子どもの死が当たり前の世界で──スーダン東部、援助の空白が広がる難民キャンプのいま

2026年07月09日
スーダン東部のウム・ラクバ難民キャンプ内にある国境なき医師団(MSF)の病院に集まった人びと=2026年6月8日 © MSF
スーダン東部のウム・ラクバ難民キャンプ内にある国境なき医師団(MSF)の病院に集まった人びと=2026年6月8日 © MSF

2023年4月15日に勃発した内戦が今なお続くスーダン。この争いにより約1200万人が家を追われ、世界最大の避難民危機となっている。
 
そのスーダンでは今、「深刻」という言葉が当たり前になってしまった。多くの地域で医療や栄養支援、安全な水、そして生きるために欠かせない基本的な物資が不足している。支援ニーズはますます増加しているが、多くの危機は壊滅的なレベルに達しなければ国際社会の関心を集められず、緊急援助に必要な資金も確保しにくい状況にある。

「ほかに頼れるところはない」──ひっ迫する医療体制

スーダン東部ゲダレフ州にあるウム・ラクバ難民キャンプは、まだ国際的に大きな注目を集めるほどの危機的状況には至っていない。しかし、危機の兆候はすでに至るところに現れている。

キャンプ内の病院で最もよく耳にするのは、新生児の泣き声だ。生まれたばかりの赤ちゃんや、マラリア栄養失調、その他の緊急疾患の治療を受ける赤ちゃんたちの鳴き声が、あたりに響いている。その声は、ほかのあらゆる音をかき消すほどだ。

ウム・ラクバ難民キャンプは、エチオピア北部ティグレ州で紛争が勃発した2020年以降、エチオピアから避難してきた人びとを受け入れてきた。現在、約1万7000人が暮らしており、その多くを女性と子どもが占めている。

ウム・ラクバ難民キャンプ内の栄養失調病棟=2024年11月21日 © Faiz Abubakr
ウム・ラクバ難民キャンプ内の栄養失調病棟=2024年11月21日 © Faiz Abubakr


国境なき医師団(MSF)はこのキャンプでの援助活動が始まった当初から現地で活動し、キャンプ内の病院を支援するとともに、救急医療を提供してきた。
 
しかし、2023年にスーダン国内で武力衝突が勃発すると、この病院は難民のための医療施設という役割をはるかに超える存在となった。現在、診療の約80%は周辺地域に暮らすスーダン人が占めており、その対象人口は約10万人に上る。

「私たちの地域では3つも4つも病院が閉鎖されてしまい、ここへ来るしかありませんでした」

おばと我が子の診察のために、キャンプ内の病院を訪れたスーダン人女性のマナサクさんは話す。

ほかに頼れる場所はありません。スーダン人の地域住民だけでなく、難民の人びとのためにも、もっと多くの支援が必要です。

マナサクさん キャンプ内の病院を訪れたスーダン人女性

ウム・ラクバ難民キャンプ内にあるMSF病院の外来待合室で、診察を待つ人びと=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF
ウム・ラクバ難民キャンプ内にあるMSF病院の外来待合室で、診察を待つ人びと=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF

相次ぐNGOの撤退

エチオピア難民への支援が最も活発だった2021年頃、ウム・ラクバ難民キャンプとその周辺では約35の国内外の援助団体が活動していた。しかし現在、その数は10にも満たない。

キャンプ内のMSF病院で、患者の話に耳を傾けるMSFの医師 © MSF
キャンプ内のMSF病院で、患者の話に耳を傾けるMSFの医師 © MSF
多くの団体は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からの資金に大きく依存していた。しかし、人道援助への拠出金が減少するにつれ、提供されるサービスも次第に縮小されていった。

その影響は、あらゆる分野に及んでいる。MSFスタッフは地域の代表者たちから、基礎医療をはじめ保護サービス、水・衛生環境、食料支援、教育などへのアクセスが悪化しているとの声を繰り返し耳にしている。

「MSFの健康啓発チームは、基本的なサービスの縮小に関する人びとの不安の声を絶えず聞いています」と、キャンプ内のMSF病院でプロジェクト・コーディネーターを務めるゼリー・アンティエは言う。
 
「地域の人びとは今もMSFに強い信頼を寄せています。しかし同時に、拡大する援助の空白を埋めるため、私たちにより積極的な働きかけを求めています」

女性や子どもを支援する現地の団体も、増え続けるニーズに応えるための資金や人員が十分ではありません。

ゼリー・アンティエ MSFプロジェクト・コーディネーター

その影響は医療分野だけにとどまらない。難民向けの保護支援の紹介体制は弱体化しており、とりわけ女性や子ども、保護者のいない未成年者が大きな影響を受けている。

水・衛生サービスの不足も、地域社会と病院の双方に負担をもたらしている。また、難民の人びとからは食料支援が縮小されたとの声が上がっている。さらに、基礎医療施設での治療が中断されていることで、患者がMSFの施設にたどり着くころには、より深刻な合併症を伴っているケースも増えている。

人道援助団体の撤退が相次ぐなか、増大するニーズに対して、地域住民や難民の人びとが頼れる支援の選択肢はますます限られている。

ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の様子=2026年6月8日 © MSF
ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の様子=2026年6月8日 © MSF

