新型コロナウイルス:イスラエルとパレスチナ ワクチン接種に大きな格差が

2021年03月03日掲載

パレスチナ・ヨルダン川西岸地区での移動診療活動 © MSF/Katharina Langeパレスチナ・ヨルダン川西岸地区での移動診療活動 © MSF/Katharina Lange

そのスピードと接種率の高さから、世界から注目を集めているイスラエルのワクチン接種。しかし、隣接する地域に住む人びとに目を向けると——。パレスチナ・ヨルダン川西岸地区で新型コロナウイルス感染症の医療チームリーダーを務める、国境なき医師団(MSF)の看護師マティアス・ケネスが、矛盾に満ちた現実を前に思いをつづった。(2021年2月22日時点) 

届かないワクチン 占領国の責任は

医療チームリーダーの
マティアス・ケネス 
© Albert Masias/MSF医療チームリーダーの
マティアス・ケネス 
© Albert Masias/MSF

イスラエルは、人口の半数に当たる約420万人に初回接種を行い、人口の約3割に当たる280万人には2回目の接種を終えました。

その一方で、ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人が暮らす地域にはわずか数千回分のワクチンしか届いていません。ガザで2月半ばに到着したと報じられた2万回分も、焼け石に水です。ロシア製「スプートニクV」ワクチンとモデルナ社製ワクチンが、合計3万5000回分すべて利用できたとしても、パレスチナ人の約0.8%しか接種が受けられません。パレスチナにいると、予防接種を受けられる可能性はイスラエルの60分の1以下しかないのです。

イスラエルはパレスチナの占領国として、「感染症や病気の流行対策に必要な予防・予防措置の採用と適用」を含め、「利用可能な手段の最大限の範囲で」占領地域の住民へ医療の供給を徹底する責任を持っていることが、ジュネーブ条約で定められています。 

不公平で残酷な現実

 昨年12月、流行の第二波がヨルダン川西岸地区を襲った際、MSFの支援先であるドゥラ病院は新型コロナウイルス感染症の患者さんであふれていました。そのほとんどは高齢者で、糖尿病やその他の慢性疾患などの基礎疾患を持っている人が多くいたのです。目の前で大勢の患者さんが亡くなったことに、とても心が痛みます。

ヨルダン川西岸地区11県のうち8県で新型コロナウイルス感染症の症例数が再び増え、ヘブロンでも、この4週間、緩やかですが着実に増えています。低酸素状態に陥って亡くなっていく患者さんを、これ以上見たくありません。ワクチンはそうした事態を避ける望みの綱ですが、その一方で、絶望の源でもあります。

数キロ先のイスラエルでは、感染リスクが高い層は予防接種を済ませたので、当局は健康な大人や若者への予防接種を計画中です。合併症などの感染リスクが低い人たちが該当します。ヨルダン川西岸地区には、5000人分に相当する約1万回分のワクチンがあります。私が働いている病院ではスタッフも接種を受けられます。しかし、西岸地区のパレスチナ領に入ってくる量では、医療従事者はおろか、高齢者や、新型コロナウイルスで死に至る恐れのある病状の人にも行き渡りません。

なぜパレスチナでは、感染リスクが高い人が予防接種を受けられないのか? そう聞かれたら、どう答えたらよいのでしょうか。説明がつかず、信じ難いことです。そして何より、不公平で残酷です。

さまざまな仕組みを通してパレスチナに届く追加ワクチンの情報は入ってきますが、いまの時点でここに届いたものはありません。そして、車で30分もすれば着くイスラエルでは、ワクチンを山積みにして、感染リスクの低いグループへの予防接種に移っているのです。

より深刻なガザ地区

私も怒っていますが、ガザの同僚たちはもっと怒っています。私が勤務していたヘブロンのドゥラ病院では、新型コロナウイルスの対応に必要な物は、ほぼ全て手に入りました。それに、MSFチームは、酸素を必要とする重症患者の容体管理に当たるスタッフのスキルアップのため、実地指導や研修を行うことができていたのです。

しかし、ガザは深刻な医療物資や医薬品不足に直面しています。イスラエルによって封鎖されているからです。医療機関では新型コロナウイルス感染症患者をわずかしか受け入れられないため、その分ワクチンが必要なのです。

しかし、最近届いた2万回分のワクチンでは、医療従事者どころか、最も感染リスクが高い人の数にさえ届かないのです。

占領国のイスラエルには、何百万回分ものワクチンがある一方で、占領下に置かれた自治区パレスチナには、わずかなワクチンしかありません。医療従事者としては、誰がこの問題を解決しようと構いません。しかし、最も感染リスクが高い人が優先されるかどうかが大いに気かがりです。パレスチナでは、予防接種を受けられる率はイスラエルの60分の1——。リスクが高い人の命さえ、パレスチナでは守られていません。恥ずべき事態だという思いでいっぱいです。

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