海外派遣スタッフ体験談

紛争の影響で一時は活動中断も、チームワークで乗り切る

吉野 美幸

ポジション
外科医
派遣国
中央アフリカ共和国
活動地域
バンガッスー
派遣期間
2017年8月~2017年9月

QMSFの海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

前回、コンゴ民主共和国の活動から帰って約2週間の休暇後に、新しくオープンするイラクのプロジェクトに行く予定でしたが、最終的には予定が変更となり、中央アフリカ共和国へ出発することになりました。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

出発まであまり日がなかったので、セキュリティー状況などの現地情報を出来るだけ集めることに専念しました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

中央アフリカ共和国は2016年の活動2015年の活動でも行った国だったので、首都バンギのようすはすでに知っていました。また以前に覚えた現地語のサンゴ語が、現地スタッフとの距離を縮めるのに大いに役立ちました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
首都からバンガッスーへ小さなセスナで移動 首都からバンガッスーへ小さなセスナで移動

中央アフリカ共和国では数年前より宗教間対立による紛争が続いています。私の派遣されたバンガッスーという地区では、イスラム教徒は隔離されたスペースで隠れて暮らしており、そこを出るとキリスト教系民兵組織「アンチ・バラカ」勢力に命を狙われるという状況でした。

セキュリティーの状態が不安定だということは現地入りする前から知っていましたが、その地域に住む罪のない人びとが多数負傷しており、外科治療を必要としているとのことだったので、派遣を引き受けました。

現地までは首都バンギから小型セスナ機での移動でしたが、現地の空港が小さいせいもあり、天候不良で2度もフライトがキャンセルとなり、結局現地入りできたのは約1週間後でした。

MSFはバンガッスーで地域診療所のサポートと、そこから紹介される重症患者の入院・手術などの活動をしていました。病院には外科を勉強中の総合内科医が1人いるだけで、外科専門医は不在でした。約40床の外科病棟のほかに、小児科、産婦人科、救急室がありました。

主な症例は、マシェットという大きな草刈り鎌による傷が多く、ほかに銃創も多くみられました。また産婦人科から依頼があれば帝王切開や子宮全摘などの外科治療をするのも外科チームの仕事でした。

2017年5月頃より現地のセキュリティーが不安定になったため、海外派遣スタッフは最小限の人数に抑えられていました。外科医1人、麻酔科医1人、病院マネジャー1人、医療チームリーダー1人、看護師長1人、助産師1人、薬剤師1人、プロジェクト・コーディネーター1人、ロジスティシャン2人、アドミニストレーター1人という計11人の小さなチームでスタートし、途中で8人になりました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
一緒に活動した手術室スタッフと 一緒に活動した手術室スタッフと

毎朝7時半に宿舎から病院に移動し、ミーティング後に病棟回診。その後2つの手術室に分かれて手術を行いました。昼は一度宿舎に戻って食事をとり、午後はまた病院に戻って5時まで勤務。その後は、現地医師1人が病院で当直という体制でした。予定手術は1日5~8件前後あり、その他に緊急手術を数件行いました。

私の滞在中に残念ながら安全状況が非常に悪くなる事態があり、その影響で一時、活動停止を余儀なくされました。約1週間は宿舎待機となってしまい、その後も緊急症例のみの対応という制限がされていました。

思うように活動できずにもどかしさも感じましたが、やはりチームの安全が最優先であるため、自分自身を納得させるようにしました。

Q現地での住居環境についておしえてください。
宿舎では外国人スタッフと共同生活 宿舎では外国人スタッフと共同生活

病院から車で約5分の場所にある宿舎に外国人派遣スタッフがみんなで生活していました。セキュリティー状況が良かった時期には、病院増築のため外国から派遣さえてきたロジスティシャンがたくさんいたそうですが、私の派遣された時期には増築は中断となっており、必要最小限のメンバーのみで活動を運営していたため、広い宿舎に少ない人数が住んでいました。

宿舎は、MSFのアフリカの活動の中でもかなり簡素な作りで、バケツと手桶でシャワーを浴び、トイレは穴があるだけのシンプルなものでした。現地で手に入る食料が限られており、ほかは首都からの空輸に頼っていたのですが、何日もフライトがキャンセルになることがあり、食べるものがパスタと米飯にわずかな野菜しかないことも時々ありました。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
現地スタッフと手術に臨む筆者(左) 現地スタッフと手術に臨む筆者(左)

バンガッスーの病院には外科専門医がおらず、現地の外科トレーニングを受けた総合医(つまり外科医ではない医師)1人が外科治療を引き受けていました。私のような、外国から派遣されてきたの外科医が彼に外科手技や手術適応の判断などを教え、万が一外国人派遣スタッフが退避した際にも彼が手術を出来るようにするのが目標となっていました。

まだトレーニングを始めてから数ヵ月のため、経験や知識は不足しているものの、彼はモチベーションが高く、外国人スタッフから出来るだけいろいろな技術を学ぼうと努力していました。その前向きな姿勢からは私も多くのことを学びました。

宿舎の癒し猫ベラちゃん 宿舎の癒し猫ベラちゃん

今回は派遣期間が短かったため、プロジェクトの内容を改善したり変更したりするのが難しかったです。ただでさえ短い期間中に、さらに活動が一時中断となったりして、フラストレーションを感じました。

セキュリティー状況は非常に不安定で、宿舎内にある金属の壁で覆われた避難所に避難する場面が何度かありました。緊迫した状況ではあるものの、チーム全体の雰囲気が良かったため少し緊張が緩和され、また宿舎に住んでいるネコが避難所に遊びに来たりして、みんなを癒してくれていました。

Q今後の展望は?

6ヵ月間は日本の病院に戻って消化器外科医として勤務し、また来春にフィールドに行きたいと考えています。それまでにフランス語をブラッシュアップしたいです。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

誰かの苦手分野を、ほかの誰かがこっそり補う。そんなチームスピリットがフィールドにはあります。それはアフリカの星空のように、美しくあたたかく貴方を迎えてくれるでしょう。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2017年6月~2017年8月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • 活動地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2017年4月~2017年6月
  • 派遣国:イラク
  • 活動地域:ニネワ県カイヤラ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年8月~2016年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • 活動地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2016年6月~2016年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • 活動地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年8月~2015年9月
  • 派遣国:中央アフリカ共和国
  • 活動地域:バンギ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2015年6月~2015年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • 活動地域:ルチュル
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年4月~2014年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年6月~2013年10月
  • 派遣国:アフガニスタン
  • 活動地域:クンドゥーズ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年4月~2013年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年8月~2012年9月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年6月~2012年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年4月~2012年5月
  • 派遣国:ナイジェリア
  • 活動地域:ポートハーコート
  • ポジション:外科医

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