資源をめぐる争い

キャンプのあるゲダレフ州は前線から離れているものの、スーダンで戦闘が始まって以降、その負担は増す一方だ。

2024年にハルツーム州やセンナール州、ジャジーラ州など戦闘の激しい地域から100万人以上が避難してきたことで、もともと限られていた公共サービスはさらにひっ迫した。そこへコレラの流行も重なり、地域の医療体制は限界に近い状況に追い込まれた。

多くの人びとにとって、この危機は今や「資源をめぐる争い」となっている。

1年ほど前にゲダレフ州を訪れたMSFの小児科医ターニャ・ハッジ・ハサンは、病院へ向かう途中、車窓の外に広がる緑豊かな農地を目にしたことを今も覚えている。

「スーダンはかつて、この地域の『食料庫』と呼ばれていました。それにもかかわらず、私たちは毎日のように重度の急性栄養失調に苦しむ子どもたちを治療していました」

私の医師人生で、これほどまでの絶望を目の当たりにしたことはありませんでした。

ターニャ・ハッジ・ハサン MSFの小児科医

そして何よりも彼女がショックを受けたのは、多くの母親たちが希望を失っていたことだった。
 
「その光景を初めて目にしたのは、ある母親が危篤状態の子どもを救急外来に連れてきたときでした」と、ハサンは振り返る。
 
「私たちがその子の蘇生処置を行っている最中、母親が『もう帰ってもいいですか』と尋ねたのです。私たちは『このままではお子さんが亡くなってしまうかもしれません』と伝えましたが、彼女はただそれを受け入れていました」 

これは、スーダンで、子どもの死がいかに悲劇的なまでに当たり前になっているかを物語っています。

ターニャ・ハッジ・ハサン MSFの小児科医

ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の救急室で治療を受ける女の子とその母親=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF
ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の救急室で治療を受ける女の子とその母親=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF

必要なのは、より大きな支援の輪

ハサンがこの地を訪れてから約1年がたった今も、キャンプは同様の課題に直面している。

食料支援は依然として不十分だ。現在、配給される小麦は1人当たり月約4キログラムで、月によっては約2.5キログラムにまで減ることもある。これは、スーダンで戦闘が始まる直前の2023年初頭に配給されていた約14キログラムと比べると、大幅な減少だ。

さらに、トイレが不足しており、住環境も劣悪なままだ。難民の保護をめぐる懸念も高まり続けている。資金削減の影響は今なお深刻で、水・衛生サービスや住居支援、保護活動に加え、基礎医療の提供にも大きな支障を及ぼしている。

このキャンプで二次医療と、性的・ジェンダーに基づく暴力の被害者に対する包括的な支援を提供しているのはMSFだけだ。また、HIV結核顧みられない熱帯病の診療を受けられる機会は依然として著しく限られている。さらに、コレラやはしか、マラリア、髄膜炎の流行が繰り返し発生し、弱い立場に置かれた人びとの命と健康を脅かし続けている。

ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF診療所で、2日前に生まれた我が子に寄り添う母親=2024年11月21日 © Faiz Abubakr
ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF診療所で、2日前に生まれた我が子に寄り添う母親=2024年11月21日 © Faiz Abubakr


現地でMSFの活動責任者を務めるムハンマド・アフマドは言う。

医療や保護支援だけでなく、水や衛生、食料、教育に至るまで、あらゆる分野で人びとは『見捨てられていると感じる』と訴えています。

ムハンマド・アフマド MSF活動責任者

「援助資金の増額と、人道援助体制の強化が急務です。そうでなければ、人びとは今後も防ぐことのできる苦しみを強いられ続けるでしょう。MSFだけでは、この危機に対応しきれません」
 
MSFはこれまでも、人道援助団体や国連機関に対し、ウム・ラクバ難民キャンプとその周辺での生活環境や基礎的なサービスの悪化について警鐘を鳴らしてきた。
 
しかし、こうした警告や高まり続けるニーズにもかかわらず、援助を拡大するための具体的な計画は今なお示されていない。
 
スーダンの現地団体は、極めて限られた資源のなかで重要な支援活動を続けている。その貢献は不可欠だが、十分な資金が確保された包括的な人道援助活動に取って代わることはできない。
 
「私たちは資金拠出者や人道援助団体に対し、言葉だけでなく行動で示してほしいと訴えています」と、アフマドは話す。
 
「人びとは約束だけでは生きていけません。必要なのは、保護体制の強化と基礎医療の再建、そして生活を支える不可欠なサービスへのさらなる投資です」

難民の人びとが置かれた状況を、スーダン危機という大きな問題の陰に埋もれさせてはなりません。

ムハンマド・アフマド MSF活動責任者

ウム・ラクバの人びとが求めているのは、同情ではない。誰もが当然保障されるべき最低限の権利──医療、保護、そして尊厳を持って生きる機会だ。
 
今日もウム・ラクバの病棟には、新生児の泣き声が響いている。難民の母親たちも、地域の住民たちも、医療を求めて次々と病院の門をくぐる。
 
問われているのは、ニーズがあるかどうかではない。明白なニーズに応えるために行動する意思が、国際社会にあるかどうかだ。

腎臓の感染症の治療を受けるため、ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の小児病棟に入院している男の子とその父親=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF
腎臓の感染症の治療を受けるため、ウム・ラクバ難民キャンプ内のMSF病院の小児病棟に入院している男の子とその父親=2024年9月17日 © Timothée Bouvet/MSF

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