写真でたどる「10の攻撃」──“安保理決議2286”から10年、それでも守られなかった医療の現場

2026年05月03日
2016年5月3日、国連安全保障理事会の会合で演説する国境なき医師団(MSF)インターナショナルのジョアンヌ・リュー会長(当時) © Paulo Filgueiras
2016年5月3日、国連安全保障理事会の会合で演説する国境なき医師団(MSF)インターナショナルのジョアンヌ・リュー会長(当時) © Paulo Filgueiras

いまから10年前の2016年5月3日──。国連安全保障理事会はある決議を全会一致で採択した。

安保理決議2286号

国境なき医師団(MSF)の病院がアフガニスタンクンドゥーズで攻撃され、42人が死亡。この惨事を受けて、日本をはじめとする80カ国以上が共同提案したものだった。MSFも採択を強く後押しした。

このとき、人道的医療活動の正当性と保護されるべき地位が、決議によって政治的に再確認されたかのように見えた。

しかし、その後も医療への攻撃は止まっていない。法律や規則をつくるだけでは人びとの命は守れない。いま必要なのは、言葉ではなく行動だ。求められているのは、実効性のある政治的責任だ。

今回はこの10年で起きた世界各地の被害のうち10件に焦点を当て、現地の写真とともに振り返る。

【1】シリア・アレッポ:アルクッズ病院への爆撃(2016年4月27日夜)

MSFが支援するシリア北西部アレッポのアルクッズ病院が、当時の同国政府によって爆撃を受けた。医師を含む55人が死亡し、約80人が負傷。病院は破壊され、がれきと化した。写真は、2016年7月に2度にわたる空爆を受け、アルクッズと同じく閉鎖を余儀なくされたアレッポ東部のアルダッカーク病院=同年8月3日 © Hospitals of Aleppo/MSF
MSFが支援するシリア北西部アレッポのアルクッズ病院が、当時の同国政府によって爆撃を受けた。医師を含む55人が死亡し、約80人が負傷。病院は破壊され、がれきと化した。写真は、2016年7月に2度にわたる空爆を受け、アルクッズと同じく閉鎖を余儀なくされたアレッポ東部のアルダッカーク病院=同年8月3日 © Hospitals of Aleppo/MSF

【2】イエメン・ハッジャ県:アブス病院への空爆(2016年8月15日午後)

サウジアラビア主導の有志連合による空爆を受けたアブス病院。救急棟のそばで、焼け焦げた車の残骸がくすぶっている。爆弾は数メートルの範囲内に集中して着弾しており、狙われた可能性がある。病院が攻撃を受けないよう、所在地のGPS座標は同連合を含む紛争当事者に繰り返し伝えられていた。この攻撃により19人が死亡し、24人が負傷した=イエメン北西部ハッジャ県で2016年8月19日 © Rawan Shaif/MSF
サウジアラビア主導の有志連合による空爆を受けたアブス病院。救急棟のそばで、焼け焦げた車の残骸がくすぶっている。爆弾は数メートルの範囲内に集中して着弾しており、狙われた可能性がある。病院が攻撃を受けないよう、所在地のGPS座標は同連合を含む紛争当事者に繰り返し伝えられていた。この攻撃により19人が死亡し、24人が負傷した=イエメン北西部ハッジャ県で2016年8月19日 © Rawan Shaif/MSF

【3】アフガニスタン・カブール:ダシュテ・バルチ病院への襲撃(2020年5月12日朝)

MSFが支援するダシュテ・バルチ病院の産科病棟が、複数の武装者によって襲撃された。襲撃者は武装勢力の構成員3〜4人とされる。攻撃は約4時間にわたって続き、母親16人、MSFの助産師1人、子ども2人、ほかに6人が死亡した。MSFは活動の終了を余儀なくされ、病院から撤退した=アフガニスタンの首都カブールで2020年5月13日 © Frederic Bonnot/MSF
MSFが支援するダシュテ・バルチ病院の産科病棟が、複数の武装者によって襲撃された。襲撃者は武装勢力の構成員3〜4人とされる。攻撃は約4時間にわたって続き、母親16人、MSFの助産師1人、子ども2人、ほかに6人が死亡した。MSFは活動の終了を余儀なくされ、病院から撤退した=アフガニスタンの首都カブールで2020年5月13日 © Frederic Bonnot/MSF

【4】カメルーン・ムユカ:救急車への銃撃(2021年2月4日未明)

カメルーン南西部ムユカで、通報を受けて出動したMSFの救急車が、武装した男たちの銃撃を受けた。救急車は被弾し、同乗していた看護師1人が負傷した。写真は、同国北西州で救急活動の拠点としていたバメンダのセント・メアリー・ソレダッド病院にある救急車=2020年10月29日 © Scott Hamilton/MSF
カメルーン南西部ムユカで、通報を受けて出動したMSFの救急車が、武装した男たちの銃撃を受けた。救急車は被弾し、同乗していた看護師1人が負傷した。写真は、同国北西州で救急活動の拠点としていたバメンダのセント・メアリー・ソレダッド病院にある救急車=2020年10月29日 © Scott Hamilton/MSF

【5】ウクライナ・東部と南部地域:病院へのミサイル攻撃(2022年2月24日~)

