逃げ場のない性暴力──コンゴ民主共和国 東部ゴマの女性に安全な場所はなく
2025年08月12日
コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)東部北キブ州のゴマ。国境なき医師団(MSF)の支援する診療所には、毎週数百人の性暴力被害者が治療を求め訪れる。2024年、北キブ州でMSFがケアを提供した女性は約4万人となり、過去最多を記録した。
2025年1月に武装勢力「3月23日運動(M23)/コンゴ川同盟(AFC)」がゴマを制圧してからも、性暴力の発生は減少の兆しを見せておらず、MSFは今も深刻な水準の性暴力被害を記録している。2025年1月から4月の間、ゴマにあるMSFが支援する保健省の施設では7400人以上の性暴力被害者が治療を受けた。ゴマから20キロ西の小さな町サケでは、同期間に2400人の被害者が治療を受けている。
暴力のまん延する北キブ州 何が起きている?
紛争により一変した暮らし
ゴマでMSFが支援する診療所には、週を通じて早朝から、あらゆる年齢層の性暴力の被害に遭った女性が集まってくる。女性たちは、治療や支援、そして自分の思いを誰かに聞いてもらうことを求めている。
35歳のナシャさんも、5月に診療所を訪れた患者の一人だ。ほかの多くの女性と同様、彼女の人生も北キブ州で続く紛争により、一変した。

ナシャさんはゴマの西に位置するマシシ出身。2021年から2024年にかけて激化した戦闘を逃れて避難した。彼女の一家は約65万人の避難民とともに、ゴマ郊外の避難民キャンプに身を寄せた。
しかし2025年2月、武装勢力の「M23/AFC」がキャンプの解体を命じ、住民を強制的に退去させた。多くの人びとは、帰還のための資金がない、あるいは土地が占拠されているため、出身地に戻ることができなかった。その結果、避難民の多くは、ゴマ市内や近郊の家庭に受け入れてもらう、あるいは低所得者向けの住居に避難することになった。
「私はルサヨ避難民キャンプで暮らしていました」とナシャさんは話す。
「キャンプが撤去された後、私たちは学校の中庭に移りシェルターを建てたんです。ある晩、武装した男たちが侵入し私を襲いました。夫が私を守ろうとしたとき、彼らは夫を射殺したんです」

あらゆる場所で襲われる
ナシャさんの物語は、ゴマおよびその周辺地域では決して珍しいものではない。毎日、女性たちは日没前になると安全を確保するため、隣のニーラゴンゴ郡からゴマ市内へと移動する。しかし、その努力は無駄に終わることが多い。ゴマ市民が貸し出す小さな土地や部屋、公的な場所などに設けられた避難所に対する襲撃は止むことなく起きている。

「近年、レイプの多くは日常生活の中で起きていました。とくに、女性が避難民キャンプを離れて薪を集めたり、小規模な商売を行ったりする際に、被害に遭うケースが目立っていました」
そう説明するのは、MSFで女性の健康に関する活動を担当するアーメル・グバグボだ。
「現在、女性たちは『暮らす場所』で襲われることが多くなっています。住居であれ避難所であれ、特に夜間、治安が悪化する時間帯に襲撃は集中しています」
彼女たちはあらゆる場所で襲われています。自宅で家族と一緒にいるときも、一人でいるときも。ゴマ市内の路上でも、郊外へ出かけるときもです。
MSFの女性の健康に関する活動担当者 アーメル・グバグボ
身近な人物による加害も
安全な場所はどこにもない──。それがゴマの女性たちが置かれている状況だ。
ルチュル出身で15歳のデニサさんは、「M23/AFC」による北キブ州奥地への進攻に際し、家族とともにゴマへ避難した。4月、武装した男たちがデニサさん家族の暮らす家に押し入った。
「彼らは軍服を着ていました。私たちから物を奪うためにやってきたのです。私は父と兄弟、妹たちと一緒にいました。男たちは私の家族に立ち去るように命じ、私をレイプしました」と彼女は話した。

しかし、すべての性暴力が、軍服を着た武装した男性によって行われているわけではない。被害者の身近な人物による加害が少なくないのも事実だ。
家族や被害者の周囲の人物、あるいは受け入れ先の家庭の中で発生する性暴力も、非常に大きな割合を占めており、これは軽視すべきではありません。
MSFの女性の健康に関する活動担当者 アーメル・グバグボ

