新型コロナウイルス:「毒薬注射」「人体実験」——世界に広まるデマに対抗するための「カギ」とは
2020年07月16日
新型コロナウイルス感染症の流行が始まって以来、コロンビアやイエメンをはじめ、世界各地でこの病気に関するさまざまな「うわさ」が飛び交っている。
特によく聞かれるのが、カリブ海に位置するハイチでまことしやかにささやかれている「コロナウイルス関連の死者数を増やしてより多くの国際援助を受けるために、病院で毒薬を注射している」「病院ではコロナウイルスワクチン開発のための人体実験が行われている」などといった内容だ。
首都ポルトープランスで活動を行う国境なき医師団(MSF)の健康教育チームは、日々そのようなデマに対抗し、事実に即した正しい情報を人びとに提供している。しかし、一度定着してしまった思い込みを覆すのは容易ではない。
根拠のないうわさを恐れて重症化するケースも
ポルトープランスのドルイヤール地区にMSFが開設した新型コロナウイルス感染症治療施設には、根拠のないうわさを恐れて受診を先延ばしにした患者が、危篤状態となって運び込まれてくる。5月半ばから6月半ばまでに同施設で受け入れた132人のうち、12人が到着時に既に亡くなっていたか、もしくは到着後24時間以内に命を落とした。
新型コロナウイルスに感染し、MSFの施設で治療を受けたシドさん(49歳)は自身の体験を次のように語る。
1カ月ほど熱が続いたため、病院に行きました。2人いる子どもの1人と妻も熱があったのですが、私より先に治っています。初めは植物で作った伝統的な薬を飲み、自宅療養をしていました。外国から来た人との接触もなかったので、コロナウイルスにかかっているなんて考えもしなかったからです。
信頼はうわさに対抗するための武器
人びとの多くは、一方でウイルスの存在を否定しながら、他方では病気に恐怖感を抱いている。そこでMSFの健康教育チームは、病気の存在や実践すべき予防策、手遅れにならないよう受診する必要性を住民に周知すべく戸別訪問を行った。大勢で集まることはできないため、少数への情報提供にならざるを得ないが、逆に一人ひとりとじっくり話しができるというメリットがあり、さまざまなうわさが飛び交っている現状ではそうした周知が欠かせない。
人びとがこの病気の特徴と感染経路を理解すれば、日々の生活で特に危険な状況を見分けられ、それに応じた予防策を講じることが可能だ。信頼はうわさに対抗するための武器となる。正しい知識を伝えるため、MSFは活動先の地元の人びとと積極的に言葉を交わし、信頼関係を築くよう努めている。
