日、世界貿易機関(WTO)に画期的な要請をした。これは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が続き、世界中で集団免疫が成立するまでは、関連する治療薬・ワクチン・診断ツールその他の技術に関する特許等の知的財産権を付与・行使しない選択を、各国に許すことを求めるもの。国境なき医師団(MSF)は、10月15日に開催されるWTOのTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)理事会において、この二国からの要請を支持するよう、すべての国の政府に呼びかけている。 

各国のパンデミック対策に大きな転換をもたらす可能性

この大胆な一歩は、手頃な価格のジェネリック版HIV/エイズ治療薬の使用で先陣を切った約20年前の両政府の取り組みを彷彿とさせ、承認されれば、各国のパンデミック対策に大きな転換をもたらす可能性もあるとMSFはみている。

MSFアクセス・キャンペーン南アジア責任者のリーナ・メンガニーは、「世界が新型コロナの脅威に直面しているいま、商業的発想で特許や企業の利益を追求するべきではありません。このパンデミックでは、医療従事者や各国政府が、マスクや人工呼吸器のバルブ、検査キットの試薬といった必需品の前に立ちはだかる知的財産権の壁によって苦しめられています。インドと南アフリカは、すべての人に必要な薬やワクチンを確保し、より多くの命を救うには、政府が再びハンドルを握るべきであると、踏み込んだ行動で示しました」と指摘する。

WTO加盟国は、例外的な状況下においては、WTO諸条約が定める義務の免除を求めることができる。加盟国が知的財産権(特許、意匠権、著作権、企業秘密に関する権利)の保護に関する免除の要請に同意した場合、各国は新型コロナ関連のあらゆる医薬品と技術について知的財産権の付与・行使をしないという国内施策を取ることも可能になる。 

治療薬の普及を阻む特許の壁

 これまでのところ、製薬会社も、新型コロナ対策製品のメーカーも、パンデミックの中で必要な製品が必要な分だけ広く使用できるような、特別な対応を取ろうとする意思は見せていない。たとえば、新型コロナ治療の目的で承認された唯一の薬であるレムデシビルについて、特許権者であるギリアド・サイエンシズ社によるライセンス供与は限定的で、ジェネリック薬の競合による薬価低減の恩恵から世界人口の約半数を排除している(※関連記事1、2)。2020年6月、同社はレムデシビルの価格を多くの国で5日間の治療あたり2340米ドル(約24万7874円)に設定すると発表した。しかし、この薬の開発には7000万ドル(約74億1503万円)以上の公的資金が注入されており、治療1回あたり9ドル(約953円)足らずで製造できることを示す価格調査もある。一方で、レムデシビルの不足は世界中で拡大している。
※関連記事1:特許も利益も超えて新型コロナウイルス感染症に医薬品を 高価格と供給量の制限で流行を長引かせてはならない(2020年04月03日掲載)
関連記事2:新型コロナウイルス:医療技術が公平に届くように——WHOの呼びかけを歓迎(2020年06月09日掲載)

さらに、新型コロナウイルス感染症を対象に臨床試験中の新規適応ないし新規開発の抗ウイルスモノクローナル抗体薬のような新世代の生物製剤も、ブラジル、南アフリカ、インド、インドネシア、中国、マレーシアなど多くの開発途上国で特許の保護下に置かれている。したがって、これらの治療薬に明確な効果が見られても、政府が特許の壁を取り除くための措置を速やかに講じなければ、いくつかの国では複数メーカーによる生産と供給ができないことになる。

「各国がこのパンデミックと闘えるようにするために」

南アフリカのMSFアクセス・キャンペーン担当者キャンディス・セホマは次のように訴える。「人命を優先し、新型コロナへのありとあらゆる医学的対抗策の拡充で、各国がこのパンデミックと闘えるようにするために、どの国の政府も、人びとの命を守ろうとするインドと南アフリカの行動を支持すべきです。何十億ドルもの公的な研究開発資金に支えられてきた企業が、新型コロナによる地球規模の難局を無視して、自らの利益確保を追求するに任せる余地などどこにもありません。新型コロナは、全ての人のもとで終息しない限り、終息しないのです」 

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