コンゴ民主共和国:「理解だけでなく、行動を」──国境なき医師団、国連安保理で東部の人道危機を報告
2025年12月24日
国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長で救急医のジャビド・アブデルモネイムは12月12日、国連安全保障理事会に出席し、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の東部で続く壊滅的な人道危機について報告した。
コンゴ東部では医療システムが成り立たず、処刑や性暴力が起きて援助のニーズは増大する一方、資金提供などは減るという苦しい状況が続いている。
ジャビドは理事国に対し、コンゴの危機を理解するだけでなく、民間人を守るために「三つの具体的な行動」をとるよう強く求めた。
MSFインターナショナル会長 ジャビド・アブデルモネイム
「和平」の裏で続く現実
私たちが話を聴いた患者たちは、爆撃された村から逃げ延びたことや、想像を絶する残虐な体験について証言しています。
この危機は決して収束していません。それはMSFが活動する病院、診療所、国内避難民キャンプといった現場からも明白です。
医療システムは崩壊し、性暴力が至るところで起きて援助のニーズは急増する一方で、人道アクセスと資金は縮小しています。
政治的に出されるメッセージと、何百万もの人びとが日々直面している現実との間の乖離(かいり)は、広がっていくばかりです。
実際、ワシントンで署名された合意のインクが乾く間もなく、武装勢力「3月23日運動(M23)」はウビラに大規模な攻撃を仕掛けました。その結果、推定20万人が住まいを追われ、そのうち4万人がブルンジへと逃れています。
この出来事は、持続的かつ大規模な暴力が続く現実を、「平和」という約束が覆い隠しているに過ぎないことをはっきり示しています。
現在の和平の取り組みは、コンゴの人びとを守るためというより、一部の有力な勢力が資源から利益を得られる仕組みを温存、強化するために進んでいるという実態がますます顕著になっています。
これはいまに始まったことではありません。地域社会が直面してきた暴力の背景には、数十年にもわたって資源が奪われ、構造的に放置され続けてきた経緯があります。
これこそが、コンゴで繰り返されてきた悲劇なのです。政治や金銭的な利益が常に優先され、そのたびに人びとの命と尊厳が犠牲になってきました。
民間人が使い捨てのようにされる存在である限り、どのような政治的な取り組みも、人びとの苦しみを本当に終わらせることはできません。
数字が語る暴力
議長、米国のワシントンやカタールのドーハでは、高官レベルの合意が重ねられています。しかし、民間人への暴力はいまも当たり前のように続いているのです。
政府側、反政府側を問わず、複数の武装勢力が市民の命を脅かし、医療を受ける権利を踏みにじっています。すべての勢力が、処刑、性暴力、略奪、人道援助の妨害といった深刻な国際人道法違反に関わってきました。
その犠牲はあまりにも甚大です。
北キブ州の村ビンザでは、MSFの患者が、畑で切り殺された男性や、川岸で撃たれた女性や子どもたちについて証言しています。遺体はそのまま川に流されたそうです。
その証言は、北キブで相次いで報告されている虐殺の実態と一致しています。複数の患者が「その攻撃はM23の構成員によるものだった」と話しています。
北キブ州ルチュルの病院では、7月だけで外傷患者の受け入れ数が67%も急増しました。7、8月にMSFの支援施設に搬送された銃創患者のうち、80%以上が民間人でした。
イトゥリ州では、今年に入ってから一つの病院だけで1500件以上の外傷手術をしており、そのほとんどが紛争による負傷でした。
医療施設や医療スタッフも例外ではありません。救急車は銃を突きつけられて止められ、武装勢力が医療施設に押し入り、患者とスタッフの双方を脅しています。
北キブ州の遠隔地マシシではたった2週間前、カジンガ保健センターが民兵によって略奪、破壊されました。MSFのロゴがはっきりと掲げられていたにもかかわらずです。
さらに、今年に入ってからMSFのスタッフ3人が命を落としています。
こうした事例は、民間人を守るという責任がいかに果たされていないかということをはっきり示しています。
常態化した性暴力
議長、コンゴ東部における性暴力は、何十年にもわたって地域社会を傷つけてきた緊急事態です。それは現在も、想像を超える規模で続いています。
今年の上半期だけで、コンゴ東部にあるMSFの支援施設では約2万8000人の性暴力被害者が受診しました。これは、1日あたり平均155人に相当します。
攻撃のおよそ4分の3は武装した人物によるもので、被害は畑、道路、水くみ場、自宅の中で起きています。
多くの被害者は、予防的な治療が間に合わない時期にようやく医療にたどり着きます。そもそも医療にたどり着けない人びとも数多くいます。
同時に、医療物資の不足も深刻化しています。
