終わらない暴力の波──コンゴ東部 5つのキーワードで危機を読み解く

2025年12月09日
コンゴ東部北キブ州ムウェソで治療を受ける男性。武装集団の支配する道は危険が伴うため、病院にたどり着くまでに数日を要した=2025年10月1日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
コンゴ東部北キブ州ムウェソで治療を受ける男性。武装集団の支配する道は危険が伴うため、病院にたどり着くまでに数日を要した=2025年10月1日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


「私は戦争の中で生まれました。それしか知りません」

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)、北キブ州のムウェソ総合病院。国境なき医師団(MSF)が活動するこの病院で、銃による傷の治療を受けている20歳のフロリベールさんはそう語った。

コンゴ東部は、過去30年間にわたり紛争に巻き込まれてきた。2025年も例外ではなく、むしろ状況は悪化している。2025年の前半だけで、MSFは北キブ州、南キブ州、イトゥリ州、マニエマ州において、暴力による負傷者3600人以上を治療した。患者の多さには、いくつかの要因がある。2025年初頭には、コンゴ国軍(FARDC)と「コンゴ川同盟(AFC)/3月23日運動(M23)」、さらにそれぞれの同盟勢力との間で激しい戦闘が発生した。また、前線がMSFの活動地域である北キブ州や南キブ州に迫ったことも影響している。

地域全体で攻撃と衝突が絶え間なく続くコンゴ東部で、MSFが目の当たりにしているものとは──。5つのキーワードから、暴力の止まぬ現地の実態と、そこに置かれた人びとの姿を伝える。

【1】暴力の犠牲になる民間人

コンゴ東部には100を超える武装集団が存在し、小規模な派閥を含めると総数は数百に上る。さらに、この地域は複数の紛争が重なり合う舞台となっており、それぞれの集団が独自の力関係を築いている。

2025年にコンゴで繰り返された暴力の波に単純な説明を当てはめることはできない。しかし、そこに共通する一点がある。それは、最も大きな犠牲を強いられているのが民間人だということだ。

この1年を通じて、MSFは絶え間ない戦闘を目撃してきた。時には意図的に、あるいは偶然に、MSFが攻撃の標的となることもあった。MSFが支援する医療施設には、負傷者や死亡者が途切れることなく運び込まれている。患者たちは、虐殺や暴力的な誘拐、殴打、さらには恐ろしい性暴力に至るまで、数々の暴力行為を証言している。

MSFが支援する北キブ州マシシ総合病院の術後ケア病棟で、銃創を負った男性が休む=2025年9月3日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
MSFが支援する北キブ州マシシ総合病院の術後ケア病棟で、銃創を負った男性が休む=2025年9月3日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


MSFの活動地によって割合は異なるものの、暴力による患者の大半は民間人だ。北キブ州ムウェソでは患者の約8割が民間人と報告されている。負傷の原因として最も多いのは銃によるものだが、刃物による攻撃や爆撃、拷問も主要な負傷原因となっている。

現在は閉鎖されているマニエマ州サラマビラの活動地では、2025年前半に確認された366件の暴力による外傷症例の多くがムチで打たれたことによるものだった。患者の多くは、地域の大規模な金鉱を支配する武装集団から「税金」を支払っていないと非難され、暴力を受けていた。

私たちは背中の深い傷のために、10日間うつ伏せで過ごさざるを得なかった男性を治療しました。

MSFのソーシャルワーカー マンバ・ムワジエ

多くの活動地で、暴力による負傷者の大半は若い男性だ。しかし、女性や子どもも被害を受けている。2025年1月から9月の間に、MSFはイトゥリ州ブニアのサラマ診療所で333人の暴力による被害者を治療した。そのうち約3分の1は女性で、7人に1人は未成年だった。未成年には少女も少年も含まれており、中には母親ときょうだいがナタで殺害されるのを目撃した後、腹部を銃撃された9歳の子どももいた。

イトゥリ州ブニアのサラマ診療所の外科手術室。暴力の激化により、紛争で負傷した人びとに専門医療を提供することが緊急の課題だ=2025年5月30日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF[
イトゥリ州ブニアのサラマ診療所の外科手術室。暴力の激化により、紛争で負傷した人びとに専門医療を提供することが緊急の課題だ=2025年5月30日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF[