ウクライナではロシア軍による全面侵攻以来、東部や南部地域で医療施設への攻撃が相次いでいる。施設の占領や破壊によって、人びとの医療へのアクセスが深刻に妨げられてきた。写真は、ウクライナ南部ヘルソン州のダビディウ・ブリド村にある医療・保健支援センター=2023年1月31日 © Colin Delfosse/MSF
ウクライナではロシア軍による全面侵攻以来、東部や南部地域で医療施設への攻撃が相次いでいる。施設の占領や破壊によって、人びとの医療へのアクセスが深刻に妨げられてきた。写真は、ウクライナ南部ヘルソン州のダビディウ・ブリド村にある医療・保健支援センター=2023年1月31日 © Colin Delfosse/MSF

【6】ハイチ・ポルトープランス:救急車への襲撃(2024年11月11日)

ハイチの首都ポルトープランスで、MSFの救急車が自警団メンバーと警察官に止められた後、患者のうち少なくとも2人が殺害された。同乗していたMSFスタッフは暴力を受け、催涙ガスを浴びせられ、殺害すると脅され、拘束された。写真は、首都周辺の地域で燃料タンクローリーが爆発し、負傷者が同国西部カルフールにあるMSFの病院へと次々に搬送される様子=2024年9月14日 © Didier Rigole/MSF
ハイチの首都ポルトープランスで、MSFの救急車が自警団メンバーと警察官に止められた後、患者のうち少なくとも2人が殺害された。同乗していたMSFスタッフは暴力を受け、催涙ガスを浴びせられ、殺害すると脅され、拘束された。写真は、首都周辺の地域で燃料タンクローリーが爆発し、負傷者が同国西部カルフールにあるMSFの病院へと次々に搬送される様子=2024年9月14日 © Didier Rigole/MSF

【7】ミャンマー・ラカイン州:北部地域での紛争激化(2024年)

ミャンマー・ラカイン州北部における紛争の激化や無差別な暴力により、MSFは活動の一時停止を余儀なくされた。この地域では14の移動診療を運営し、ラカイン、ロヒンギャ、少数派グループを含むすべての住民に医療を届けていた。多くの人びとにとってほかに医療を受ける手段はなかった。写真は、ラカイン州におけるMSFの移動診療で診察を受けようと並ぶロヒンギャの女性たち=2023年10月4日 © Zoe Bennell/MSF
ミャンマー・ラカイン州北部における紛争の激化や無差別な暴力により、MSFは活動の一時停止を余儀なくされた。この地域では14の移動診療を運営し、ラカイン、ロヒンギャ、少数派グループを含むすべての住民に医療を届けていた。多くの人びとにとってほかに医療を受ける手段はなかった。写真は、ラカイン州におけるMSFの移動診療で診察を受けようと並ぶロヒンギャの女性たち=2023年10月4日 © Zoe Bennell/MSF

【8】スーダン・北ダルフール州:病院への爆撃や襲撃(2024年5~7月)

スーダン・北ダルフール州の州都エル・ファシールの病院への攻撃が相次いだ。80日間に計10件もの攻撃を受け、少なくとも9人が死亡、38人以上が負傷。紛争当事者は、負傷者を治療できる最後の公立病院となったサウジ病院に対しても攻撃を止めなかった。写真は、甚大な被害を受けて完全に運営停止することになった同市の南病院=2024年5月30日 © MSF
スーダン・北ダルフール州の州都エル・ファシールの病院への攻撃が相次いだ。80日間に計10件もの攻撃を受け、少なくとも9人が死亡、38人以上が負傷。紛争当事者は、負傷者を治療できる最後の公立病院となったサウジ病院に対しても攻撃を止めなかった。写真は、甚大な被害を受けて完全に運営停止することになった同市の南病院=2024年5月30日 © MSF

【9】パレスチナ・ガザ地区:ナセル病院への爆撃(2025年3月23日)

イスラエル軍はパレスチナ・ガザ南部ハンユニスにある地区最大のナセル病院を爆撃。保健省によると、外科入院病棟が標的とされて2人が死亡した。同病院で活動していたMSFチームは、複数の負傷者が出たこと、そのうち1人が外傷病棟に入院していたことを確認した。写真からも病院が損壊し、深刻な被害が生じていることが分かる=2025年3月24日 © MSF
イスラエル軍はパレスチナ・ガザ南部ハンユニスにある地区最大のナセル病院を爆撃。保健省によると、外科入院病棟が標的とされて2人が死亡した。同病院で活動していたMSFチームは、複数の負傷者が出たこと、そのうち1人が外傷病棟に入院していたことを確認した。写真からも病院が損壊し、深刻な被害が生じていることが分かる=2025年3月24日 © MSF

【10】南スーダン・ジョングレイ州:病院への空爆(2026年2月3日夜)

南スーダン・ジョングレイ州北部のランキエンにあるMSFの病院が、同国政府軍による空爆を受けた。この攻撃でスタッフ1人が軽傷を負ったほか、病院の主要な倉庫が破壊され、医療に不可欠な物資の大半を失った。写真は2025年5月3日早朝、同様に爆撃を受けて倉庫が焼かれた同州北東部のオールド・ファンガクにあるMSFの病院 © MSF
南スーダン・ジョングレイ州北部のランキエンにあるMSFの病院が、同国政府軍による空爆を受けた。この攻撃でスタッフ1人が軽傷を負ったほか、病院の主要な倉庫が破壊され、医療に不可欠な物資の大半を失った。写真は2025年5月3日早朝、同様に爆撃を受けて倉庫が焼かれた同州北東部のオールド・ファンガクにあるMSFの病院 © MSF

■ことば

国連安保理決議2286号

2016年5月3日に採択された安保理決議。紛争下での病院攻撃を強く非難し、医療・人道援助活動の安全確保をすべての紛争当事者に要求する決議で、全会一致で採択された。決議作成には、日本も提案5カ国の一つとして加わっている。

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