コンゴ民主共和国:東部イトゥリ州で新たな暴力の波──市民がさらに危険な状況に
2025年03月28日
MSFは、最新の報告書『Risking Their Lives to Survive』(英文)の中で、攻撃、増加する避難、人道援助の減少により多くの人びとが危機的な状況に置かれており、そのニーズは計り知れないと訴えている。またイトゥリで国軍を含む全ての武装組織に対し、民間人および医療施設を危険にさらすことのないよう求めている。
民間人に対する暴力が激化
コンゴ北東部に位置するイトゥリ。ここでは数十年にわたり、暴力や民族の分裂、さまざまな武装集団が参入する複雑な紛争が起こり、この地で暮らす人びとは直接の標的とされ、暴力に巻きこまれてきた。紛争はまた、彼らの医療アクセスや自給自足で暮らす手段も大きく妨げている。一方、人道援助の提供は制限されており、国際的な関心の集まらないこの地域で、人びとはさらなる苦しみに直面している。

国連によると、イトゥリでの暴力によって、今年に入ってから約10万人が避難を余儀なくされている。国連はまた、民間人に対する暴力の激化も報告しており、1月と2月だけでも、攻撃により200人以上が死亡し数十人が負傷している。MSFは2月、ジュグ郡において民兵の攻撃を受けた4歳の子どもや妊婦のナタや銃創の手当てを行った。
イトゥリでは数十年にわたり暴力が繰り返され、そのたびに女性や子どもを含む民間人が壊滅的な影響を受けてきました。今回の攻撃もそれに続くかたちです。
アリラ・ハリドゥ MSFの現地活動責任者
「この危機で特徴的なのは、繰り返される避難です。多くの人が暴力によって何度も何度も生活をやり直すことを余儀なくされています。さらに悪いことに、患者や地域の人びとが私たちに語る話は、氷山の一角に過ぎないのです」

患者がベッドの上で殺害されることも
イトゥリで医療を受けられるのはごく一部の人びとだけだ。その上、医療施設も攻撃を受けている。ジュグ郡のファタキ総合病院は、武装勢力の脅迫を受け3月中旬に活動を停止。患者は一時的に避難させられた。病院の閉鎖により、数千人の人びとが医療を受けることができなくなっている。またジュグにあるドロドロ保健区域では、診療所の50%近くが一部もしくはすべて破壊されており、移転せざるを得ない状況だ。暴力が激化していた2024年の春には、ドロドロ総合病院が攻撃を受け、患者がベッドの上で殺害されている。
こうした攻撃は、患者を医療施設から遠ざけるだけでなく、医療に携わる人びとも危険にさらしている。報告書のためにインタビューを受けたある医師は、診療所が2カ月間の閉鎖を余儀なくされ、それでも帝王切開の手術を行うために向かったときの状況をこう振り返った。
女性たちとともに、身をひそめながら診療所へ向かいました。危険な上、命がけでしたが、選択の余地はありません。そうでなければ、彼女たちは命を落としていたでしょう。
MSFのインタビューを受けた医師
女性や子どもも標的に
MSFが2025年3月中旬までに州都ブニアのサラマ病院で治療した暴力の被害者39人のうち、半数以上は女性と子どもだった。
負傷した4歳の子どもを連れたある母親は、ナタによる攻撃で生後6カ月の赤ちゃんと夫を失ったという。4歳と16歳の姉妹は頭と腕をナタで殴られ、彼女たちの妊娠8カ月の母親もナタによる攻撃で重傷を負った。MSFはまた、腹部を銃で撃たれた9歳の少年を治療した。彼は母親と2人のきょうだいがナタで襲われ殺害される光景を目撃していた。

人びとは避難民キャンプに逃れたとしても、安全とはいえない。2024年9月、ファタキ保健区域にあるプラン・サボキャンプが襲撃された後、MSFは銃弾で負傷した5人の市民の治療にあたっている。
民間人への攻撃が急増すると、MSFの施設に訪れる性暴力の被害者の数も増える。特に女性は、自分と家族を養う手段を求めて屋外に出るため、攻撃に直面してしまう。2023年と2024年、ドロドロでMSFが治療を行った性暴力被害者の約84%が、畑での作業中や薪を集めているとき、あるいは道路で襲われていた。

人びとが置かれた状況はさらに悪化
現地保健省、MSF、その他の援助団体の取り組みにもかかわらず、現地の人びとのニーズは利用可能なリソースをはるかに超えている。
イトゥリでは2024年に食料不安が急激に悪化し、現在人口の43%が慢性的な食料不安の状態に置かれている。また避難民キャンプの衛生状態は悪く設備も老朽化しており、下痢や呼吸器系の病気もまん延しやすい。最も影響を受けているのは、5歳未満の子どもたちだ。
イトゥリの人びとには、医療への安全なアクセスが保証されなければならない。また、人びとは、食料や必要なものを求め、命を危険にさらすほかない状況を強制されてはならない。
