新型コロナウイルス:エルサルバドルで増加する死者数 その要因とは

2020年07月22日
エルサルバドルでは医療が崩壊し、救急医療を必要とする患者を病院で受け入れられない © Alejandra Sandoval/MSF
エルサルバドルでは医療が崩壊し、救急医療を必要とする患者を病院で受け入れられない © Alejandra Sandoval/MSF

中米で一番小さく、人口密度が最も高い国、エルサルバドル。首都サンサルバドルの都市圏で、新型コロナウイルス感染症による死者数が増加している。首都とその近郊で医療活動を行う国境なき医師団(MSF)は、その主な要因を分析した。

救急隊の到着を待たず、自宅で死亡

「医療は既に危機的な状況で、病院ではこれ以上の患者を受け入れるのが厳しくなっています。各地域からの報告によれば、基礎医療の停止による死亡者も増えていて、懸念は募るばかりです」と、MSFプロジェクト・コーディネーターを務めるルイス・ロメロ・ピネーダは言う。

エルサルバドル政府は3月、新型コロナウイルスの世界的流行により非常事態宣言を発令。それを受け、保健省は病院などでの基礎医療の大半を停止した。だがMSFは、サンサルバドルと近郊のソヤパンゴ市で医療活動を続けている。これらの市は国内でも特に人口が多く、感染拡大の中心地だ。

MSFの救急隊は、新型コロナウイルス感染症で状態が急激に悪化した患者を目の当たりにしてきた。

「私たちが到着した時には、患者が既に亡くなっていたというケースがよくあるのです。昨年の前半期は11例でしたが、今年は37例に達し、6月だけでも18例に上ります」。MSF医療活動マネジャーのアンヘル・セルメーニョが詳細を明かす。

「主な死因は代謝異常、または呼吸器や心臓の障害で、昨年の4倍にあたります。また、非定型肺炎あるいは新型コロナウイルス感染症が疑われる呼吸器合併症も、4例ありました」

汚名を着せられることや感染への恐れから、病院に行きたがらない人は多い。入院することになれば、病気持ちだと非難されたり、家族と引き離されたりする不安もある。だが、それが致命的な事態を招くことにもなっている。

MSFが基礎医療と心のケアを提供するソヤパンゴにて。街を歩くMSFの心のケアスタッフ © Alejandra Sandoval/MSF
MSFが基礎医療と心のケアを提供するソヤパンゴにて。街を歩くMSFの心のケアスタッフ © Alejandra Sandoval/MSF

行政機関との調整で遅れる救急搬送

自宅での死亡率の増加は、新型コロナウイルス感染症がいかに大きな負荷を医療制度にかけるかを示している。MSFが行った救急搬送のデータを分析したところ、ここ数カ月の死亡率増加の要因として、次のような点が挙げられた。

  • 基礎医療を受けられず、慢性疾患を持つ患者は症状が悪化
  • 救急搬送と病院、ともに対応能力の限界まで稼働
  • 地域の新型コロナウイルス感染者を発見する仕組みが、国とうまく連動しておらず、合併症患者への対応が遅れる

MSFが基礎医療を提供するソヤパンゴおよびサンサルバドルでは、非常事態宣言後に新型コロナウイルスの感染が疑われる症状で亡くなった人と、慢性疾患の治療が受けられずに亡くなった人は、合わせて50人余りいると報告されている。

「患者を治療センターへ搬送するには、公衆衛生局からの承認を待たなければなりません。その間に亡くなってしまう患者もいます。その事前の調整と承認なしには、患者を自宅から動かすことができないのです」。そう訴えるのは、MSFの救急搬送に携わる医師のウェンディだ。

ピネーダも加えて指摘する。

「必要なのは調整の仕方を改善し、利用可能なベッド数を増やして、患者とスタッフの安全を確保するために病院内での防護策を徹底すること。それと、重篤患者の救急搬送サービスの対応能力を高めることも重要です。また基礎医療を継続し、新型コロナウイルス感染者の発見と経過観察を向上させ、それ以外の病気が重症化しないようケアし続けなければなりません」

エルサルバドルでMSFは基礎医療や心のケアのほか、強制送還者の抑留施設における心理・社会面の支援を継続し、救急医療の搬送サービス拡充にも携わっている  © Alejandra Sandoval/MSF
エルサルバドルでMSFは基礎医療や心のケアのほか、強制送還者の抑留施設における心理・社会面の支援を継続し、救急医療の搬送サービス拡充にも携わっている  © Alejandra Sandoval/MSF

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