新型コロナウイルス:パキスタンでの感染拡大と産科病棟閉鎖の危機、母と子の命を守る

2020年09月18日掲載

パキスタン北部にある「女性の病院」で生まれた赤ちゃん © MSF/Nasir Ghafoorパキスタン北部にある「女性の病院」で生まれた赤ちゃん © MSF/Nasir Ghafoor

妊娠31週目で陣痛が始まったとき、グルナズさんの頭に浮かんだのは、「たとえ2時間以上の道のりでも、国境なき医師団の拠点病院まで行かなければ」ということだった。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策として敷かれたロックダウンにより、彼女が暮らす地域の医療機関は閉鎖され、ティムルガラ市にあるMSFの病院が唯一の望みだったからだ。この病院は毎月1200件以上の分娩を扱う、地域最大の産科病院であり、母子の健康を守る役目を担っている。 

コロナ禍で誕生する新しい命を守る

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、ティムルガラにある国境なき医師団(MSF)のプロジェクトは難題に直面した。500人いるチームメンバーのうち、200人余りに陽性反応や感染の疑いがあり、隔離や自宅待機を余儀なくされたのだ。さらにロックダウンによって、スタッフが病院へ出勤できないというケースも相次ぎ、活動は中止の危機に陥った。

「MSFの病院を受診する母親の約70%は、陣痛が始まってから来院します。他の病院に行かせることなどできません。この周囲数百キロにわたって、無償で治療を受けられる病院はないのです」そう語ったのは、MSFプロジェクトの医療担当者であるサイード・ラジーク。

この難局を乗り切るため、残された職員は昼夜を問わず仕事に取り組み、診療を続けた。人手不足を補うために、医療職および非医療職の臨時スタッフを採用したほか、首都イスラマバードにあるMSFのコーディネーション・オフィスは、人事や物資調達にあたる人員の追加派遣をするなど懸命の努力を続け、幸いにも医療が絶やされることはなかった。
 

活動中断を経て病院再開へ

一方で、感染拡大防止のためにやむを得ず活動を一時中止せざるをえなかった地域もある。パキスタン北部ペシャワール市にあるMSFの「女性の病院」では、4月初旬にチームメンバーの一人が新型コロナウイルスに感染した後、スタッフの半数近くが隔離措置または自宅待機となった。その結果、新規患者の受け付けを停止し、診療が必要な患者を近くの公立病院に転院させるという、苦渋の決断が下された。

MSFにとって、たとえ短期間であってもペシャワール市での活動中断はつらい決断だった。この病院にはアフガニスタン難民の患者も多く、無償で産科診療や新生児医療を受けられる病院は他になかったからだ。

「女性の病院」でMSFの医療アドバイザーを務めるマリオン・レストレポは、病院再開へ向けた取り組みを振り返る。「通常よりも広いスペースをとって診療できるように、病院内のレイアウトを変えて感染予防対策を行いました。そしてクラスターが多発している状況下でも、自分と患者を守る方法をスタッフに教えました」

6週間後、病院はサービスを再開した。入口には検温などを行うスクリーニング区画を設け、ベッドの間隔を広げた。また医療スタッフ、患者、介助者には、マスクなどの個人用防護具を配布し、新型コロナウイルスの症状を発症した母親のために、専用の隔離分娩室も設置した。
 

病院のエントランスでは、全ての来院者の検温を行っている © MSF/Nasir Ghafoor病院のエントランスでは、全ての来院者の検温を行っている © MSF/Nasir Ghafoor

必須医療を止めてはならない

MSFの医療チームが現在抱える最も重要な課題のひとつは、市中感染が広がっている状況でも、出勤できるスタッフの人数を確保し続けることだ。仮に一人でも感染すれば、チーム全員を隔離しなければならない。

MSFはパキスタン国内全体において、必要不可欠な医療サービスを継続することを優先に活動している。新型コロナウイルス感染者の増加によって、必須医療が中断してしまうことがないよう準備と対策を行い、安全な環境で患者の診療を続けられるよう尽力していく。 

「女性の病院」内部には、感染対策としてスタッフが防護服の着脱を行うエリアが設けられた © MSF/Nasir Ghafoor「女性の病院」内部には、感染対策としてスタッフが防護服の着脱を行うエリアが設けられた © MSF/Nasir Ghafoor

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