「私たちは見捨てられた」──コンゴの避難民が暮らすムセニキャンプで急拡大する人道危機

2025年05月16日
ムセニキャンプで、メガホンを手にはしかの予防接種を受けるよう呼び掛ける国境なき医師団(MSF)のスタッフ=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF
ムセニキャンプで、メガホンを手にはしかの予防接種を受けるよう呼び掛ける国境なき医師団(MSF)のスタッフ=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF

コンゴ民主共和国(以下、DRC)で2025年1月、政府軍と反政府勢力「3月23日運動(M23)」による激しい戦闘が発生し、多くの人びとが隣国のブルンジに逃れた。人びとは今、ルタナ県にあるムセニキャンプに身を寄せているが、そこでの生活は極めて過酷な状況となっている。

国境なき医師団(MSF)はムセニキャンプで、はしかマラリアを防ぐための緊急対応を開始した。しかし、依然として人道援助のニーズは膨大だ。

キャンプは飽和状態 懸念される健康問題

DRCの北キブ州と南キブ州では、今年初めから戦闘が激化し、治安の悪化が急速に進んだため、多くの人びとが避難を余儀なくされた。人びとはルジジ川を渡ってブルンジに入り、南キブ州との国境にあるチビトケ県の学校や倉庫、協会、スタジアムなどに急ごしらえのキャンプを設置した。

そして3月、ブルンジ当局と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2024年に設置した南東部ルタナ県のムセニキャンプに人びとを移送した。しかし、最大1万人に基本的な設備とサービスを提供できるよう作られたこのキャンプはすぐに過密状態となり、UNHCRによると、4月末の時点で約1万8000人が暮らしている。

当然ながら、人びとの生活は急速に耐え難いものとなり、誰もが健康上のリスクを抱えることとなった。

「ここに来てからずっと、小さな小屋で暮らしています。避難民全員分のシェルターがないのです」と2月にDRCから逃れてきたナタリーさんは話す。

大家族にはシェルターを作るための防水シートが配られます。しかし、私たちはマットレスもなく、カエルと湿気だらけのこの小屋で寝泊まりしています。私たちは見捨てられたのでしょう。

ナタリーさん ムセニキャンプで暮らす女性

ムセニキャンプに到着する人びと。キャンプの収容能力は1万人だが、それを超える数の人びとが身を寄せている=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF
ムセニキャンプに到着する人びと。キャンプの収容能力は1万人だが、それを超える数の人びとが身を寄せている=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF

雨季によって増大する感染症リスク

ムセニキャンプは水はけの悪い粘土質の土壌で、雨季には特に洪水のリスクが高まる。排水路は掘られたものの、4月末から雨季に入りキャンプ内の多くの場所で水がたまっている状態だ。人びとは、自分の住居や共同トイレから、できるだけ汚水が路地に流れ出ないよう苦慮している。

「キャンプの生活条件を、今すぐ改善する必要があります」と、ブルンジのMSF緊急コーディネーターであるバーバラ・ターシェットは警告する。

ここには、深刻な健康問題を引き起こす要素がすべてそろっているからです。

バーバラ・ターシェット ブルンジのMSF緊急コーディネーター

「衛生状態を考慮し、コレラ発生に備えた予防措置として、隔離施設の設置を始めました。また、あちこちにたまっている水がマラリアの感染リスクを高めているため、防虫処理をした8000枚以上の蚊帳を配布し、長期的な蚊の駆除も計画しています」

浸水したムセニキャンプの様子。浸水や水たまりは、水系感染症やマラリアの発生リスクを高める=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF
浸水したムセニキャンプの様子。浸水や水たまりは、水系感染症やマラリアの発生リスクを高める=2025年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF

キャンプには多くの子どもがいるため、MSFは保健当局と協力して、はしかの集団予防接種を実施した。はしかは非常に感染力が高く、キャンプ内でもすでに複数の感染例が確認されているが、ワクチンによる予防は可能だ。

「4つの予防接種会場を設置しました」とターシェットは続ける。

8500人に予防接種を行い、感染した子どもの治療も行いました。これは大きな成果ですが、人びとの状況を改善し、健康を守るために、やらなければいけないことはまだたくさんあります。

バーバラ・ターシェット ブルンジのMSF緊急コーディネーター

ムセニキャンプではしかの予防接種を受ける子ども。6カ月から14歳までの8500人が、集団予防接種の対象となった=2024年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF
ムセニキャンプではしかの予防接種を受ける子ども。6カ月から14歳までの8500人が、集団予防接種の対象となった=2024年4月24日 © Dorine Niyungeko/MSF

援助資金の削減が人びとの健康に影を落とす

MSF以外にもいくつかの援助団体が医療を提供しているが、医療へのアクセスは今も不十分だ。

予防接種の案内に耳を傾ける女性 © Dorine Niyungeko/MSF
予防接種の案内に耳を傾ける女性 © Dorine Niyungeko/MSF
「ここでは、HIVの感染者が治療を受けることはできません」と南キブ州から逃れてきたアンリさんは言う。

「チビトケ州のルゴンボに避難していたときは、医療の経過観察と治療を受けていました。しかし、ここではそのようなケアを提供する施設がありません」

ムセニキャンプで活動する援助団体は、他の多くの地域と同様、資金援助の削減により、満足のいくサポートを行えていない。患者に対し、十分な経過観察ができない団体もある。食料の配布も明らかに不十分で、人びとはより弱った状態に追い込まれている。国連は、人びとの人道ニーズを満たすためには、7600万米ドルが必要だとしている。

「状況は深刻であり、より一層の注目と援助が必要です」とターシェットは警鐘を鳴らす。 

MSFはできる限りのことを行っています。性暴力の被害者への医療ケアや、心の問題を抱える人には心理社会的支援を提供しています。しかし、援助が必要な人がまだまだ溢れているのです……。

バーバラ・ターシェット ブルンジのMSF緊急コーディネーター

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