暴力事件の急増 恐怖に支配される人びと
そう話すのはMSFでプロジェクト・コーディネーターを務めるフレデリック・ジェルマンだ。
「治安は著しく悪化しています。夜ごと、多くの犯罪者が襲撃、レイプ、殺人を繰り返しています。武器が容易に手に入るため、盗賊や武装勢力の脅威は絶えません。経済が停滞する中、人びとは暴力的な搾取のシステムにのみこまれています」

25歳のサラさんも最近、ゴマの診療所を訪れた一人だ。避難民キャンプの撤去後、彼女は家族とともに小さな家に身を寄せていた。ある日、ライフルとナタで武装した男たちが押し入り、夫を拉致した。
「それは数週間前のことでした。それから何の知らせもないんです」とサラさんは話す。
彼女の周囲でも、父親や兄弟が殺害される、略奪や誘拐の被害に遭う、あるいは行方不明になったという話がある。

MSFの疫学関連の研究所である「エピセンター」の調査(※)は、ゴマにおける暴力事件の急増を明らかにしている。2025年上半期に報告された暴力事件の件数は、2024年の同期間と比べて5倍以上となった。
「この調査で記録された暴力による死亡の割合は非常に高く、全体の4分の1を占めています。身体的暴力や言葉による脅迫も数多く発生しており、多くの目撃者の証言がその事実を裏付けています」
エピセンターの疫学者ブラヒマ・トゥーレ博士はそう説明し、次のように付け加えた。
この調査結果は、性暴力の発生率の高さを示しています。しかし、性暴力に関しては被害者が声をあげにくいこともあり、実際に被害に遭った人びとはもっと多い可能性があります。
エピセンターの疫学者 ブラヒマ・トゥーレ博士
性感染症に苦しむ女性も
ゴマへの攻撃により、多くの民間団体が避難を余儀なくされた。また、性暴力の被害者支援に取り組んでいた複数の人道支援団体も撤退しており、その背景にはアメリカによる援助予算削減の影響もある。
「ゴマでこれらの女性たちに医療サービスを提供している団体は、事実上MSFだけになっています。しかし、ニーズは膨大です」とジェルマンは話す。

75歳のアンジェリカさんは、5月に襲われた後、それを誰かに打ち明けることができなかった。
「恥ずかしかったんです。どこに助けを求めればよいかも分からず、家に閉じこもっていました」と彼女は語る。
「5日後、自分で傷を癒そうと思い薬草を探しに出かけました。体調がとても悪く、腹部に痛みもありました。そのときに地域の保健担当者に出会い、MSFが無償で医療を提供している診療所を紹介してくれたんです」

MSFが診察した性暴力被害者のうち20%近くが、襲われてから72時間以内に医療処置を受けることができていない。この72時間は、暴露後予防薬(PEP)の投与により性感染症の感染リスクを大幅に低減できる重要な時間だ。
「性感染症に苦しむ女性の割合は非常に高いのです。これは集団レイプの被害や、生きるために性交渉を取引する慣習とも関連しています」とグバグボは指摘する。
多くの女性が、食料や住む場所を提供してくれる人びとから、その見返りに性的搾取を受けている、と訴えています。
MSFの女性の健康に関する活動担当者 アーメル・グバグボ
緊急医療支援の拡大が急務
トランプ政権下で米国際開発局(USAID)が事実上の解体に追い込まれる中、コンゴの女性たちはその影響も受けている。コンゴ東部では、性暴力被害者を支援する複数の団体に配布される予定だった10万個のレイプキット(HIVやその他の性感染症の予防薬を含む)の発注が取り消され、壊滅的な影響をもたらしている。

「5月時点で、USAIDの支援を受けて性暴力被害者を支援していた北キブ州の国連人口基金(UNFPA)には、緊急対応キットが州全体で2500セットしかありませんでした。一方、毎月数千人の女性が被害に遭っているのです」とグバグボは説明する。
性暴力はゴマやその周辺地域に限られた問題ではない。治療を求めて数十キロの距離を移動して市内へとやってくる被害者もいるのだ。
女性たちを支援するために、いま求められるものとは──。ジェルマンは次のように締めくくった。
他の国際支援団体の協力は不可欠です。何千人もの女性が、今まさに緊急の医療支援を必要としています。
MSFのプロジェクト・コーディネーター フレデリック・ジェルマン
※プライバシー保護のため、患者は仮名を使用