新型コロナウイルス:南アフリカ共和国の人口密集居住区に専門仮設病院を開設
2020年06月11日南アフリカ保健省は5月、新型コロナウイルスの感染率が現在のまま推移すれば6月末までに同国の病床数が足りなくなる可能性があると警告。これを受けて国境なき医師団(MSF)は6月1日、南アフリカ第2の都市であるケープタウン内の人口密集居住区カエリチャに、保健大臣立ち会いの下、新型コロナウイルス感染症専門の仮設病院を設置。その翌日には新型コロナウイルス感染症の患者を24人受け入れた。
地域で最も打撃を受けているカエリチャの住民のために
カエリチャは3月下旬に南アフリカの黒人居住区として初めて新型コロナウイルスの感染者が確認された地区であり、以来、数多くの感染者が確認され続けている。カエリチャでは推定50万人の住民の半数以上が折り重なるようにして小屋や仮設住居で暮らしている。失業率は住民全体の42%に達し、60%は水道がない家に住んでいる。極度の貧困の中、新型コロナウイルスの感染者数は5月の1日当たり約25人から6月には1日当たり150人を超えた。600%もの激増という警戒水準だ。
HIVと結核の患者ケアと並行して対応する必要性
「私たちは、この深刻な人道危機への対応を支援するためにここにいます。しかし、対象は新型コロナウイルス感染症患者だけではありません。地域で最も多い2つの慢性疾患、HIVと結核の診療を維持しつつ、新型コロナウイルス感染症治療に取り組んでいます」とカエリチャでMSFの健康教育チームマネジャーを務めるノムプメロロ・ゾクファは説明する。
MSFは20年以上にわたってカエリチャ地区で活動。HIVや薬剤耐性結核のあらゆる段階の感染者を支えるため、革新的な治療戦略を実施してきた。だが、同国の医療体制が新型コロナウイルス感染症、HIV、結核で手一杯になるにつれ、現地の医療活動にも混乱が生じている。新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために移動を制限すれば、患者は自宅から診療所へ薬を取りに行くどころか、感染リスクを理由に検査を受けることさえ恐れるようになる。事実、診療所を訪れる人びとは少なくなっている。また、結核で来院する人の多くは、症状が似ているため、新型コロナウイルス感染症と誤認されている可能性もある。
「HIVや結核の診療を含めた必須医療が全般的に悪影響を受けています」とMSFの医療コーディネーターで医師のローラ・トリビーノは説明する。
「新型コロナウイルス感染症の対応として“密”を避ける必要があります。そして重症化しやすい人を守る対策の一つは、今回のように感染源になりやすい診療所の外に専用の診療を移すことです。加えて、MSFは地元当局がHIVと結核の患者に従来よりも長期間分の薬を渡すための支援をしていて、患者さんの自宅まで薬を届けることもしています。また、新型コロナウイルスのスクリーニング検査を行う医療機関を支援し、病院に訪れる他の受診者が感染する事態を防いでいます」
南アフリカの保健省もMSFをはじめとする支援団体の協力を得て、新型コロナウイルス感染症とHIVと結核対応の間でバランスを取り、これまでのニーズが忘れ去られないよう努めている。
だが、新型コロナウイルス感染症対策によるHIVと結核の診療に混乱を招く事態を完全に防ぐためには、この感染症の対応にあたりつつもHIVや結核の検査にさらに迅速かつ効果的に取り組くんでいく必要がある。
「対策に乗り出した保健省を私たちは支援してきました。ここ数年間にHIVと結核への対応で重ねてきた経験を、決して無駄にはできないからです。新たなことも学びながら、過去も活かしながらも、何をするにあたっても、常に地域を最優先に考えるようにしています」とトリビーノ医師は結んだ。