新型コロナウイルス:イラク、紛争の傷が残る街での感染症対策
2020年04月17日新型コロナウイルスの感染拡大は、欧米、アジアのみならず、中東でも急速に進んでいる。イラクでは感染者数がすでに1000人を超えた。紛争で苦難を強いられた人びとが、感染症で新たな苦しみを背負うことがないように——。国境なき医師団(MSF)はイラク各地で対策を進めている。
新たな感染者を出さないために
イラク国内の新型コロナウイルス感染例は、大半が首都バグダッドで確認されている。MSFは4月1日、イブン・アル・ハティーブ病院の支援を開始した。ここは、保健省がバグダッドにおける新型コロナウイルス感染症患者の受け入れ先として指定した、3つの病院の1つだ。
MSFは病院スタッフに向け、感染予防策や、患者の優先順序を決めるトリアージについて研修を行っている。こうした対策を通し、他の患者やスタッフの感染を防ぎながら、新型コロナウイルス感染症の患者へ適切な治療を施せるようにする。
「MSFの援助の最大の目標は、この病院が新型コロナウイルスの感染者にできる限りの治療を提供すると同時に、院内感染による新たな患者の発生を食い止めることです」イラクでMSF活動責任者を務めるシャウカト・ムッタキはそう話す。「この目標に向かって、MSFは病院のスタッフと協力していきます」
戦闘で打撃を受けた医療体制
首都以外の地域でも、地元の保健当局を支えながら活動を進めている。北部の都市モスルでは、アル・シファー病院がモスルを含むニネワ県の感染患者受け入れ病院に指定された。この病院は、数年前に戦闘で破壊され、昨年MSFが再建したものだ。MSFは、病院に隣接する敷地に、感染が疑われる人の隔離施設を建設した。
「この地域の保健医療体制は、2017年の戦闘で大きな打撃を受けました。住民がこれまでに強いられてきた苦難や喪失は計り知れません。新型コロナウイルスの流行で、彼らの困難に拍車がかからないよう、力になりたいと考えています」とムッタキは話す。
医療を届け続けるために
クルド人自治区の都市アルビルでは、この感染症の指定病院となった保健省管轄の3つの病院への協力を開始した。感染予防・制御策、患者のトリアージ、精神保健に関する専門的な支援の提供を進める。
MSFは新型コロナウイルス感染症以外にも、弱い立場に置かれた人びとへの保健医療援助を各地で継続している。その内容は、外科・新生児科・小児科・産科・救急ケア、非感染性疾患の治療、心のケアなど多岐に渡る。既存プロジェクトの患者とスタッフの感染リスクを抑えるための予防策も導入している。
ムッタキはこう語る。「MSFはイラク各地の極めて弱い立場にある大勢の人びとに、日々、医療援助を届けています。物資と人員の円滑な移動を促し、これまで通り、患者の皆さんに確実に支援を届け続けなければなりません」