コンゴ民主共和国:過去10年で最悪のコレラ流行──感染地域20州へ拡大、死者1700人超に

2025年10月30日
コンゴ民主共和国東部・北キブ州の州都ゴマで、国境なき医師団(MSF)が運営するコレラ治療ユニット(CTU)。看護師が、退院する子ども(左)から点滴のチューブを外している=2025年3月26日 Ⓒ Laora Vigourt/MSF
コンゴ民主共和国東部・北キブ州の州都ゴマで、国境なき医師団(MSF)が運営するコレラ治療ユニット(CTU)。看護師が、退院する子ども(左)から点滴のチューブを外している=2025年3月26日 Ⓒ Laora Vigourt/MSF

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の各地で2025年、コレラの流行が深刻化している。

コンゴ保健省のデータによると、コレラが疑われた症例は、この9カ月間ですでに5万8000件を超えた。

これは過去10年間で最悪の規模の流行で、現地における事態の深刻さを浮き彫りにしている。

国境なき医師団(MSF)はこの状況に強い警鐘を鳴らし、「急速な感染拡大に対して、当局、人道援助機関、国際パートナーによる対応を速やかに強化すべきだ」と呼びかけている。

感染疑い5万8000件、致死率3%超に

コンゴ東部・南キブ州の農家、ザワディ・カハンバリさんはある日、突然コレラを発症した。

症状が出始めた当時の状況をこう振り返る。

MSFが支援する施設で療養するコンゴ東部・南キブ州の農家ザワディ・カハンバリさん(手前)=2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF
MSFが支援する施設で療養するコンゴ東部・南キブ州の農家ザワディ・カハンバリさん(手前)=2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF

あれは、おばと一緒に畑から帰る途中でした。突然、気持ちが悪くなり、道の途中でひどい下痢になったんです。通りがかった人たちが助けてくれて、お金を出し合い、バイクで1番近い治療センターまで運んでくれました。1時間ほどの道のりでしたが、ずっと下痢と嘔吐(おうと)が止まりませんでした。私の村では、ムシンバケという川の水を飲んでいますが、塩素消毒はされていません。水道を使えるのは月に1度だけ。近所でもコレラにかかった人が何人もいます。

コレラに感染した南キブ州の農家 ザワディ・カハンバリさん

コレラは、極めて感染力の強い細菌性の感染症だ。適切な治療と予防は可能だが、放置すれば短時間で命を失う危険もある。

感染が広がる原因として、衛生状態の悪さや安全な水を得にくい環境、衛生設備の欠如が挙げられる。

川で水をくむ、村の住民たち=南キブ州で2025年10月13日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF
川で水をくむ、村の住民たち=南キブ州で2025年10月13日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF


2025年1月~10月中旬の死者数は1700人を超え、致死率は3%を上回った。

新たな保健区域にも感染が広がっている。コンゴの全26州のうち20州が影響を受け、これまでコレラが流行していなかった州も含まれている。

特に、人口密集地で大きな課題となっており、首都キンシャサのような大都市や、避難民が多く集まる地方では感染リスクが高まっている。

MSFの健康促進チームがゴマの避難民キャンプを訪れ、コレラに感染しないよう衛生対策の啓発活動をしている=ゴマで2025年2月5日 Ⓒ Daniel Buuma
MSFの健康促進チームがゴマの避難民キャンプを訪れ、コレラに感染しないよう衛生対策の啓発活動をしている=ゴマで2025年2月5日 Ⓒ Daniel Buuma


コンゴのMSF医療コーディネーター、ジャン=ジルベール・ンドン医師は、状況の一層の悪化を懸念している。

今年、全国的にコレラが急速に広がっていることを、私たちは特に深刻に受け止めています。これから雨期になることを考えると、なおさらです。緊急の対策を講じなければ、さらに感染拡大する恐れがあります。この危機的な状況では、あらゆる関係者による総力を挙げた動員こそが、感染の封じ込めと流行の拡大を食い止める唯一の手段です。

コンゴのMSF医療コーディネーター ジャン=ジルベール・ンドン医師

感染拡大を招く要因

なぜ、これだけ感染が拡大しているのか。

コンゴでは、洪水や紛争、避難生活、不十分な水・衛生インフラといった複合的な要因が、感染症の流行を助長している。

さらに、これから雨期に入る。衛生環境の悪化と感染拡大の危険性がより高まり、事態の悪化が懸念されている。

MSFが活動するコレラ治療センター(CTC)の患者たち=南キブ州で2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF
MSFが活動するコレラ治療センター(CTC)の患者たち=南キブ州で2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF


しかしコンゴでは、対応が追いついていない。

まず、コレラ対策に大きな障壁がある。コンゴ政府が十分な資金を拠出できないことや、人道援助団体の活動範囲が限られていること、そして緊急対応の連携が不足していることなどが主な要因だ。

さらに、コンゴではコレラの症例を把握する仕組みが十分でないうえに、医療従事者や医療資材が不足している。ワクチン配給量も足りておらず、速やかな対応を効果的に続けることが難しい。 

南キブ州フィジでMSFが支援するCTC。コレラに感染した2歳の息子(右)を抱く母親は「水道水が出ることはめったになく、普段は湖の水を飲んでいます」と話す=2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF
南キブ州フィジでMSFが支援するCTC。コレラに感染した2歳の息子(右)を抱く母親は「水道水が出ることはめったになく、普段は湖の水を飲んでいます」と話す=2025年10月11日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF


