新型コロナウイルスと熱帯暴風雨の二重苦 エルサルバドルに嵐が直撃
2020年06月15日5月31日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック対応で奮闘が続くエルサルバドルに、熱帯性低気圧「アマンダ」が直撃した。洪水、強風、豪雨により、約3万世帯が被害を受け、27人が死亡したほか、10人がいまだ行方不明となっている。国境なき医師団(MSF)は、首都サンサルバドル近郊にあり、被害が最も大きかった地域で緊急援助活動を開始し、サンサルバドルとソヤパンゴに25カ所の避難所を建てた。
「アマンダ」が残した壊滅的な打撃
「夜明けには水は私たちの膝まで来ていました。あたりのものをひっつかんで出ましたが、ほとんどすべて流されてしまいました」とエル・グランジェロII地区の住民は地域に訪問したMSFスタッフに話した。別の住民は壁の2メートルほどの高さの黒い点を指し、「この高さ、戸口の上まで川の水が流れ込んできたんですよ」と話した。
エル・グランジェロII地区とヌエバ・エスペランサ地区の通りと路地には災害の爪痕がはっきりと残されている。泥だらけでゴミと混ざったベッド、電化製品、個人の持ち物や車がアセルウアテ川に運ばれて行く。下水と産業廃棄物によってひどく汚染されている川だ。サンサルバドルやソヤパンゴの郊外では、土砂崩れのため一部の建物が全壊した。
日中は、エル・グランジェロII地区住民が老いも若きも残った家財を拾いだしている。夜になると、仮設避難所に泊まる人がいる一方で、盗難や新型コロナウイルスの感染を恐れて、壊れた家の湿った床の上で寝る人もいる惨状だ。
地元の住民か政府が設置した避難所では、一定の対人距離の確保や感染予防策はほとんど不可能だ。窓が少ない、水道管が倒壊している、トイレが足りない、水の供給が不安定など、課題は山積みである。
パンデミックと嵐に対応する心身のケアの重要性
このような状況のなか、大勢の人が不安や悲しみを抱え、心のケアを必要としている。
嵐で家財を失う前から、新型コロナウイルス感染症のまん延を防ぐべくエルサルバドル政府が決めた自宅待機命令に従い、定所得がなくなり、食べ物も不足するなど、経済的にも社会的にも打撃を受けていたためだ。
加えて、現地の治安の悪さが状況を悪くしている。
「エルサルバドル都市部の大部分はギャングの支配下に置かれており、暴力行為が医療体制を弱め、新型コロナウイルス感染症にまつわる偏見をあおっています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックの最中に現地を襲ったこの嵐で、多くの世帯は限界です」
MSFの心のケアマネジャーであるアナ・ポーラ・アブレウは、「自然災害は、被災者に重い心的外傷を引き起こすことがあります。自分の居場所はアイデンティティーの一部であるにもかかわらず、一瞬にして破壊されてしまうのですから。この時期に心理社会面の支援を受ければ、その分心の不調も防ぎやすくなるのです」と話す。
人びとは避難所で寝泊まりしたり、食料を受け取るため集団で集まったりするとき、新型コロナウイルスに感染するのではないかと恐れている。ある住民は言う。「みな靴を脱いで泥の上で家財を探しました。新型コロナウイルス感染症にならなかったとしても、発疹やらインフルエンザやら下痢やらで病気になることは間違いありません」
自宅待機命令の間、診療所では新型コロナウイルス感染症以外の診療は中止されているので、糖尿病や高血圧など慢性疾患患者は、医療を必要としているにもかかわらず受診できないでいる。
移動診療で活動しているMSFのセルジュ・ジョリー医師は言う。「とても危うい状況です。汚ない水に触れたり清潔な水は不足していますから、下痢の集団発生、細菌感染、呼吸器感染、皮膚病、“密”による新型コロナウイルス感染症拡大の恐れがあります。治療記録やカルテがなくなってしまったことも大きな問題です。患者は慢性疾患の自己管理ができなくなり、病状の悪化につながりかねないからです」
MSFはこの住民の二重苦に対応するべく、地域や避難所の住民とコミュニケーションを取りながら対応を続けている。