【2】武装した加害者による性暴力

※この記事には性暴力被害を描写した内容が含まれています。

武装勢力による暴力は、銃撃や威嚇にとどまらず、頻繁に性暴力という形でも現れる。その被害者の多くは女性だ。2025年上半期、MSFは北キブ州、南キブ州、イトゥリ州、マニエマ州で約2万8000人の被害者を治療した。そのうち97%は女性と少女であり、10%は未成年だった。

南キブ州ミノバ出身の35歳の女性モナさんは、今年、MSFの治療を受けた生存者の一人だ。彼女は深いため息を繰り返しながら、自らの体験を語った。

昨日午後9時頃、私は食べ物を求めて兄の家を尋ねました。その帰り道、道路で4人の男が近づいてきたのです。そのうち1人は武装していました。彼らは私の布製のスカートを奪い、それで目隠しをしました。1人が私の首を強く締めつけ、その間に1人が私を暴行し、次に2人目、そして3人目が続きました。彼らは全員で次々に私をレイプしたのです。今、私は借りている家の大家から退去を求められています。トラブルに巻き込まれたくないのでしょう。

性暴力の加害者は、典型的には武装した男で、コンゴ東部で続くさまざまな紛争のあらゆる勢力に属している。南キブ州ミノバで活動するMSFの助産師メルべイユは、次のように説明する。

「状況は深刻です。性暴力を受けた多くの女性は家に閉じこもり、食料を探しに出ることを恐れています。その結果、子どもたちは空腹のまま過ごすことになります。彼女たちは生活におけるあらゆる活動ができなくなり、心に深刻な問題を抱える人も出てきます」

もし紛争が終われば、性暴力は大幅に減るでしょう。現在、レイプの大半は武装した男たちによって行われています。多くは、女性が畑に行くときや食料を探しに出かけるときに発生しています。

南キブ州ミノバで活動するMSFの助産師 メルべイユ

北キブ州ゴマの診療所で看護師と面談する、性暴力被害を受けた少女=2025年7月1日 Ⓒ Jospin Mwisha
北キブ州ゴマの診療所で看護師と面談する、性暴力被害を受けた少女=2025年7月1日 Ⓒ Jospin Mwisha


現在、MSFはコンゴ東部において、性暴力の被害者に医療と心理的支援を含む包括的なケアを提供できる数少ない団体の一つとなっている。国際的な人道援助と開発資金の削減により、他の団体は活動を縮小せざるを得ず、医療提供を完全に停止する事態も生じている。

【3】紛争がもたらす「心の傷」

身体的な負傷に加え、コンゴ東部で広がる暴力は人びとの心の健康にも深刻な打撃を与えている。北キブ州ムウェソでは、毎週2~5人が精神疾患のために入院している状況だ。

銃撃を受けること、避難を強いられること、略奪に遭うこと、さらには性暴力を受けること──。定期的に銃声を耳にするだけでも、心の健康に影響が生じるのは当然です。

MSFの精神科医 コンスタンティノス・ズンパリス

「しかし、多くの人びとが危険で不安定な状況を共有しながら生活しているため、恐怖や不安を表現することが難しい場合があります。そうした感情は、突発的な激しい感情の爆発や解離、さらには緊張病として現れることもあります」と、MSFの精神科医ズンパリスは話す。

北キブ州のマシシ総合病院を訪れる患者。入り口の看板にはマスク着用と武器の持ち込み禁止が明記されている=2025年9月3日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
北キブ州のマシシ総合病院を訪れる患者。入り口の看板にはマスク着用と武器の持ち込み禁止が明記されている=2025年9月3日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


コンゴ東部における心のケアの必要性は、膨大な受診件数からも明らかだ。北キブ州マシシの総合病院だけでも、1月から7月の間に約2000件のメンタルヘルスに関する相談が実施された。

「紛争中や紛争後の状況では、心のケアを提供することが患者の苦しみを和らげるうえで非常に重要です」と、現地で心のケアと心理社会的支援を担当するMSFのシャルリ・シャコ・オモココは説明する。

心の健康の問題は、治療や薬によってある程度は改善できる。しかし、その多くは根本的な原因が解決されないまま残ってしまう。

私たちは患者を支援するために最善を尽くしています。しかし彼らが診療所を出れば、不安定な状況に戻り、多くが食料や住居を欠いた生活を余儀なくされているのです。

心のケアと心理社会的支援担当 シャルリ・シャコ・オモココ

【4】繰り返される医療への攻撃

武装勢力による暴力はMSFのスタッフが働く医療施設にも繰り返し及び、医療従事者や患者に直接的な被害をもたらしている。

2025年初めの数カ月間、北キブ州のマシシ総合病院前で町の支配権をめぐる武力衝突が起き、複数の民間人が負傷し、命を落とした。病院や敷地内で働くスタッフも被害を免れず、数人が負傷し、MSFのスタッフも勤務中に流れ弾で命を奪われた。さらに数週間後には、2人目のMSFスタッフが武装した男に自宅で殺害されている。2025年に北キブ州で殺害されたMSFスタッフは、合計で3人に上る。