北キブ、南キブ州では、保健区域の半数が曝露後予防(PEP)用の医薬品を欠いています。感染予防や望まない妊娠の回避、長期的な被害を軽減できるはずの重要なケアを被害者に提供できていません。
性暴力がこれほど広範囲で常態化している現実は、人びとを保護する仕組みが地域社会で崩壊し、加害者がほとんど責任を問われていないことを意味しています。
女性や少女たちは、性暴力についてこう語っていました。「私たちはもはや性暴力を『恐れて』いません。『起きるものだと想定している』のです」と。
崩壊する医療システム
議長、医療システムは崩壊の瀬戸際にあります。
暴力の激化、長年にわたるシステムの放置、住民の大規模な強制移動、国際援助の削減、そして並行して生まれつつある複数の統治体制──。複合的な要因が同時に重なっているためです。
地域によっては最大85%の医療施設が深刻な医薬品不足に直面し、医療従事者の約40%が職場を離れています。また、私たちが調査した施設のうち半数以上が閉鎖されるか、損壊していました。
その結果は、致命的です。
東部の町ワリカレでは、重度の栄養失調にある子どもが入院から24時間以内、または48時間以内に死亡する割合が、前年比でそれぞれ89%、309%も増加しました。
治安の悪化や医療費の負担、そして機能する医療が身近にないことにより、人びとはあまりにも遅れて医療にたどり着いています。
予防医療サービスは崩壊し、予防接種は繰り返し中断されています。その結果、防ぐことができるはずの感染症が急増しているのです。
コレラの患者数はすでに3万8000人を超え、死亡者数は前年の2倍以上に増えました。はしかの流行も止まりません。
さらに、規模すら把握できないマラリアの流行が進む一方で、それを封じ込めるための診断手段も、必要な治療薬も不足しています。
人道アクセスの遮断
議長、人びとのニーズが急速に高まる一方で、人道援助を届けられる余地は確実に狭まっています。
コンゴ東部全域で、政府側、反政府側の双方が民間人を守ることとは無関係な理由から援助を妨げています。その結果、命を守るための支援は遅れるか、別の目的に転用されるか、ときには完全に遮断されているのです。
北キブ州ゴマ、南キブ州ブカブの両空港が閉鎖されたことで、東部への物資・人員の流入は減り、この地域内での移動はとても難しくなっています。空港を再開するための合意はいまだに成立していません。
現在、雨期にはワリカレへ到達するのに1カ月以上かかることもあります。また、戦線の変化により、ブカブからウビラへの輸送は4カ国の国境を越える必要が生じ、費用は従来の4倍に膨れ上がっています。
人道アクセスは選択肢ではありません。法的義務です。
空港は再開され、主要ルートの安全な通行が確保され、医療・人道援助物資はいかなる妨げもなく移動できなければなりません。
それにもかかわらず、主要ドナーによる援助削減が進み、命を救うサービスは次々と打ち切られているのです。
三つの要望
議長、ワシントンやドーハで交わされた合意は、現場での具体的な行動につながらなければほぼ意味を持ちません。
私たちは、以下の3点を強く求めます。
第一に、民間人の保護を、すべての政治・外交的関与の中心に据えること。
和平の進展は、署名された合意の数で測られるべきではありません。人びとが自宅で、移動する道で、医療を求める場所で、本当に安全になっているかどうかで判断されるべきです。
第二に、人道アクセスを守ること。
和平合意は善意の表明でも、歩み寄りを示すだけの形式的なアピールでもなく、国際人道法に基づく道義的・法的義務です。
第三に、この危機の規模に見合った水準で、人道援助への資金を提供すること。
柔軟かつ迅速な資金がなければ、防げるはずの死は今後も増え続けます。
「実効性のある保護を」
最後に議長、私たちが立っている場所、つまりその演壇からではなく現地の患者のそばから見る限り、ここで交わされる議論に欠けているのは、危機への「理解」ではありません。その理解がもたらすべき「結果」です。
この理事会は、コンゴの状況について繰り返し説明を受けてきました。理事国は、民間人が直面している侵害を正確に語ることができるでしょう。
しかし、その侵害はいまも野放しのまま続いているのです。
この紛争を生き延びている人びとにとって、問題は、理事会が現実を理解しているかどうかではありません。なぜ、その理解が実効性のある保護にほとんど結びついていないのか、という点です。
その乖離は看過できません。その失敗は、あまりに深刻です。
これほど多くの命が危険にさらされているにもかかわらず、理事会が行動できないのであれば、民間人保護という約束はここで唱えられるだけの空虚な理念に成り下がります。
最も必要とされている場所で、何の意味も持たないことになるのです。
今日、求められているのは、新しい言葉でも、外交の枠組みでもありません。
必要なのは、「民間人は使い捨てられる存在ではなく、安全と尊厳への権利に交渉の余地がない」という原則を断固として貫く意志です。
それはコンゴにおいても、そして民間人が脅かされているあらゆる場所においても同様です。




