スタッフ26人といまも連絡とれず──南スーダンで爆撃を逃れた看護師が証言する、病院の破壊と妻子との離別
2026年03月11日
291人中、26人のスタッフといまだに連絡がとれない──。
2025年12月以降、南スーダン東部で暴力が激化して医療への攻撃が相次いでいる。
今年2月上旬には国境なき医師団(MSF)の病院が南スーダン政府軍の空爆に遭い、すべての活動を止めざるを得なくなった。MSFは音信不通となっている現地スタッフの安否を深く憂慮している。
その空爆を逃れ、現在は首都に身を寄せるMSFの看護師アルバート(仮名)。攻撃を受けた当時の状況と、家族と離れ離れになっている避難の日々について証言した。
夜9時の爆撃
「爆撃があったのは、ちょうど夜の9時でした」
南スーダン東部のジョングレイ州ランキエンで活動していたアルバートは、当時の緊迫した状況についてこう振り返る。
そのとき、私たちは病院の敷地内にはいませんでした。(すでに周辺で緊張が高まり、町を攻撃される恐れがあったため)敷地から離れるよう指示されていたのです。翌朝、銃声を聞いて、自分の身を守るためにすぐ走って逃げました。
南スーダン・ランキエンで活動していたMSF看護師 アルバート(仮名)
ランキエンのMSF病院が、政府軍によって爆撃を受けたのは2月3日夜。
広い範囲が損壊し、倉庫や燃料庫、医療活動に欠かせない重要施設も焼失した。医薬品、ワクチン、輸血用の血液といった医療物資も破壊されるか、奪われた。
その後、数日にわたって暴力が激化し、アルバートら医療従事者たちもランキエンの住民と共に避難を強いられた。
アルバートにとって、今回の出来事は単に職場を失ったというだけではない。住まいを失い、大切な家族とも突然引き離されたのだ。
家族とも完全に離ればなれです。妻も子どもたちも、どこにいるのかわかりません。いまも生きているのかどうかさえ、わかりません。
南スーダン・ランキエンで活動していたMSF看護師 アルバート(仮名)
空爆があった夜、爆撃が激しくなるなか自宅は焼かれ、持ち物も略奪された。アルバートはピーナツペーストの補助食とビスケット、身分証明書などの書類を入れた小さなバッグだけを手にし、森の中へと命からがら逃れた。
安全な場所にたどり着くまでの5日間、武装した男たちの目を避けながら、人里離れた道を歩き続けた。
道中で食べたのは、ピーナツペーストとビスケットだけでした。自分自身は少し落ち着きました。でも、子どもたちがどこにいるのかわからないので、精神的には完全に打ちのめされています。
南スーダン・ランキエンで活動していたMSF看護師 アルバート(仮名)
こうした体験は、アルバートだけに限らない。
他にも多くの医療従事者が、家を失い、大切な家族の安否もわからないまま避難している。今回の暴力は、医療設備を破壊しただけではなく、医療を支えてきた人びとに対しても深い爪痕を残した。
現在、アルバートは南スーダンの首都ジュバにいる友人の元に身を寄せている。
しかし、こうした過酷な状況にありながら、アルバートがいまなお気にかけているのは患者たちのことだ。自らに言い聞かせるように、こう力を込めた。
私がいま最も強く願っているのは、あの弱い立場に置かれた人びとの無事です。この危機のせいで、傷ついた子どもたちはランキエンで治療を受けられないまま、ほかへ送られてしまうでしょう。でもどんな状況にも、必ず抜け道はあります。どんなときでも、道はあるのです。
南スーダン・ランキエンで活動していたMSF看護師 アルバート(仮名)
医療を支える側も被害に
MSFは空爆を受けた当時、すでに緊張の高まりと、町への攻撃の可能性に関する情報を受けており、スタッフたちを病院の敷地から避難させていた。
しかし今回の暴力発生以降、ジョングレイ州のランキエンとピエリの2カ所で活動していたMSFスタッフ291人のうち、計26人の所在をいまだに確認できていない。治安が悪化するなか、連絡をとれない状態が続いている。
ランキエンとピエリ周辺では通信網が極めて限られている。
特に、安全を求めて人けの少ない森林地帯へと逃れた人びとにとっては、連絡をとることが一層難しい。いまも一部のスタッフと連絡がとれていないのは、こうした通信環境の悪さが影響しているかもしれない。
その一方で、連絡できないほど厳しい状況に置かれているスタッフがいるのではないかと、私たちは強く懸念している。
この危機によって、MSFはランキエン、ピエリの2カ所で計25万人への医療活動を止めざるを得なくなった。
それだけではない。地域の人びとに医療を届けてきた医療従事者たち自身も深刻な影響を受けている。
南スーダンのMSF活動責任者、ヤショバルダンは現地の状況についてこう説明する。
この暴力は、医療サービスだけでなく、それを支えてきた人びとにも耐えがたい打撃を与えました。医療従事者が標的にされるようなことは、決してあってはなりません。私たちは、スタッフの身に何が起きたのか、支援を届けてきた地域の人びとがどのような状況に置かれているのか深い懸念を抱いています。治安が落ち着いている地域では、避難した人びとが身を寄せている場所で緊急対応を始めました。また、スタッフを支えるための対応も並行して進めています。
南スーダンのMSF活動責任者 ヤショバルダン
MSFにとって、チームの安全確保が最優先事項だ。連絡がとれなくなっているスタッフの安否確認に向けて、あらゆる手を尽くしている。
繰り返される「医療への攻撃」
MSFは2025年1月以降、南スーダンで医療施設への攻撃が急増していることを確認している。
2026年2月までに、MSFの病院やスタッフを標的とした攻撃はおよそ10件に達した。こうした攻撃は国際人道法に違反し、医療従事者を危険にさらすだけでなく、地域の人びとから命を救う医療を奪うものだ。
MSFは1983年から、現在の南スーダンにあたる地域で活動してきた。いまも国内の複数の州と行政区で医療援助を続けている。
私たちはあらためて、医療施設、患者、医療従事者はいかなる時も守られなければならないと訴える。
「医療への攻撃」は決して許されない。弱い立場に置かれ、十分な医療を受けにくい地域の人びとから、欠かすことのできない医療を奪う行為だからだ。




