新型コロナウイルス:ロックダウンで中絶手術が手遅れに。コロナ禍で女性たちが直面する命の危険

2020年07月10日掲載

性暴力を受け、MSFの医療施設で診療を受ける女性(南アフリカ)=2018年 © Melanie Wenger/Cosmos 性暴力を受け、MSFの医療施設で診療を受ける女性(南アフリカ)=2018年 © Melanie Wenger/Cosmos

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が、世界中の女性と少女の命に深刻な影響を及ぼしている。感染拡大を抑止するためのさまざまな政策が実施された結果、女性たちがリプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)の受診を断られたり後回しにされたりして、命の危険にさらされるケースが相次いでいるのだ。またコロナウイルス感染への恐怖から、人びとは医療機関に足を運ぶことをためらい、受診率自体も落ちているという。
 
2014年から2016年にかけて西アフリカでエボラ出血熱が流行した際、私たち国境なき医師団(MSF)は重要な教訓を得た。それは「女性と少女の生活にとって最大の脅威はエボラウイルスではなく、通常診療の停止と医療機関受診への恐怖である」ということだ。エボラの流行地では、安全な分娩、新生児ケア、妊娠をコントロールする家族計画相談が利用できなくなった結果、数千人の命が失われた。そして今、同じ事態が当時をはるかに上回る規模で起きている。
 
MSFには、世界中で医療活動に当たっている各チームから、パンデミックによって引き起こされた女性たちの苦痛の声が届いている。南アフリカ北西州のルステンブルク市で、MSFの妊娠中絶と家族計画活動のマネジャーを務めるカガラディ・ムファレレに、「避妊や安全な中絶に新型コロナウイルス感染症はどう影響しているのか」そして「なぜリプロダクティブ・ヘルスケアが常に必要不可欠なのか」について、話を聞いた。

ロックダウンで制限される医療受診

妊娠中絶と家族計画活動のマネジャーを
務めるカガラディ・ムファレレ 
© Gift Radebe/MSF妊娠中絶と家族計画活動のマネジャーを
務めるカガラディ・ムファレレ 
© Gift Radebe/MSF

チオレツォさん(仮名、35歳)は、人工妊娠中絶を希望して診療所を訪れました。ところが既に妊娠27週と、中絶が可能な時期をとうに過ぎていました。

どうして受診するまでにこんなに長く待ったのかと聞くと、「当初3月27日に中絶手術を予定していたが、その日は新型コロナウイルスによる全国的なロックダウンの初日だったため、診療所に来ることができなかった。1週間後に再度受診しようとしたが、保健省の警備員に『今は中絶は受けられない、ロックダウンが終わってから来るように』と追い返された」というのです。

その後移動制限が引き下げられたため、今日になってようやく診療所を受診できましたが、既に中絶するには手遅れでした。

チオレツォさんは「自分には仕事がなく、家には養わなければならない子どもたちがいる。何とか助けてほしい」と言います。でも私にできたのは、カウンセリングを行ってからソーシャルワーカーを紹介することだけでした。コロナ禍での移動制限が、女性を必須医療から遠ざけた本当に悲しい例です。
 

安全な中絶は救急医療である

パンデミックの影響を受け、ルステンブルク市の医療機関の多くは安全な中絶を中止した。人工妊娠中絶は待機手術とされたため、保健当局が出したガイドラインでは続けてはいけないものとされていたからだ。また、看護師がリプロダクティブ・ヘルスケア科から新型コロナウイルス感染症プロジェクトに配置転換されるなど、性と生殖に関する医療の優先順位は低い。

この状況に対しMSFは、保健省、病院、地域の診療所に向けて声明を発表。「妊娠中絶は待機手術ではない。リプロダクティブ・ヘルスケアは必須医療であり、安全な中絶は救急医療として扱うべきだ」と明言した。

ムファレレは語る。「安全な妊娠中絶は医療行為だと私は思っています。最終的に自分の体をどうしたいかを決めるのは女性自身です。私たちはパンデミックの最中にも、女性が常に安全な中絶を受けられるよう徹底していかなければならないのです」 

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