南キブ州のMSFプログラムマネジャー、トン・ベルクは現地のひっ迫した医療体制についてこう説明する。

私たちのチームが活動しているどの地域でも、状況は極めて深刻です。既存の医療体制はコレラに対応できる設備がなく、医療物資やワクチンも不足しています。

南キブ州のMSFプログラムマネジャー トン・ベルク

広域で援助継続、計3万5800人以上を治療

MSFは2025年、北キブ州や南キブ州、キンシャサなど数多くの地域で対応を強化してきた。

現在も、感染状況が最も深刻な南キブ州フィジや、北東部・ツォポ州コンガコンガなど広域で活動を続けている。

MSFが支援する北キブ州のCTC。患者を治療する部屋で、スタッフ(中央奥)が消毒をしている=2025年2月20日 Ⓒ Jospin Mwisha
MSFが支援する北キブ州のCTC。患者を治療する部屋で、スタッフ(中央奥)が消毒をしている=2025年2月20日 Ⓒ Jospin Mwisha


今年1月以降、MSFはコンゴ保健省と連携し、16件の緊急介入を実施した。これまでに3万5800人以上を治療し、2万2000人以上にワクチンを接種した。

それでも、保健当局や他機関による緊急対応の体制は不十分で、MSFは活動のさらなる拡大を余儀なくされている。

MSFはこれ以上の感染拡大を抑えるため、保健省を支援し、専門治療センターでの医療提供、地域保健員の研修、塩素消毒ポイントの設置、水・衛生環境の改善などに努めている。

MSFのチームによるCTUの巡回診療。チームリーダーがスタッフを指導しながら患者の容体を確認している=ゴマで2025年3月26日 Ⓒ Laora Vigourt/MSF
MSFのチームによるCTUの巡回診療。チームリーダーがスタッフを指導しながら患者の容体を確認している=ゴマで2025年3月26日 Ⓒ Laora Vigourt/MSF


ベルクは、MSFの活動にも限界があるとして、政府と他の人道援助組織が連携を深めていく必要性を強調している。

私たちは地元の保健省職員と協力して感染拡大の抑制に取り組んでいます。しかし、この危機の規模を考えれば、遠方を含むすべてのパートナーがすぐに動員される必要があります。コンゴ政府と人道援助機関は、資金や医療体制、特にワクチンの配送・供給網を強化し、コレラとの闘いを支える緊急対応の仕組みを整えるべきです。

南キブ州のMSFプログラムマネジャー トン・ベルク

物流、治安、距離の壁──医療が届かない人びと

一方、現地での活動上の課題は、患者に援助を届けるまでに多くの障壁があることだ。

障壁の種類は、物流、治安、行政、物資の供給など多岐にわたる。

例えば、ゴマなどの空港が数カ月にわたって閉鎖されたことで、コンゴ東部へ物資を運ぶ際に使われていた主な経路が大きく制限された。

MSFが支援する施設で、母親が子どもを抱き、もう一人の子どもがベッドでコレラの治療を受けている。彼らは避難民キャンプからここに移ってきた=2025年2月20日 Ⓒ Jospin Mwisha
MSFが支援する施設で、母親が子どもを抱き、もう一人の子どもがベッドでコレラの治療を受けている。彼らは避難民キャンプからここに移ってきた=2025年2月20日 Ⓒ Jospin Mwisha


また、南キブ州のフィジ保健区域では、人道援助団体そのものが少なく、コレラ対応に特化した活動をしている組織はほぼ存在しない。

こうした状況を踏まえ、ベルクは社会にこう訴える。

主要道路沿いで続いている武装勢力の衝突により、治安は不安定なままです。その結果、現地のチームは危険を避けるために遠回りせざるを得ず、移動や援助物資の輸送が妨げられています。私たちは、速やかに医療提供するための、緊急かつ協調的な行動を呼びかけます。安全な飲料水と衛生環境への持続的な投資、そして医療アクセスを安全に届けられるようにすることが必要です。

南キブ州のMSFプログラムマネジャー トン・ベルク

地域住民が医療を受けることを難しくさせる課題も山積している。
 
まず、医療施設にたどり着くこと自体が難しい。背景には、距離が遠いことや、交通手段が足りないこと、そして治安の悪さによって遠出が厳しいことなどがある。
 
もし、医療施設にたどり着けたとしても、現地の設備が不十分で、基本的な治療すら十分に受けられないことも多い。その結果、最も医療を必要としている地域の人びとが取り残されている。

汚染を防ぐため、医療スタッフと患者はCTCに入る前に靴を消毒する必要がある=コンゴで2025年8月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
汚染を防ぐため、医療スタッフと患者はCTCに入る前に靴を消毒する必要がある=コンゴで2025年8月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


コレラは、コンゴにおける重大な公衆衛生上の脅威として、国家の最優先課題に位置づけられるべきだ。

MSFは、ワクチンの確保、円滑な医療アクセス、安全な飲料水と衛生環境への持続的な投資をはじめとする、協調的で速やかな行動を社会に強く求めている。

消毒する水がある地点を巡視するMSFの水・衛生担当者(左)。現地では住民(右)が川から水をくんで運ぶ=南キブ州フィジで2025年10月13日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF
消毒する水がある地点を巡視するMSFの水・衛生担当者(左)。現地では住民(右)が川から水をくんで運ぶ=南キブ州フィジで2025年10月13日 Ⓒ Abdon MANENGU Mbangala/MSF

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