新型コロナウイルス:入院患者の4割以上が死亡 イエメン南部、病院が危機的状況に

2020年06月05日掲載

イエメン南部の都市アデンで国境なき医師団(MSF)が運営する新型コロナウイルス感染症治療センターでは、多数の患者が重篤な状態で運ばれて短時間で亡くなり、死亡率は入院患者の4割を超えた。高濃度の酸素をはじめとした医療物資も著しく不足している。

アデンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療センター © MSFアデンの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療センター © MSF

多くの患者がセンターに運ばれるも短時間で死亡

この日、治療センターに60歳くらいの男性が苦しそうに咳込みながら車で運ばれた。MSFのチームは息を切らしながらやっとの思いで車椅子に乗り込んだ男性を集中治療室に運び、酸素吸入を試みたが、ほんの4時間後、男性は亡くなった。

ウイルスの大流行に見舞われているアデン市内ではこのように、新型コロナウイルス感染症の猛威が凄まじく、多数の患者がこの男性のようなスピードで亡くなっている。すでに重体となった状態で運ばれ、病院に到着する頃には手の施しようがないのだ。また、運ばれてすぐは元気そうに見える患者も、容体が急変し亡くなることがあるという。4月30日から5月24日までに同センターが受け入れた228人の入院患者のうち4割以上、99人が死亡。当局の数字によると、ここ数週間で、市の毎日の埋葬数は、流行前の10人から80人、90人にまで増加した。

市内をドローンで撮影して得た映像には新たに掘られたばかりの墓の列が映し出されている市内をドローンで撮影して得た映像には新たに掘られたばかりの墓の列が映し出されている

プロジェクトコーディネーターのティエリー・デュランは言う。「私たち医療従事者は無力感を覚えています。運ばれてくるのは重症者ばかりで、酸素吸入くらいしかできることがなく、たった1日で13人が死亡した日も何度かありました」

プロジェクトコーディネーターのティエリー・デュラン © Aurelie Baumel/MSFプロジェクトコーディネーターのティエリー・デュラン © Aurelie Baumel/MSF

酸素が、物資が、人材が足りない

同市には設備・資金面で充実した病院は一つもなく、他の病院や支援サービスのネットワークもない。5年にわたり紛争が続き、医療体制は崩壊。アデン市郊外にあった古いがん病院を急遽改装したこのセンターだけが、今のところ市内で唯一の新型コロナウイルス感染症の治療拠点だが、それでも物資が足りていない。

アデンでMSFの活動に参加しているオーストラリアの集中治療専門医、ハイリル・ムーサは言う。「私たちは、個人用防護具を再利用しています。患者は検査もろくに受けられません。人工呼吸器も足りないですし、もっと沢山の酸素濃縮装置や、医療物資の安定供給が必要です。酸素ボンベ用の圧力調整器や、チューブ、マスクなど、足りないものがたくさんあります」

新型コロナウイルス感染症の治療には高濃度の酸素が不可欠で、アデンでは1日に250本もの大量の酸素ボンベが必要だが、供給が追い付いていない。それに加えて、酸素の中央配管も、液体酸素もない。

センターの中庭に並ぶ大量の酸素ボンベ © Aurelie Baumel/MSFセンターの中庭に並ぶ大量の酸素ボンベ © Aurelie Baumel/MSF

ムーサは続ける。「元気そうな患者さんでも回診して戻ってくると亡くなっていることがあります。また、空気を求めて喘いで、喘いで、喘ぎ疲れてあっという間に息を引き取る患者さんもいるんです」

死者が増え続けているにも関わらずセンターには遺体安置所がなく、人材も不足しているため、遺体が埋葬されないままになることもあるという。

MSFは酸素の供給を改善しセンターのベッド数を72床にまで引き上げるなど、できるだけ早く物資を現地に調達すべく活動を続けつつも、医療崩壊目前として国連やその他援助国へ増援を訴えている。