海外派遣スタッフ体験談

仲間に恵まれ、難しい症例にも対応

吉野 美幸

ポジション
外科医
派遣国
中央アフリカ共和国
活動地域
バンギ
派遣期間
2015年8月~2015年9月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

コンゴ民主共和国の活動から帰国して1ヵ月ほどお休みをいただき、私にとって2回目のフランス語圏での活動である中央アフリカ共和国の派遣依頼を受けました。今年はフランス語づくしの年にすると決めていたので、良いチャンスをもらえたと感じています。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

コンゴ民主共和国から帰国後、予定していた専門医試験を受け、その後3週間はしっかり休んで気分転換をしようと決めていたので、旅行に行ったりしていました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

前回の活動で学んだフランス語がかなり役に立ち、今回はスムーズに活動に入っていくことができました。また、緊急手術をするかどうかの判断が難しい症例に出会った時も、これまでの経験が判断の助けとなり、良い結果を得られました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
手術中の筆者(右) 手術中の筆者(右)

中央アフリカ共和国の首都バンギの病院での外科プログラムでした。バンギ周辺では昨年から続いていた紛争・暴動がやや落ち着いてきており、MSFの活動も、プログラムを縮小していく計画が話し合われていました。実際に私が派遣された最初の1~2週間は比較的穏やかでした。ところが、後半になるにつれ、銃創やナイフなど暴力により負傷した患者の数が増えていき、現場にも緊張感が高まってきました。

海外派遣スタッフは外科医1人、整形外科医1人、麻酔科医1人、麻酔看護師1人、内科・救急医1人、医療チームリーダー1人、病院マネジャー1人、看護師長1人、薬剤師1人、その他にロジスティシャン、アドミニストレーター数人ずつがいました。

外科医と麻酔科医で毎朝(土日も)7時30分から集中治療室の回診を行いました。その後、2つある手術室に外科医と整形外科医で分かれ、1日10~20件の手術を行いました。

外科医と呼ばれる私の職種は、整形外科領域以外はほとんどすべての症例を受け持ちます。バンギではアフリカで多く見られるブルーリ潰瘍(かいよう)など、日本ではほとんど見ない四肢の感染症や、衛生状態が悪いことによる創部感染などを多く治療しました。また気管や顔面の損傷、泌尿器系のトラブル、やけどや外傷による皮膚・軟部組織欠損に対する植皮なども外科医の仕事でした。6週間で230例の手術を行いました。

整形外科医が多忙な時は、私も整形外科症例を手伝ったり、創外固定を教えてもらいながら一緒にやったりすることもあり、とても良い勉強になりました。

派遣期間中に2度、紛争激化によるマス・カジュアリティー(集団災害)が発生しました。状態が不安定な患者が多数搬送されて来た状況下で、外科医、麻酔科医、看護師などみんなで協力して迅速かつ臨機応変に対応し、多くの患者さんを救命できたことはとても喜ばしかったです。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
海外派遣スタッフの仲間と食事に行くことも 海外派遣スタッフの仲間と食事に行くことも

月曜から日曜まで朝7時30分のICU(集中治療室)回診から始まり、大体午後5~7時ころまで手術をしていました。また水曜日は朝7時からミーティングがあるという、なかなかハードなスケジュールでした。

派遣期間の後半は夜中まで手術をしていることもあり、翌朝起きるのがつらい日もありましたが、6週間なので何とか持ちこたえました。

日曜日は予定手術を入れないようにしていたので、急患が来るまでは病院から外にでてカフェでのんびりブランチをとったり、週末の夜はみんなでレストランに行ったりすることもありました。首都の活動ならではの、ぜいたくな過ごし方でした。

Q現地での住居環境についておしえてください。

病院の2階の1区画を海外スタッフの宿舎として使用していました。4畳程度の個室に蚊帳付きのベッドと棚が与えられていました。

共用のトイレが時々つまったのと、シャワーが水しか出なかったのがちょっとつらかったですが、1週間もすると慣れてきました。

病院内なので衛生環境はよく、小さなアリと蚊が部屋に時々出るくらいで、ゴキブリやヤモリはごくまれにキッチンやバルコニーで見た程度でした。

食事は現地の調理スタッフが作ってくれました。毎日のように鶏肉料理でメニューがほとんど同じなので、飽きている人が多かったと思います。帰りの機内食の魚料理がとてもおいしいと感じるくらい、魚に飢えていました(笑)。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
同じプロジェクトで仕事をした日本人スタッフ(医療チームリーダー)と 同じプロジェクトで仕事をした
日本人スタッフ(医療チームリーダー)と

<良かったこと>
今回も良いチームメートに恵まれました。若いスタッフが多く、みんな兄弟姉妹みたいにずっと一緒に過ごしていることが多かったです(私は疲れている時は適当に距離を保っていました)。

やけどや外傷後の皮膚欠損の患者さんが多く、植皮術を多数行って、そのうちほとんどの症例が上手く皮膚が生着してくれて退院することができました。「ミユキが来てから包帯交換が必要な人が激減したし、みんな退院できたよー。」と、チームから感謝してもらえたのが嬉しかったです。

<大変だったこと>
四肢の感染症や特殊な潰瘍など、慣れない症例の治療を受け持つ機会が多かったため、最初の1週間位はストレスを感じました。自分でいろいろ勉強して慣れていくうちにあまり苦ではなくなっていきました。

フランス語は、前回よりかなり話せるようになったものの、ICU回診などで、猛スピードでまくし立てられると理解できないことがありました。ほかのドクターの助けも借りて、それほど困ることはなかったけれど、まだまだ勉強を続けなければと感じました。

Q今後の展望は?

日本で10月からの6ヵ月間、消化器外科医として勤務します。日本にいる期間に、依頼されていた講演活動をしていくのと、フランス語を勉強しておきたいと思っています。 2016年の4月からまたMSFと一緒に働く予定です。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

英語もフランス語もそうですが、話せる言葉が一種類増えるということは、膨大な人数とコミュニケーションが取れるようになることを意味します。文法が完璧でなくても、発音が上手くなくても、話そうという姿勢があれば、気持ちは通じるものだと思います。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2015年6月~2015年7月
  • 派遣国:コンゴ民主共和国
  • 活動地域:—
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2014年4月~2014年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年6月~2013年10月
  • 派遣国:アフガニスタン
  • 活動地域:クンドゥーズ
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2013年4月~2013年6月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年8月~2012年9月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年6月~2012年7月
  • 派遣国:パキスタン
  • 活動地域:ハングー
  • ポジション:外科医
  • 派遣期間:2012年4月~2012年5月
  • 派遣国:ナイジェリア
  • 活動地域:ポートハーコート
  • ポジション:外科医

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