人道アクセスの障壁

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基本情報

人道アクセスを阻む「対テロ政策」

紛争などの人道危機で援助が必要な人たちがいるにもかかわらず、その人たちのもとへ人道援助団体が行けない、援助を届けられないという事態が増えています。

人道援助を必要とする人びとへのアクセスを極めて困難にしている障壁の一つが、いわゆる「対テロ政策」です。2001年に米国で起きた9・11同時多発テロ以降、「テロとの戦い」を目的とする法的・政策的取り組みが、世界的に展開されました。

ところが、この政策が結果的に、人道援助スタッフの安全、活動の実施、そして援助を受け取るべき人びとにも大きな影響を与えることになったのです。なぜなら、各国の対テロ法や刑法が、国際人道法で認められているはずの人道援助活動まで、犯罪行為やテロの支援とみなすようになったためです。

イエメンで、食料を満載したトラックが<br> サウジアラビア主導の有志連合軍に爆撃された<br> =2018年 © Agnes Varraine-Leca/MSF
イエメンで、食料を満載したトラックが
サウジアラビア主導の有志連合軍に爆撃された
=2018年 © Agnes Varraine-Leca/MSF
例えば、次のような行動が対象になり得ます。
1.テロリスト指定された勢力の支配地域に暮らす人びとへの援助提供
2.テロリスト指定された勢力の指導者と接触を持つこと・維持すること
3.テロや犯罪の疑惑がある人物を医療・人道上の理由で搬送すること
4.テロ・犯罪疑惑がある患者を医療施設で治療すること

実際に、シリアで反体制派の支配地域で援助活動を行う国境なき医師団(MSF)は、政府からテロ組織とみなされ、スタッフが拘束されました。2021年にカメルーンでは、反政府勢力の支配地域で、銃撃による負傷者を救急車で搬送したスタッフが不当に逮捕され、その地域での活動を中止せざるを得なくなりました(その後、2023年にスタッフ5人全員が無罪判決を受けました)。
 
さらに、マリやニジェールでも援助活動が犯罪とされるケースが相次ぎました。紛争によって国境地域に追い詰められた人びとに援助を届けることが極めて難しくなり、人道アクセスの確保が困難になってしまいました。
対テロ戦争下では、患者を搬送する救急車が<br> 妨害されたり、直接攻撃されたりしている。<br> 患者は治療を受けることができず、医療従事者も<br> 危険にさらされる © Robin Meldrum
対テロ戦争下では、患者を搬送する救急車が
妨害されたり、直接攻撃されたりしている。
患者は治療を受けることができず、医療従事者も
危険にさらされる © Robin Meldrum

国際的な制裁も障壁に

また、国際的な制裁が人道援助の障壁になることもあります。

2021年、武装勢力タリバンの政権掌握に対して国際社会が制裁を課したことによって、アフガニスタンの人びとに届けられる人道援助が大きな影響を受けました。

2023年7月には、クーデターが発生したニジェールに対し、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)など地域の機構や近隣国が制裁を発動しました。その結果、食料やワクチンといった援助物資を運び込むことができなくなりました。

最も打撃を受けるのは、紛争や貧困、食料危機に苦しむ人びと、とりわけ子どもたちです。

海外からの資金援助が止まり多くの病院が機能停止した<br> アフガニスタン。稼働しているMSFの病院に多くの患者が<br> 訪れた © Nava Jamshidi
海外からの資金援助が止まり多くの病院が機能停止した
アフガニスタン。稼働しているMSFの病院に多くの患者が
訪れた © Nava Jamshidi

中立な人道援助を届けるために

さらに、「対テロ」法や制裁の形をとらずとも、政府の対抗勢力がいる地域への援助活動が、国の政策によって制限される事例もあります。

例えば、ミャンマーでは2023年5月、サイクロン「モカ」によって甚大な被害を受けた西部ラカイン州での活動を、軍事政権が制限。MSFが地域の約46万人を対象に提供していた医療援助活動も中断を強いられました。

2025年末には、イスラエル当局がパレスチナ・ガザ地区とヨルダン川西岸地区で活動する37の国際NGOに対して登録抹消を発表し、60日以内に撤退するよう迫りました。MSFは現地スタッフによる活動は続ける一方で、国際派遣スタッフの撤退を余儀なくされ、援助物資の搬入も阻止されるようになりました。
ミャンマー・ラカイン州の国内避難民キャンプ。<br> サイクロン「モカ」に襲われた後も、暴風雨による被害が<br> 各地で起きていた=2023年6月21日 © MSF
ミャンマー・ラカイン州の国内避難民キャンプ。
サイクロン「モカ」に襲われた後も、暴風雨による被害が
各地で起きていた=2023年6月21日 © MSF
こうした状況を変えるため、MSFは2016年から国連や各国に向けて、対テロ法や制裁などの規制対象から人道援助を除外するよう呼びかける活動を続けています。
 
働きかけの積み重ねによって、2022年12月には国連安保理で、国連の制裁措置から2年間、人道援助を除外する決議が採択されました。また、2023年6月にはカナダの対テロ法から人道援助を除外する法改正が実現しています。
 
MSFは現在も、さまざまな形をとって人びとと人道援助の間に立ちふさがる障壁に対して声を上げ、人道アクセスの確保に取り組んでいます。
パレスチナ・ガザ地区では援助物資の搬入が<br> 著しく制限され、住民は命懸けでわずかな<br> 物資配給の場に集まった=2025年7月 © MSF
パレスチナ・ガザ地区では援助物資の搬入が
著しく制限され、住民は命懸けでわずかな
物資配給の場に集まった=2025年7月 © MSF

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