パキスタン:ペシャワールで「女性の病院」を開院

2011年05月26日

パキスタン、とりわけカイバル・パクトゥンクワ州では、妊産婦死亡率が大きな問題となっている(下段コラム参照)。国境なき医師団(MSF)はこの地域で産婦人科のニーズ調査を行い、ペシャワールに女性専用の民間病院を開院することを決定した。


医療不足の犠牲になる母子

「女性の病院」の病院長を務める菅原美紗医師。 「女性の病院」の病院長を
務める菅原美紗医師。

パキスタンは、アジアの中でも妊産婦死亡率と乳児死亡率が最も高い国の1つである。この国の医療従事者不足と全般的な医療の欠如により、女性と子どもが最初に犠牲となっている。しかしながら、MSFの「女性の病院」で病院長を務める菅原美紗医師は、「手遅れになる前に合併症のリスクを発見し、迅速に救急患者を処置していれば、多くは救われる命です」と語る。カイバル・パクトゥンクワ州や隣接する連邦直轄部族地域(FATA)には、難民・国内避難民の女性や貧しい女性が受けられる質の高い産婦人科医療がほとんどないのである。

MSFの「女性の病院」

MSFは、ペシャワール市と近隣の農村地域における産婦人科医療のニーズ調査の結果を受けて、拠点病院の建設を決定した。ベッド数30床、分娩室1室、手術室1室を備えた、ペシャワール渓谷の医療を必要とする女性たちのための病院である。5月18日に開院してからは、70人のMSFスタッフが24時間無償で救急産科医療(手術、分娩、診察、入院)を提供する。目標は、スクリーニング(治療の必要な患者の選定・選別)、妊娠中の病気の予防と治療および出産・分娩の改善によって、妊産婦の死亡と疾病のリスクを低減することである。

さらにMSFは、ペシャワール市内の保健機関を支援し、家族計画の指導や産前・産後ケアを提供する予定である。このような現地での活動を通して、ハイリスク妊娠や産科の救急症例、深刻な婦人科系疾患を抱えた女性を特定し、MSFの「女性の病院」に搬送できるようになることが期待される。また、医療を受ける機会を増やしていくために、この地域の診療所、村落、避難民キャンプの間に医療搬送ネットワークを整備した。このネットワークは、ペシャワール周辺のほかの貧しい地域や隣の部族地域にも徐々に拡大していく予定である。

また2009年後半から、MSFはバルチスタン州のデーラ・ムラド・ジャマリの拠点病院で母子保健プログラムを開始している。

ミレニアム開発目標5:2015年までに妊産婦死亡率を1990年の4分の1に減らす

妊産婦死亡とは、妊娠の期間や部位に関係なく、妊娠または妊娠管理に関連する原因、あるいは妊娠または妊娠管理により悪化した原因により、妊娠中または妊娠状態の終了後42日以内の女性の死亡を指す。ただし、事故や事件を原因とする死亡は含まれない。

世界保健機関(WHO)によると、1日あたり1500人の女性が妊娠や出産に関連する合併症で死亡している。死亡の多くは開発途上国で起きており、回避可能なものである。妊産婦の保健の改善は、ミレニアム・サミットで国際社会が採択した8項目のミレニアム開発目標(MDG)の1つになっている。このMDG目標5は、1990年から2015年にかけて妊産婦死亡率を4分の3減らすことである。1990年から2005年の間に達成できた数値は、わずか5%に留まっている。

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