新型コロナウイルス:「明日ついに退院です」治療を受け無事に回復へ—— イエメンからの報告

2020年07月20日
イエメンのシェイク・ザイード病院で患者のケアをするMSFの看護師 © MSF/Maya Abu Ata
イエメンのシェイク・ザイード病院で患者のケアをするMSFの看護師 © MSF/Maya Abu Ata

医療物資の不足、スタッフ自身の感染のリスク……。様々な困難の中で国境なき医師団(MSF)が世界中で進めている、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の医療援助。厳しい活動の中でスタッフの希望になるのは、一人一人の患者が苦しみから脱し健康を取り戻すことだ。

治療を受けて命の危機から回復した男性の声と、治療に携わるスタッフの思いを、イエメンの首都サヌアのシェイク・ザイード病院から伝える。 

「24時間体制の看護を受けて、今は熱も呼吸困難もなくなりました」(ナビルさん 40歳男性)

息苦しさと発熱が続き、もしかしたら新型コロナウイルスに感染したのではないかと心配になりました。はじめに私立の病院を3つ渡り歩きましたが、どの病院でも私には費用が払えず治療を受けられませんでした。そして、(MSFが無料で医療を提供している)シェイク・ザイード病院に行き着いたのです。
 
ここに入院した時は、呼吸困難のため常に酸素吸入が必要な状態でした。歩くことがおぼつかないばかりか、嗅覚も味覚もなく、食事もとることができませんでした。しかしここで医師と看護師の皆さんに24時間体制で治療を受け、19日経った今は熱も呼吸困難もまったくなくなりました。歩くことも食べることもできるようになって、回復を実感しています。そして明日、ついに退院できることになりました。
 
退院したら、新型コロナウイルスが疑われる症状が出たら早めに病院に行くべきだと、地元の人たちに勧めようと思います。手遅れになる前に動かなければなりません。現に私がこのように治ったのですから。 

新型コロナウイルス感染症から無事に回復し、退院が決まった40歳の男性 © MSF/Maya Abu Ata
新型コロナウイルス感染症から無事に回復し、退院が決まった40歳の男性 © MSF/Maya Abu Ata

「私は医師。家にとどまるわけにはいきません。できる限りの治療を施すことが責務です」(医師/アブドゥルラフマン)

自分自身が新型コロナウイルスに感染するリスクは確かに心配です。しかし、私は医師です。家にとどまっているわけにはいかないのです。私がなすべきことは、毎日この病院に通い、できる限りの治療を施すこと。それこそが私の責務です。感染は病院の中でも外でも起こりえます。感染を防ぐため、衛生指針に従って自らを守っています。
 
私たちは今、うわさや誤った情報が人びとのウイルスへの恐怖を増大させ、多くのイエメン人が症状が深刻になるまで治療を受けようとしないなど、悪影響を及ぼしているのを目の当たりにしています。現在も集中治療室では、病状がかなり進行し早急に酸素治療の必要な患者さんに対応しています。60歳以上だったり、糖尿病、高血圧、心血管疾患、心臓病などを抱えたりしている患者さんで、よりいっそうの注意と継続的な観察が必要です。
 
医療用酸素の消費が激しく、集中治療室の重篤患者さんでは1日にボンベ10本を使う場合もあります。空になったボンベはすぐに取り換えなければなりません。重篤な症例では2時間半ごとに交換が必要な時もあり、患者さんとモニター機器と酸素流量計から一時も目が離せません。  

集中治療室で治療に当たる医師のアブドゥルラフマン © MSF/Maya Abu Ata
集中治療室で治療に当たる医師のアブドゥルラフマン © MSF/Maya Abu Ata

「もちろん不安を感じる時もあります。そんな時は——」(看護師/モハメド)

6月からこの病院で看護に当たっています。もちろん、ここで働くことに不安を覚える時もあります。そんな時は、昨年タイズ市で従事したコレラの緊急対応のことを思い出します。当時、私たちはコレラの病気と症状について分からない点が多く、今よりも不安を感じていました。しかし今、この病院には私たちを守るための装備も予防策も整っているので、安心して働くことができます。
 
ここで診る患者さんの多くが、病気の進んだ状態で救急処置室に搬送されます。大部分が高齢の方で重体です。複数の病院をたらいまわしにされたため、ここに行き着くのが遅れたという方もいました。
 
私たちは患者さんを24時間体制で見守り、解熱鎮痛薬や抗生物質など必要な薬を投与しています。また、呼吸不全にならないよう、酸素飽和度を90%より高く保つなど最善を尽くしています。
 
病気から回復し、集中治療室から一般病床に移る患者さんも増えていて、それが私たちの希望と意欲につながっています。  

防護具を身に着ける看護師のモハメド © MSF/Maya Abu Ata
防護具を身に着ける看護師のモハメド © MSF/Maya Abu Ata

「神経をすり減らす仕事ですが、治療の後押しができた時には達成感を感じます」(ロジスティシャン/ナウファル)

 ロジスティシャンの役割は、医療スタッフの仕事を補完するとともに、非医療スタッフも含め、皆が適切な環境で活動できるようにすることです。

 
治療に重要な医療用酸素とスタッフの防護具を、常に不足しないようにせねばなりません。出勤して特に不安になるのは、酸素の量です。「これで今日の命をつなぐ患者さんの必要数に足りるだろうか?」と毎日心配になるのです。酸素は早いスピードで大量に消費されるので、いつも夕暮れの時間になると備蓄の底がつきはじめ、さらに緊張が高まります。

病院に医療用酸素を運搬する © MSF/Maya Abu Ata
病院に医療用酸素を運搬する © MSF/Maya Abu Ata

MSFは首都サヌアと南部の都市アデンで、4カ所の新型コロナウイルス感染症治療センターを支援。また各地で、医療従事者や病院スタッフに対し、感染予防・制御の研修を行っている。イエメンでは「病院が新型コロナの感染源だ」といったうわさや、新型コロナ陽性であることが明らかになると地域の中で汚名を着せられるといった恐怖心から、重症化するまで病院に来ないケースも多い。

新型コロナウイルスの流行以前から、イエメンの医療システムは紛争により崩壊しており、国内ではいまだ多くの人が必要な治療を受けられていない。MSFは国際社会に対し、より多くの援助がイエメンに向けられるべきだと訴えている。 

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