内戦下のイエメンで広がるコロナ不安とデマ 患者の治療が遅れる理由

2021年08月20日
イエメンの首都サヌアにて、MSFコロナ治療センターの医療マネージャー、サナ医師 © MSF/Majd Aljunaid
イエメンの首都サヌアにて、MSFコロナ治療センターの医療マネージャー、サナ医師 © MSF/Majd Aljunaid

内戦が続く中東イエメン。新型コロナウイルスの感染が拡大して1年以上が経ったが、同国ではいまもコロナ患者がなかなか治療まで至らない事情を抱える。感染者への偏見やデマ、治療施設の存在についての情報不足などが、人びとを病院から遠ざけているのだ。

病院へ行くことを恐れる

「症状が出ても自宅にとどまり、重症化してから運び込まれる患者もいます。それに多くの患者、特に遠くに住む方たちが、酸素投与もされずに搬送されてくるのです」

こう話すのは、首都サヌアにある新型コロナ専門の集中治療室で責任者を務めるサダム。国境なき医師団(MSF)は、このコロナ治療センターをアル・ジュムフリ病院内に設置した。

来院をためらう傾向があるのは、コロナ治療施設にまつわるデマが拡散していて、感染者への差別を恐れる人も多いため。イエメン市民の間で、デマによって「施設に入ったら注射で殺されるのではないか」「無理やり拘束されるのではないか」という不安が広がっているのだ。患者が入院したとしても、長引けば親類や友人に偏見の目で見られるのではないかと心配し、医師の指示に反する早期退院を望むケースも多い。

この国で、完全に機能しているコロナ治療施設はごくわずか。そのなかには不可欠な個人防護具もなく、医療従事者が抵抗感を感じながら働いている所もある。差別への恐れは、こうした数少ない治療センターへのアクセスさえ妨げる。

「うわさは嘘です。MSFの治療センターでは何も心配することはありませんでした」と話すコロナ患者のアリさん © MSF/Majd Aljunaid
「うわさは嘘です。MSFの治療センターでは何も心配することはありませんでした」と話すコロナ患者のアリさん © MSF/Majd Aljunaid
コロナ治療施設が地元にもあることを知らず、MSFのセンターへ3時間かけて来たムハンマドさん。無事回復し、息子に寄り添われながら退院 © MSF/Majd Aljunaid
コロナ治療施設が地元にもあることを知らず、MSFのセンターへ3時間かけて来たムハンマドさん。無事回復し、息子に寄り添われながら退院 © MSF/Majd Aljunaid

感染防止の知識を広めるために

この国では、コロナ予防対策があまり順守されていない。コレラなどの他の感染症とは違い、市民への啓発活動が十分になされていないことが一因として挙げられる。そのため感染しても、症状の重さを見極められず、早期の受診につながらないことも課題だ。

MSFは健康教育の活動を通じてこうした課題に取り組んでいる。健康教育の担当者は、世界中の医療に大打撃を与えているこの新たな感染症について、知識を伝え、誤解やデマに対処するために重要な役割を担う。だがチームの声が届く範囲は残念ながら病院施設内に限られ、そもそも来院を恐れている住民には届きづらいのが現状だ。

担当者のエブティサムは、「新型コロナに関する誤解を正し、自分を守る方法やいつどこで治療を受けるべきかなどを広く伝えるため、最善を尽くしています。また患者の恐怖心を和らげるために、医療スタッフとの信頼関係を築くサポートもしています。患者さんが元気になって退院される時、その効果を実感しています」と話す。

MSFコロナ治療センターのプロジェクトコーディネーターを務めるジル・グランクレマンは、「これは皆に関わる問題です。コロナの感染抑止に協力し、お互い感染しないようにすることは私たち全員の務めです。 マスクの着用や人との距離を保つこと、こまめな手洗いなど、ごく単純な衛生ルールの実践がとても大切なのです。そうした対策で新たな感染を防いでいけるでしょう」と呼びかけている。

高齢女性の手を握って介抱するMSFコロナ治療センターの看護師 © MSF/Majd Aljunaid
高齢女性の手を握って介抱するMSFコロナ治療センターの看護師 © MSF/Majd Aljunaid

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