崩壊した社会サービス、続くドローン攻撃──それでも砂漠にテントの病院を建てる:MSF会長が見たスーダン・ダルフールの現状
2026年05月25日
国境なき医師団(MSF)インターナショナル会長のジャビド・アブデルモネイム医師が、スーダン西部ダルフール地方のMSFプロジェクトを訪問した。
五つの州に分かれるダルフール地方では2023年に始まったスーダン内戦で激しい暴力が吹き荒れ、民間人の殺害、さらには特定の民族を標的とした虐殺行為、医療への攻撃、過酷な性暴力といった深刻な問題が相次いでいる。人道ニーズは膨大だ。今回、ダルフールを訪れたMSFインターナショナル会長が、医師として見た人びとの状況と、必要な支援の姿とは。
砂漠のテント病院で新生児を集中治療
──初めてダルフール地方を訪れ、最も印象に残ったことは?
ダルフールでは、MSFが支援する病院5カ所を訪れました。多くのMSFプロジェクトは病院の運営で、保健省と連携して運営されているものもあれば、MSFが直接運営しているものもあります。
最も印象的だったのは、MSFが実現している医療の水準です。特に、暑い砂漠にある北ダルフール州タウィラのMSF病院で、二重の断熱構造と空調設備を備えたテント内に新生児集中治療室(NICU)が設けられ、新生児に対して非常に高い水準のケアが提供されているのを目にし、強く印象に残りました。
MSFが提供しているのは基礎医療や予防接種、感染症対応、水と衛生にとどまりません。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)を含め、あらゆるレベルの医療を提供しています。
また、南ダルフール州ニヤラや中央ダルフール州ザリンゲイでは、保健省とともに病院の再建や改修も進めています。課題は多いですが、この水準の医療が実現できていることに、思わず笑顔になりました。
──現地で目にした最も緊急性の高い人道ニーズは?
極めて深刻なニーズがあります。雨期が近づいており、コレラやマラリアの発生、医療へのアクセスのさらなる困難化が予想され、その結果として命を落とす人が増える可能性があります。
もう一つの大きな懸念は、医療への攻撃が続いていることです。問題は膨大なニーズだけではなく、そのニーズに応えようとしている医療サービス自体が攻撃を受けており、現場に強い萎縮効果をもたらしている点にあります。
対応にも大きなギャップがあります。本来必要な数よりもはるかに少ない団体しか、ダルフール地方で活動していません。これは、世界的な資金削減による援助危機の影響でもあります。
中央ダルフール州では、45カ所以上の基礎医療施設への支援が打ち切られています。MSFができることは限られており、ニーズの規模には到底追いつきません。ダルフールに支援を届けるため、他の団体にも最大限の努力を尽くしてほしいと呼びかけています。
──ダルフールの人びとの生活環境を目にして、医師として感じたことは?
深い懸念を抱いています。タウィラ周辺のキャンプで一日を過ごしましたが、何十万人もの人びとが非常に厳しい環境で暮らしていました。食事は1日1回しかとれないという声もあり、水不足や長い給水の列、物資が急速に減っていることについても話を聞きました。
人びとは雨期についても強い不安を抱えています。住まいはアシや草で作られており、仮設トイレはすでに満杯で、屋外で用を足さざるを得ない状況です。雨が降れば深刻な衛生リスクが生じます。これは現状に対する大きな警鐘です。人びとが到着してから何カ月もたっているにもかかわらず、なぜ基本的なサービスがこんなに足りないのか、疑問を感じます。
広大な地域、乏しい交通手段——医療アクセスに大きな課題
──医療にアクセスするうえで人びとが直面する障壁や課題は?
ダルフールは他地域から大きく隔絶しており、地域内でも移動距離が非常に長くなります。例えば西ダルフール州の山岳地帯ジャバル・マラ地域の一部の活動地へは、数時間ロバで移動しなければたどり着けず、雨期には孤立することもあります。
これは物資や患者のアクセスに大きく影響します。病院のある町の間の移動でも、困難な地形を越えて車で4~6時間かかりました。出産直前で陣痛のある女性や重いけがをした人にとって、医療施設にたどり着くこと自体が極めて困難です。
移動には費用がかかり、ロバの引く荷車に頼ることも多く、時間も要します。本来は治療に充てられるべき時間です。距離や費用、インフラ不足はすべて、病気や死亡のリスクを高めています。
続く医療への攻撃
──スーダンでは医療への攻撃が繰り返されていますが、患者や医療従事者にどのような影響が?
医療への攻撃が繰り返されることで、スタッフの間には強い恐怖が生まれています。いつドローンが病院を攻撃するか分からない状況では、不安を感じますよね。
最近数カ月でも、白ナイル州のアル・ジャバライン病院や東ダルフール州のダイーンで攻撃があり、患者や医療従事者が亡くなっています。このようなことは決して起こってはなりません。
MSFは引き続き、紛争当事者に国際法上の義務を順守するよう求めています。病院は保護されるべき場所です。予防策は講じていますが、大規模なドローン攻撃から医療施設を守ることは極めて難しいのが現実です。
人びとの連帯にスーダン社会の強さが
──この状況の中で、希望を感じるものは?
現実的に考えて、内戦が近く終わる兆しは見えません。
これは地球規模の危機です。無力感を覚えるときには、小さなケアや連帯の行為、日々の人と人との関わりに目を向けています。それが今も意味を持っているからです。
これはスーダン社会の強さだと感じています。深いもてなしの心と、互いに支え合おうとする強い意志があります。これが私に希望を与えてくれています。その心と意思はスーダンの人びとの中にも、MSFの中にもあり、私たちが支援を続ける原動力となっています。
──地域社会やスタッフとのやり取りで印象に残ったことは?
性暴力はこの紛争の特徴の一つです。タウィラでの住民との会合では、妊産婦や子どもの死亡、性暴力について人びとに質問し、その経験を理解しようとしました。
性暴力については、スティグマのために十分な回答が得られないことが多いです。しかし女性たちは、どこで治療を受けられるかを知っており、MSFスタッフの名前まで知っていました。これは、人びとが医療を求める場所を知っているという点では小さな前進ですが、同時に暴力が広くまん延していることも示しています。
今こそ民間人の保護を
──スーダン国外の人びとに伝えたいことは?
スーダンで起きているのは、人びとの命と生活環境を意図して狙う、「人びとに対する戦争」です。そのことを知ってほしいと思います。著しい暴力や故郷からの追放、医療への攻撃、そして医療体制のほぼ完全な崩壊が起きています。
電力も通信網も銀行機能もなく、経済も崩壊しています。ドローン攻撃もあり、生活環境は極めて厳しいものです。
その一方で、感染症の流行や栄養失調、母子保健の危機、性暴力、民族間の暴力も重なっています。これは複雑で長期化した紛争であり、人びとに壊滅的な影響を与えています。いま求められているのは、紛争当事者が民間人を尊重し、保護することです。
※ダルフール地方は総面積約50万平方キロメートルで日本よりも広く、北ダルフール、南ダルフール、中央ダルフール、東ダルフール、西ダルフールの5州に分かれる。
アブデルモネイム医師は、北ダルフールのタウィラ、中央ダルフールのザリンゲイおよびロケロ、南ダルフールのニヤラおよびカス、西ダルフールのジェネイナを訪問した。




