新型コロナウイルス感染症:病院に押し寄せる重症患者 感染が再拡大するイラクの現場から
2021年04月07日
イラクの首都バグダッドでいま、新型コロナウイルスの感染“第2波”が急速に広がっている。「ワクチンなしでは収束しない」という国境なき医師団(MSF)のプロジェクト・コーディネーター、オマル・エベイドが、MSFのコロナ病棟の現場から報告する。
先日バグダッドで、ある場面に初めて遭遇した。白衣とN95マスクを着けた男たちが、市内の検問所で兵士を背にしながら、ミニバンに乗車した人たちがマスクをしているかを確認していたのだ。並んだ車の合間を縫うタバコ売りは、サージカルマスク販売の副業も始めていた。
そんな光景を除けば、この都市への新型コロナウイルスの影響は見えにくい。MSFが運営する病院で私が日々目にしている痛みを、街にあふれるほとんどの人は知らないのだ。だが苦しみはいま一段と増している。イラクが新たな感染の波に襲われ、バグダッドは再びその中心地となったからだ。
私たちの病院では昨年の9月末以降、約350人の危篤・重症患者を受け入れたが、先月の人数はそのうちの120人にのぼる。押し寄せる患者に対応すべく、ベッド数を36床から51床に増やしたものの、死亡率の高さは依然として深刻だ。つい先日は医療チームの尽力にも関わらず、1日で7人もの患者が亡くなった。

スタッフは皆、疲弊している。バグダッドでは第1波のピークが7月から11月まで続き、酸素ボンベの供給がひっ迫、医療体制は崩壊の寸前まで追い込まれたのだった。12月と1月のわずかな期間は感染者が減少したが、2月以降に再び急増。1月31日に714人だったイラク国内の新規感染者数は、2月28日に3428人、3月24日に至っては6051人となり、これまでで最多となった。この数字でさえ、過少に見積もられている可能性がある。イラクは息をつく暇もなく、感染第2波に飲み込まれたのだ。
「患者の死は精神的にこたえます」と語るのは集中治療室のヤシン・ハッサン医師だ。「でも他の患者のために克服しようと、音楽を聴いたり、家族に話したりして、また仕事に戻るんです」
第1波の収束で抱いた希望が偽りとなったことも、打撃だったと言う。「外出禁止が解除され、普段の暮らしが戻ってきたところで、また患者数が激増したのです。すでに病床が足らず、無念に思います」とハッサン医師。
1年前にバグダッドに赴任した私は、イラク当局による感染対策への支援に携わってきた。MSFは、まずアル・キンディ病院の呼吸器科で援助を始めたが、すぐに同病院が患者数や必要とされる経過観察に対応できていないことが判明。専門医の多くは午前中の短時間しか勤務しておらず、若手医師らはしばしば自ら判断することができなかったからだ。感染が拡大するにつれ、スタッフは手に負えない状況に追い込まれていった。

コロナの収束は、ワクチン接種なしには見えてこない。イラクがこれまでに入手したワクチンは38万6000回分のみで、人口4000万人の国ではまったく不十分な量だ。保健省によれば、国内の医療従事者数は約21万6000人。新たな供給分で一部の医療従事者は接種できるかもしれないが、私たちと共に働く医師の多くはいつ順番が回ってくるかも知れず、そうこうするうちに次々と病に倒れている。
イラクのワクチン入手には後押しが必要だ。感染拡大が最も深刻な国の一つであるイラクは、世界でも、また中東に限ってもワクチン分配において優先国とされるべきだろう。この国では、長年にわたった紛争とその影響で医療体制が弱体化し、原油価格の暴落により経済も落ち込んでいる。他国からのワクチン調達における援助や、国際機関のワクチン配布への実質的支援なしには、イラク政府が必要としている国民すべてに接種することは難しいだろう。

※この記事は『Independent』紙への寄稿文を翻訳・一部編集したものです。