コンゴ民主共和国:「ゴールドラッシュ」に沸いた1500人の村──感染爆発がもたらしたコレラの悲劇

2025年07月17日
MSFがロメラに設置した医療施設でコレラ患者(手前)を治療する看護師=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
MSFがロメラに設置した医療施設でコレラ患者(手前)を治療する看護師=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF

コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の東部にある小さな村で5月上旬、コレラの感染が急速に拡大した。

緊急援助に入った国境なき医師団(MSF)は、数日間のうちに600人以上を治療し、8000人以上にワクチンを接種した。並行して清潔な水を確保するなど対策を進め、現在は感染の広がりに落ち着きを見せている。

この感染拡大の背景にあるのは、金が発見されることで起きた「ゴールドラッシュ」。人口の急増に伴い、衛生環境が悪化した。ゴールドラッシュが始まる前は人口わずか1500人だった湖畔の村で、一体なにがあったのか。

1年足らずで人口が10倍に

コンゴ東部・南キブ州にある村ロメラ。つい最近まで、州内の住民にさえほとんど知られていない静かな湖のほとりの村だった。

しかし2024年12月、状況は一変した。村の丘陵地帯から金が発見されたのだ。

ロメラは今や、金鉱の穴と掘っ立て小屋が無秩序に広がる混沌とした場所へと姿を変えた。大勢の人びとが村に移り住み、人口はわずか1年足らずで10倍近い1万2000人以上に激増した。

人口が急増し、1万2000人超が住む集落となったロメラ=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
人口が急増し、1万2000人超が住む集落となったロメラ=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


「ここの暮らしは狭いしとてもつらい。それでも生きるために我慢するしかない」

チザ・ブロンザさん(45)も金鉱で働き始めた一人。金鉱は生活費を稼げる数少ない手段のため、農業をやめて約90キロも離れたワルングからはるばるやって来たという。

人びとが殺到する背景には、地域経済の不安定化がある。

武装勢力「3月23日運動(M23)/コンゴ川同盟(AFC)」と、コンゴ国軍とその同盟民兵「ワザレンド」の間で衝突が続き、地域の経済が疲弊。何千もの人びとが仕事と安全を求めてロメラへ集まる一因となった。
ロメラは金鉱の発見以来、大勢の人びとが移り住んできた<br> =2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
ロメラは金鉱の発見以来、大勢の人びとが移り住んできた
=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF

感染拡大の理由

コレラへの対応は、MSFにとってコンゴでの最重要課題の一つだ。2024年だけでも、MSFは国内で1万5000例以上を治療し、現地の保健当局や地域の人びとと協力して感染防止に取り組んだ。

しかし、これほど大規模に流行するのは異例だ。ロメラで最初にコレラ患者が報告されたのは4月20日で、人数は13人。そのわずか2週間後、患者は確認できただけでおよそ10倍の109人に達した。実際の数はさらに多いとみられている。

現在、ロメラは地域のカタナ保健地区(人口約27万5000人)におけるコレラ患者の95%を占めるに至った。

「コレラが爆発的に流行する、全ての条件がここにはそろっていました」

MSFの医療プロジェクトリーダー、マチルド・シレーはこう指摘する。

きれいな水は不足し、排せつが野外でされ、廃棄物処理の仕組みがない。連日、大勢の人が押し寄せ、時には一部屋に20人が同居することもある。感染拡大が起きるのは、時間の問題だった。
ロメラの湖で水をくむ子どもたち。こうした日常の行為が<br> コレラ感染のリスクとなっている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
ロメラの湖で水をくむ子どもたち。こうした日常の行為が
コレラ感染のリスクとなっている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF

「MSFが来なければ死んでいた」

この事態に対応した主な国際組織がMSFだった。

5月9日に緊急援助を始め、4日間で8000人以上にワクチン接種をした。だがワクチンの供給量は限られており、本来必要な2回ではなく1回の接種しかできなかった。また、MSFはコレラを治療するための専用ベッド20床を用意。600人以上を治療したが、その多くは搬送された時に重体だった。

MSFの医師テオフィル・アマニは「患者のほとんどは鉱山労働者で、金鉱石を湖の水で処理する際にコレラ菌にさらされます」と説明する。さらに労働者の多くは過酷な肉体労働などで脱水状態に陥っており、症状が重くなる傾向にあったという。

ロメラの金鉱で働いてコレラに感染したボヌール・マガンダさん(中央)。労働者は汚染された水を使っており、感染のリスクにさらされている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
ロメラの金鉱で働いてコレラに感染したボヌール・マガンダさん(中央)。労働者は汚染された水を使っており、感染のリスクにさらされている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF


「MSFが来なければ、多くの同僚が死んでいた」

こう語るのは、カバンバ出身のボヌール・マガンダさん(25)。子どもたちを養うためにロメラの鉱山で働き始めたが、1週間もたたずにコレラに感染した。最近になってやっと退院したが、同僚の多くがコレラで苦しんでいる。

マガンダさんは「健康推進員から、きれいな水で手を洗うこと、食べる物に気をつけることの大切さを教わりました。このことを周りの人たちにも伝えます」と話した。

治療と並行して、MSFは湖のそばに浄水設備と給水所をつくり、毎日約6万リットルの清潔な水を供給している。

さらにロメラの飲食店や公共の場所などにトイレ100基、手洗い場25カ所を新たに設置した。その上、感染が疑われる人を追跡調査して予防治療したことで、感染拡大は一定の落ち着きを見せ始めた。

再び感染しないよう、MSFは治療を終えた患者にバケツや浄水剤、石鹸などをまとめた衛生キットを配るほか、スタッフが予防のためのアドバイスも伝える。
MSFがロメラに作った浄水設備=2025年6月18日<br>  Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
MSFがロメラに作った浄水設備=2025年6月18日
 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF

東部の医療援助は危機的状況

MSFの緊急援助は間もなく他の組織へ引き継がれるが、清潔な水を安定して確保するためには長期的な対応策が急務だ。

MSFのブカブ地区での活動責任者、ミュリエル・ブルシエは「まだ水や衛生のインフラは不十分で、例えば最寄りの井戸は3キロも先にあります。本格的に投資しなければ、今回のような感染症の流行はこれからも繰り返されるでしょう」と警鐘を鳴らす。

MSFがロメラで使っている水を浄化するタブレット<br> =2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
MSFがロメラで使っている水を浄化するタブレット
=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
人の出入りが激しいロメラでは、ワクチンの追加供給も必要だ。しかしコンゴ東部全域で、ワクチンや薬、医療機器といった命を守る物資の供給が今まで以上に難しくなっている。

「治安の悪化に加え、ブカブやゴマの空港閉鎖が物資の輸送に深刻な影響を与え、救命活動そのものが制約を受けています。さらには国際社会における人道援助の予算削減も物資の調達に影響しているのです」とブルシエは強調する。

関係当局や国際社会には、この地域で起きている幅広い健康危機に対応するため、あらゆる手段を尽くして支援体制の再構築と衛生対策の強化に取り組んでほしいのです。

ミュリエル・ブルシエ MSFブカブ地区活動責任者

MSFスタッフはロメラでコレラ流行に関する啓発活動もしている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF
MSFスタッフはロメラでコレラ流行に関する啓発活動もしている=2025年6月18日 Ⓒ Sam Bradpiece/MSF

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