移民政策に変化を 国境なき医師団がバイデン新大統領に求める5つの施策
2021年02月10日トランプ政権下で続いた、メキシコ国境におけるアメリカの排他的な移民政策が、ジョー・バイデン新大統領の誕生によって変わろうとしている。
国境なき医師団(MSF)は、バイデン大統領が表明した「移民保護プロトコル(MPP)(※)」の差し止めを歓迎するとともに、新政権に対し、全ての人が人道援助、医療、保護を受けられるよう、5つの移民・難民問題に関する施策を提案する。
※移民保護プロトコル(MPP):審査期間中、保護申請をした移民をメキシコ側で待機させる制度
中南米からの移民・難民が直面する苦難
2012年以降、MSFはメキシコを通ってアメリカへと向かう移動ルートに沿って、数万人の移民に医療と心のケアを提供してきた。暴力や極度の貧困から逃れてきた人びとが経験した苦しみは壮絶なものだ。
またMPPの施行によって、難民申請の審査が行われる期間メキシコに強制送還された6万7000人余りの人びとは、不衛生なキャンプに留め置かれ、また人身売買やギャングによる犯罪に巻き込まれる危険性にさらされている。
トランプ政権下で進められた排他的な移民政策
4年前にトランプ政権が難民申請者の保護制度を撤廃したとき、難民・移民が抱える苦しみは増大した。とりわけ大きな影響を及ぼしたのは、前述のMPPと、連邦規則第42編 公衆衛生と社会福祉に基づいて出された「メータリング」と呼ばれる行政命令だ。メータリングは、1日あたりの難民申請の受付数を制限するものであり、MSFは1万5500人余りの難民申請者がメキシコで待機させられていると推定している。
また、米国疾病対策センター(CDC)は連邦規則第42編に基づき、新型コロナウイルス感染症への対策を名目に、アメリカへの入国を希望する39万人以上の移民・難民を直ちに強制送還するという行政命令を出した。
しかし、MSFはこれまで数多くの感染症に対応してきた経験から、公衆衛生対策は包括的に行われない限り、その効果を十分に発揮しないことを知っている。移民や難民申請者など、脆弱な立場の人たちを除外しては達成できないのだ。
MSFがバイデン大統領に提案する5つの施策
こうした状況を踏まえ、MSFはバイデン新政権に対し、抑制的な移民政策を廃止するとともに、移民・難民の命を救い、彼らの健康を確保するための5つの施策の実行を求める。
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現在一時的に差し止められている、移民保護プロトコル(MPP)の全面的な廃止。
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連邦規則第42編に基づいて出された行政命令の取り消しを含む、より人道的な対移民政策の策定。
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1日あたりの難民申請の受付数を制限する「メータリング」の廃止。
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米国の難民申請者保護制度の再構築。合理的な一連の措置を緊急に整備する。
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中南米の各国政府との連携。保護と安全を求める人びとに対処し、悪化する人道危機の改善につなげる。