遺伝性の貧血「サラセミア」治療を続ける難民の子どもたち

2019年07月18日

サラセミア———。サラセミアとは、遺伝性の溶血性貧血のことで、ヘモグロビン合成に必要な遺伝子の変異によって起きる病気だ。「サラセミア」という言葉は、ギリシャ語で「海」を意味する、「サラサ」という言葉が語源と言われており、レバノンやシリアなどの中東諸国と地中海沿岸で多く見られる。また、パキスタンやアフガニスタンなどでも患者が確認されている。変異した遺伝子の数が多いほど重症化し、治療が難しいことで知られている。日本では珍しいとされている病気だ。

国境なき医師団(MSF)は中東レバノンで、サラセミアになったシリア人難民の子どもたちを治療している。ベッカー県ザーレ市内にあるイリヤース・ハラーウィー病院の小児病棟で総合的なケアをする他、重症患者を治療している。 

輸血によって治療 だが…

輸血用の血液 © May AbdelSater/MSF輸血用の血液 © May AbdelSater/MSF

サラセミアの患者は治療を受けなかった場合、患者の平均余命はかなり短くなる。重症の場合は、定期的に輸血をし、足りなくなったヘモグロビンを補う必要がある。「でも頻繁に輸血すると合併症を引き起こすのです」と話すのは、MSFの医療マネージャー、アンバル・アライヤン医師だ。「何度も頻繁に行う輸血により体内に鉄が過剰に蓄積されたため、心臓や肝臓の病気を引き起こすことがあります。そのためサラセミア患者は、鉄キレート剤を使って体内の鉄分量を下げる必要があります」。

ベッカー県ザーレ市内にあるイリヤース・ハラーウィー病院の小児病棟では、MSFチームはまず、病気の診断から始める。親たちは、子どもがサラセミアになっていると分かっていることが多い。この病気は遺伝性であることから、親類がこの病気になっていることもあるからだ。血液検査を1回行えば、診断できる。また、子どもの顔色が悪かったり、弱っていたり、貧血の兆候が現れている場合にも、血液検査で原因を突き止めるとともに、ヘモグロビンの電気泳動によって、サラセミアかどうか確認する。

子どもたちの未来 不安

聴診器で遊ぶ4歳のアッバス © Joffrey Monnier/MSF聴診器で遊ぶ4歳のアッバス © Joffrey Monnier/MSF

4歳のアッバスも、サラセミアの患者だ。兄弟と一緒にMSFの小児科病棟で治療を受けている。サラセミアの治療は1日かがりになることもあり、MSFは、子どもたちが遊べるキッズゾーンを作った。少しでも気分を和らげてほしい、との願いをこめている。MSFは、子どもとその家族を、治療以外にもさまざまな面からサポートしている。例えば、医療相談やフォローアップなどだ。

治療では、輸血と適切な投薬もしている。投薬では、デフェラシロクスを第一選択薬として処方している。MSFは、血液サンプルを採って子どもの治療の経過を見守り、全身状態も観察する。他にも何らかの病気が見つかった場合は、適切な専門医に紹介している。また、親たちにも処方している治療薬について説明し、病気と付き合いながら、生活が送れることを説明している。

「チームにとって、患者のご家族と関係を築くことが何よりも大切です」と、MSF活動責任者のフーズィーア・バラは話す。

「子どもたちは結婚できず、将来が見えないと悩んでいるご両親もいます。お子さんたちは、病気とうまくつきあって生きていけますよ、とアドバイスすることで安心してもらっています」 

医療から遠い難民の子どもたち

輸血を待っているサラセミア患者の2歳の女の子(左奥)© Joffrey Monnier/MSF輸血を待っているサラセミア患者の2歳の女の子(左奥)© Joffrey Monnier/MSF

MSFは現在、64人の患者をザーレ市内の病院で治療している。患者は全員シリア人の子どもである。レバノンの医療制度は、レバノン国籍を持つ人しか利用できず、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の医療制度では対象外とされている。そのため、レバノン国籍のないシリア人の子どもたちは、どちらからも医療を受けられないでいる。MSFは活動を拡充し、2019年末までに、100人のシリア人の子どもを治療する予定だ。

だが、サラセミアの治療薬は値段が非常に高いので、それ以上の子どもたちは受け入れられないのが現実だ。だが、100万人を超えるシリア人がレバノンで暮らす今、サラセミアになっている難民の子どもも数多くいるものと考えられる。故郷シリアでは、特にサラセミアの罹患率が高い病気だからだ。シリア人の子どもたちを治療するために、もっと安く手に入る薬が欠かせない。

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