新型コロナウイルス:患者受け入れ態勢の強化と地域での啓発活動をレバノン国内で実施

2020年04月16日
現地で研修にあたっているMSFスタッフ © MSF
現地で研修にあたっているMSFスタッフ © MSF

国境なき医師団(MSF)は、レバノンにおいて、従来の医療活動をほぼ維持していくと同時に、新型コロナウイルス感染症への対応活動を展開し、感染リスクの高い人びとへの医療活動を強化している。

レバノンでMSF活動責任者を務めるアムリ・グレゴワールは語る。「MSFは、これまでの緊急援助活動や感染症対応の経験に基づいて、治療の優先順序を決めるトリアージと、事前のスクリーニングを全ての診療所で開始しました。患者とスタッフをこの感染症から守るためです。MSFの活動地域は、人口密度が高く、人びとの健康状態も良好とは言えません。医療を受ける機会も狭まっているため、この感染症にもかかりやすい状況にあります」

MSFは、保健省などと連携しながら、新型コロナウイルス感染症に関して、(1)MSF医療施設の調整、(2)地元住民への啓発活動、(3)公立病院へのサポート、という3つの対策をとることにした。

全国でベッド増設へ

入院用ベッドの需要が高まっていることを受けて、MSFは自らの医療施設における医療活動を拡大させることで医療体制をサポートしている。

前出のグレゴワールは語る。「流行が本格化したら、現在ベッカー県にある病床数だけでは足りなくなるのではないかと気がかりです。MSFの医療施設でも、患者を受け入れられるよう準備を進めています。レバノンの人びとだけではなく、シリア難民やパレスチナ難民など、県内に住む様々な人びとのニーズが高まっているのです」

県都のザーレ市内には、MSFが小児科病棟を運営するイリヤース・ハラーウィー国立病院がある。この病院は、新型コロナウイルス感染症の治療拠点となっており、MSFスタッフが小児患者のトリアージ、スクリーニング、検査、治療を実施する形で、病院をサポートしている。コロナウイルス感染の疑いなしと判断された子どもについては、病院敷地の外にテントを張り、そこで治療にあたっている。MSF病棟には、入院患者用病床と小児集中治療室も整備されている。態勢が整えば、新型コロナウイルス感染症の小児患者を受け入れる予定である。保健省スタッフは、成人に関するトリアージ、検査、入院業務を担当する。子どもたちが新型コロナウイルスに感染しないよう、サラセミア(貧血をもたらす遺伝性疾患)に関する治療ユニットは、別の区域に移す予定である。

また、同病院において、新型コロナ用の救急処置室を病院敷地内に屋外設置した。以前は、事前のトリアージと成人患者用に使われていた場所で、待合室と検査区画がある。

ザーレ市内の町バールエリアスでも、MSFは病院を運営している。通常は非緊急手術や外傷治療にあたっているが、現在は、新型コロナウイルス感染症患者の受け入れに向けて準備を進めている。病床数63の規模で集中治療室も設け、200人以上の医療従事者が動員される予定だ。今後、新型コロナ患者が大勢押し寄せる事態に備えて、MSFは非緊急手術の業務を中断しているが、外傷治療に関しては、定期包帯交換などを中心にして現在も続けている。院内の動線を分けるため、これらの患者は、院外に張られたテントで受け入れる。

国立病院との連携

2008年以来、MSFはレバノン各地で活動を続けてきた。その実績が、新型コロナ対策にあたって公立病院などの医療関係者と連携する上で活かされている。MSFは、病院内における活動に加えて、複数の国立病院と連携を図り、医療物資の流通・供給をサポートしてきた。加えて、病院スタッフ向けの研修にもあたってきた。

レバノン南部のサイダ国立病院では、MSFは医療機器の復旧をサポートしてきた。また、アル・ハムシャリ病院と在レバノンパレスチナ中部赤新月社病院については、技術面と物流面での支援にあたった。さらには、いずれの病院でも、スタッフを対象にした感染予防策・制御策に関する研修を実施した。

また、MSFは、感染者隔離施設として利用することが決まったシブリン研修センター(国連パレスチナ難民救済事業機関<UNRWA>に属する施設)にも医療チームを派遣した。施設運営をサポートするほか、スタッフを常駐させて、患者の経過観察や合併症患者の適時移送にあたっている。また、UNRWAスタッフを対象に、感染予防制御に関する研修会を実施している。 

地域への啓発活動

MSFは、レバノンの地域住民と難民を対象に、新型コロナウイルス感染症に関する集中健康講座を継続的に実施している。具体的な活動地域は、レバノン北部各地(トリポリ市とアッカール郡)、南部(アイン・ヘルワキャンプ)、ベイルート市南部(シャティーラキャンプとブルジバラジネキャンプ)、ベッカー県などとなっている。

この集中講座は3月初旬から実施している。現在まで数万世帯が受講した。MSFは、地元ボランティアたちの運営する啓発運動もサポート。石けんや貯水容器を配布して人びとが手洗いをすることで自分の身を守れるようにした。

ベイルート北部にある郊外地域ドラにおいては、MSFは人種差別反対運動を展開する地元団体と連携して、医療電話相談サービスを開設した。外出禁止令のさなか家事労働に従事する女性を中心に、移民向け医療支援を実施。この電話相談サービスでは、急病対応、医療カウンセリング、医療機関の紹介などにあたっている。

新型コロナウイルス感染症患者の大半は、入院治療を必要としていない。これは世界各地で共通している。こうした啓発活動と予防策を各地で実施すれば、病院の負担は大きく軽減できる。

MSFとしては、新型コロナウイルス感染症の対応活動を強化し、レバノン国内の医療従事者たちに協力していくことで、同国の人びとの健康に長期にわたって貢献していくつもりである。 

MSFが実施している現地での研修会 © MSF
MSFが実施している現地での研修会 © MSF

MSFがレバノンにおける活動を開始したのは1976年。当時、同国は内戦状態にあり、MSFにとっては、初めての紛争地域における活動となった。現在、MSFはレバノン各地で無償医療活動を展開している。 

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