顧みられない熱帯病

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顧みられない熱帯病(NTDs)とは?

17億人に影響を与える現状

「顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)」と呼ばれる疾患の一群があります。世界で約17億人もがリスクにさらされながら、主に経済的に苦しく極めて悪い衛生環境に暮らす人びと に多い疾患であるため、予防・診断・治療法の研究開発や普及から取り残され、「顧みられない」ことが課題となっています。

国境なき医師団(MSF)は世界各地で、顧みられない熱帯病で苦しむ人びとを目の当たりにしてきました。

罹患すると、命の危険があるばかりでなく、病気によっては失明や歩行困難、皮膚病変など重度の身体障害が残ることがあります。それにより、社会からの差別や経済活動への支障を招き、貧困から抜け出せない原因にもなっているのです。

パキスタンで皮膚リーシュマニア症の治療を受ける少女
© Nasir Ghafoor/MSF

21の疾患が指定

世界保健機関(WHO)は、次の21の疾患を「顧みられない熱帯病」として指定。蚊やダニなどに寄生する病原体を介して人に感染するものが多く、毒ヘビに噛まれた傷なども含まれます。

【WHOが指定する、顧みられない熱帯病(NTDs)一覧】
デング熱、狂犬病、トラコーマ、ブルーリ潰瘍、トレポネーマ感染症、ハンセン病、シャーガス病アフリカ睡眠病リーシュマニア症、嚢尾(のうび)虫症、ギニア虫感染症、包虫症、食物媒介吸虫類感染症、リンパ系フィラリア症、河盲症、住血吸虫症、土壌伝播寄生虫症、マイセトーマ、疥癬(かいせん)、ヘビ咬傷(こうしょう)、水がん

  • 出典:世界保健機関(WHO) 2023年12月
内臓リーシュマニア症(カラアザール)の患者を診察するスタッフ
© Gabriele François Casini/MSF

なぜ適切な治療が受けられないのか

これらの疾患を患う人びとに、なぜ必要な治療が届かないのでしょうか。顧みられない熱帯病(NTDs)の一つであるヘビ咬傷(こうしょう)を例に考えます。WHOによると年間約200万人以上が毒ヘビに噛まれ、8~13万人が死亡し、その3倍近くの人たちが手足の切断に至る深刻な後遺症を患っています。アフリカ、アジア、南米で多く発生し、女性や子ども、経済的に困難な 農村部の人びとが被害に遭っています。

適切な抗毒素で処置すれば死や後遺症を回避できるのですが、つくるのに高い技術が必要なため、世界でも製造できる会社が限られているのが現状です。

抗毒素を必要とする低・中所得国では高価な薬を買うことができず、売り上げが伸びない製薬会社は、生産量を減らしたり製造を中止したりします。このため、必要とされる地域に必要な薬が届きません。

製薬会社でつくられる質の高い抗毒素が手に入らない人びとは、伝統的な治療に頼ったり、質の悪い抗毒素を使ったりして、さらなる健康被害を引き起こす悪循環に陥っているのです。

水がんをはじめ、治療を求める人びとのために

国境なき医師団(MSF)は、世界各地で顧みられない熱帯病で苦しむ人びとを目の当たりにし、必要な医療援助を行ってきました。その一つが、水がん(すいがん)の治療です。口の中の粘膜が病原菌によって破壊され、顔の表面にまで達して命を落とすこともある壊疽(えそ)性の口内炎である水がん。適切な時期に治療すれば完治しますが、治療が遅れるとわずか数週間で顔の皮膚と骨が破壊され、約90%が死に至ります。

MSFは、2014年からナイジェリアのソコト水がん病院を支援。外科チームによる再建外科手術や、栄養補助、心のケアなどを行っています。この他にもヘビ咬傷やリーシュマニア症、疥癬など顧みられない熱帯病のさまざまな疾患に対し、医療援助と調査・提言活動を続けています。

水がんの手術を受ける少女(ナイジェリア)
© Claire Jeantet - Fabrice Caterini/INEDIZ

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