コンゴ民主共和国:深まる人道危機──国境なき医師団は唯一の国際援助団体として活動を継続
2025年08月01日
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)北キブ州ワリカレで、人道危機が拡大している。2025年3月から4月にかけ、政府軍と「3月23日運動(M23)/コンゴ川同盟(AFC)」を含むさまざまな武装勢力の衝突が激化。多くの人びとが避難を余儀なくされ、食料不安が深刻化する中、栄養失調も急速にまん延している。
一方、2024年9月までに、多くの国際機関は資金不足によりワリカレから撤退している。国境なき医師団(MSF)は、この地で活動を続ける唯一の国際人道援助団体となり、MSFには大きな重圧がかかっている。
150%を超える病床稼働率
「ワリカレでは今も複数の現地NGOが活動しています。しかし、国際機関の撤退により、すでにひっ迫し必要な支援が不足している医療体制を支えることは、一層困難になっています」とワリカレでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるメーガン・ホーズは話す。
MSFが運営するワリカレ総合病院では、2025年1月から6月にかけ、入院患者数が前年同期比で6.7%増加した。特に入院栄養治療センター(ITFC)の入院患者数は41.3%と急増し、4月に12人、5月には34人の子どもの死亡が報告されている。ITFCは常に定員を超える状態で運営されているが、病院全体の病床稼働率はここ数カ月間、150%を超えている。
現在の体制では、中長期的な活動維持は不可能です。今すぐに追加の支援とリソースの拡充が必要なことは明らかです。
MSFのプロジェクト・コーディネーター メーガン・ホーズ
医療を受けることはより困難に
長引く紛争は、地域経済に深刻な打撃を与え、多くの農業従事者が町周辺の鉱山に職を求めるようになった。この農業離れにより、地域の食料生産は急激に減少。食料の安定供給は一層困難になり、栄養失調の増加に拍車をかけている。またMSFのチームが収集したデータによると、1月以降、トウモロコシ粉の価格は50%、キャッサバの葉は22%、牛乳は16%、肉は9%上昇している。
栄養失調に関連する死亡率の傾向は、極めて憂慮すべき状況だ。2025年上半期、ITFCに入院した患者のうち、最初の24時間以内に死亡したケースは前年と比べ88.9%増加しており、24〜48時間以内に死亡したケースは309%増加した。
入院栄養治療センター(ITFC)に入院した患者の死亡率(2025年上半期、前年同期比)
これらの数字は、適切なタイミングで医療を受けることが難しいため、多くの患者がすでに重篤な状態で医療施設に到着していることを浮き彫りにしている。最近の暴力の激化以前から、ワリカレは事実上「医療の空白地帯」であり、住民は長距離を移動して、資源や人員が不足した医療施設に向かっていた。暴力の急増は、こうした課題をさらに悪化させ、緊急医療へのアクセスを一層困難にしている。

「この地域の多くの医療施設は略奪され、完全に空っぽになっている施設も確認されています。子どもたちの体重を測るためのはかりすら盗まれている場合もあります」とホーズは話す。
「また、現地の医療従事者の欠勤率も深刻で、長期間給与が支払われていなかったり、暴力から逃れるために現場を離れているケースも多く見られます」
治安悪化が援助活動にも影響
MSFは、ワリカレ総合病院と周辺の医療施設7カ所を支援し、栄養治療、小児医療、妊産婦ケアに重点を置いている。また、性暴力の被害者を対象とした診療所も運営しており、心のケアも提供。さらに、コレラなどの感染症の発生を防ぐために重要な、水と衛生の活動にも取り組んでいる。

しかし、地域の治安悪化により、過去にはMSFのチームが直接的な危険にさらされる事態も発生しており、現在も医療物資の輸送には大きな物流上の課題が続いている。州都ゴマの空港は、1月にM23によって制圧されて以降閉鎖されており、ゴマからワリカレへの主要道路も衝突の影響で通行不能となっている。そのため、MSFは物資の輸送ルートをルワンダとウガンダ経由に変更し、コンゴのイトゥリ州に再入国し、南下してワリカレへと向かっている。この困難な移動は3週間以上かかり、1回の輸送につき約8000米ドル(約118万円)の費用が必要になる。
MSFの現地活動責任者、ナタリア・トレントは次のように訴える。
「主要な陸路における戦闘により、ワリカレ周辺でのアウトリーチ活動は制限され、地域の人びとが医療を受けることはますます難しくなっています」
MSFはすべての関係者に対し、医療スタッフと物資の安全な通行を確保するよう求めます。
MSFの現地活動責任者 ナタリア・トレント