新型コロナウイルス:感染が急拡大するキルギス へき地での取り組みとは
2020年08月11日掲載
キルギスにて、新型コロナウイルス感染症の説明会を開催するMSFスタッフ © MSF
中央アジアに位置するキルギス。首都のビシュケクを中心に新型コロナウイルスの感染者が急増し、同国内では4万人余りにのぼると報告されている(世界保健機関・8月10日現在)。国土の大部分を山岳部が占めるキルギスにおいて、地方ではどのような予防対策が図られているのか。
慢性疾患の罹患率が高い地方

キルギスの医療システムは十分な水準にあるが、近年は資金が削減されたことから、大都市以外の地域では質の高いサービスを維持できなくなっている。またこの国では、慢性疾患により長期的な治療を要する患者の割合が非常に大きい。
南西部の風光明媚なカダムジャイ地区は、過酷な土地だ。診療所までの道のりは長く、新型コロナウイルスの脅威がなくとも、医療はなかなか手に届かない。キルギスでは5歳未満の子どもと妊婦への処方薬は無料だが、医療保険の対象となる薬はわずかなため、薬代の工面に苦労する人は多い。仕事の機会も収入も少なく、大勢の人が治療費を捻出できずにいる。
国境なき医師団(MSF)は、同国内でも慢性疾患を患う人が特に多いカダムジャイで、4年前から医療援助を提供してきた。保健省と密に連携しつつ、糖尿病や高血圧、子どもの間で広がる貧血などのスクリーニング検査や診断、予防で地区の保健局を支援している。
MSFは既存の医療設備の改修や修理を行い、超音波や低温凝固装置などの診断機器の使用方法や、治療ガイドラインを遵守するための研修を保健省スタッフに行ってきた © Maxime Fossat/MSF
へき地に忍び寄る新型コロナの脅威
キルギス国内で新型コロナウイルス感染者が急増する中、カダムジャイ地区は依然として最悪の事態には至ってはいない。MSFは既存の医療サービスを調整し、この地域での感染防止対策を進めている。
これまでもMSFチームは、自宅訪問での診療を一部実施していた。だが新型コロナウイルスの流行が始まってからは、往診や携帯アプリを利用した遠隔相談がもはや主流となった。
「診療所に人が密集しないよう、子どもや産後ケアを必要とする母親、そして特に新型コロナウイルスとの合併リスクが高い慢性疾患の患者に対して、自宅訪問を増やしました。産前ケアやその他の診療では、携帯電話のビデオ通話を利用しています」とMSF活動責任者のケヴィン・コポックが説明する。
山岳部が大きく占めるカダムジャイ。新型コロナウイルスの感染対策を強化するため、MSFは専門的な助言から、設備面での援助や健康教育、疫学的調査のデータ収集に至るまで、地元の保健局をサポートしている。
また4つの主要病院に、感染予防と管理に関するアドバイスや、研修、消毒剤、医療スタッフへの個人防護具などを提供している。さらに慢性疾患の患者を守るため、4500枚余りのマスクを配布した。
MSFの小児科医と保健省の看護師らが、産後ケアで母親と生後8日目の赤ちゃんを家庭訪問 © Maxime Fossat/MSF
新型コロナウイルスは医療の不公平さへの警鐘
MSFによる基本的な医療サービスのほとんどは継続されているが、感染拡大を避けるうえで、中断せざるを得なかったものもある。「カダムジャイ地区は慢性疾患の患者が多いため、リスクにさらしてしまわないよう細心の注意を払っています」とコポックは言う。
子宮頸がん検診は中止したサービスの一つだ。キルギス人女性にとって代表的な死因である子宮頸がんだが、予防や検診などの対策は進んでいない。そのためMSFはアイダルケン市で、子宮頚部の治療を含め、検診サービスを行ってきた。しかし当面は中止を余儀なくされている。コポックは「引き続き新型コロナウイルス感染を見守り、状況が許せばすぐに活動を再開する」という。
一方で、国内の感染中心地では、医療従事者の感染率の高さが懸念される。「今回のパンデミック(世界的流行)以前から、へき地では特に医療分野の人材が不足していました。その中で病に倒れる医療者が出てくれば、代わりとなる人はいません」と疫学専門家イサメディンは指摘する。
新型コロナウイルス感染症への対策に多大な資金と労力が注ぎ込まれる中、医療の質を維持することはいっそう厳しくなりそうだ。またこの地域には国外への出稼ぎに頼る家庭も多く、送金の枯渇によって経済的な打撃を受けた人びとは、保健医療を利用する機会をさらに失う恐れもある。
コポックはこう訴える。「国と国の間でも、そして国民の間でも医療は平等なものではありません。新型コロナウイルス感染症は、その不公平さを減らす警鐘として捉えるべきなのです」
MSFが支援するキルギス・アイダルケンの病院 © Maxime Fossat/MSF
MSFは1996年からキルギスで活動を開始。直近ではオシ州カラ・スー地区にて、薬剤耐性結核(DR-TB)治療で分散化モデルを実用化する保健省をサポートした。スマホ撮影による服薬遵守確認などの革新的な診療法の導入に協力したほか、毒性が比較的低く従来よりも短期の新薬投与計画の推進や、症例検知の向上にも携わる。また心理社会面でのケアの一角も担っている。MSFの援助により、1万1000人余りが自動遺伝子解析装置「GeneXpert」でのDR-TB検査を受け、705人前後が治療を開始した。
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