10月には、マシシとルチュルでMSFが支援する2つの診療所が、同じ週に流れ弾の被害を受けた。国内の他の医療施設もまた、被害に遭っている。

戦闘から逃れ、MSFが支援するマシシ総合病院に避難した人びと=2025年1月9日 Ⓒ MSF
戦闘から逃れ、MSFが支援するマシシ総合病院に避難した人びと=2025年1月9日 Ⓒ MSF


2025年初めから、ツォポ州から南キブ州にかけてのコンゴ東部で、MSFのチームは数多くの治安上の事案に直面している。コンゴ国軍(FARDC)、「VDP/ワザレンド」、「コンゴ川同盟(AFC)/3月23日運動(M23)」を含む複数の武装集団が国際人道法に違反し、医療施設に侵入して発砲。医療従事者や患者を脅迫し、さらには攻撃を加えている。

2025年4月、北キブ州の州都ゴマのキエシェロ病院での事件により、1人が死亡し複数が負傷。ワリカレでは車両やMSFの拠点が損害を受け、ウビラの病院内では銃撃が報告されている。救急車は診療所に向かう途中で足止めされ、MSFの施設も武装集団に襲撃された。さらに直近ではツォポ州キサンガニ市でも被害が発生している。

4月4日の夜から5日にかけて、武装した男たちによる襲撃を受けたキエシェロ病院=2025年4月9日 Ⓒ MSF
4月4日の夜から5日にかけて、武装した男たちによる襲撃を受けたキエシェロ病院=2025年4月9日 Ⓒ MSF

【5】妨げられる医療アクセス

長年続く武力衝突と慢性的な投資不足が重なり、コンゴ東部では医療へのアクセスが深刻に制限されている。

2025年も不安定な治安が続く中、多数の医療施設が略奪の被害に遭った。地域保健担当者は暴力によって紛争の激戦地から追われ、医療スタッフも続く戦闘のために患者の元へたどり着けないことが多く、逆に患者も医療施設へ行くことができない状況が続いている。

負傷してから数日後にようやく病院に到着する患者も多くいます。彼らはしばしば危篤状態で到着するため、命の危険がさらに高まります。

ルチュル総合病院で活動するMSFの医師 バシル・アマニ

ルチュル総合病院で銃創の手術を行うMSFスタッフ=2025年8月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
ルチュル総合病院で銃創の手術を行うMSFスタッフ=2025年8月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


近年、コンゴ東部の紛争の様相は変化している。9月にビブウェで発生した航空機による爆撃や、北キブ州と南キブ州で増加するドローンの使用は、さらなる死と破壊の危険性を高めている。

コンゴ東部の暴力は、治安の不安定さと慢性的な投資不足によりもろくなった医療体制をさらに弱体化させている。それは、負傷者や死亡者、性暴力の被害者とその家族にとっての悲劇であると同時に、常に移動を強いられ、必要不可欠な医療サービスや食料、その他生存に欠かせない基本的な手段にアクセスできない地域社会全体にとっての悲劇にもなっている。

戦闘激化に伴い、周辺各地から北キブ州ゴマに逃れてきた人びと=2025年1月26日 Ⓒ Jospin Mwisha
戦闘激化に伴い、周辺各地から北キブ州ゴマに逃れてきた人びと=2025年1月26日 Ⓒ Jospin Mwisha


コンゴでMSFの代表を務めるエマニュエル・ランパールは次のように訴える。

「MSFは、コンゴ東部のさまざまな前線に置かれた全ての人びとを支援することに引き続き尽力します。しかし戦争には規則があります。私たちはすべての武装集団に対し、国際人道法を尊重するよう求めます」

特に民間人や医療施設を標的にしないこと、そして医療従事者や医療物資の安全な通行を確保することに関してはなおさらです。

コンゴにおけるMSFの代表 エマニュエル・ランパール

※スタッフと患者の保護のため、仮名を使用

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