「弾丸で死に、飢えで死ぬんです」──戦闘激化の南スーダン、避難民が直面する二重の危機

2026年03月27日
南スーダン東部ジョングレイ州の町チュイルに向け、重傷の患者(中央手前)を毛布に包んで搬送する国境なき医師団(MSF)スタッフたち=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF
南スーダン東部ジョングレイ州の町チュイルに向け、重傷の患者(中央手前)を毛布に包んで搬送する国境なき医師団(MSF)スタッフたち=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF

「私たちは弾丸で死に、飢えで死ぬんです」

南スーダン東部では政府軍と反政府勢力による戦闘が激化し、家を追われた人びとが暴力と飢えのはざまで追い詰められている。

国境なき医師団(MSF)は移動診療などを通じた医療・人道援助を強化する一方、取り残された地域に支援を届けるための安全な人道アクセスを求めている。

焼き払われた故郷

「逃げるとき、持ち出せたのはこのつえ1本だけでした」

木陰の下に座り込んでいたその高齢男性は、疲れ切った表情でこう話した。

名前はモーゼス・マルアルさん(77)。元々は南スーダン東部ジョングレイ州のランキエンに住んでいた。しかし激しい戦闘に巻き込まれ、州内の別の町チュイルまで逃れてきた。

南スーダンの避難民、モーゼス・マルアルさん=チュイルで2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF
南スーダンの避難民、モーゼス・マルアルさん=チュイルで2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF

私は人生で紛争を何度も経験してきましたが、今回のような避難は初めてです。これまでなら、いったん避難しても戻れば家は残っていました。しかし、これほど大量の民家が焼き払われる紛争は見たことがありません。ランキエンはもう終わりです。

南スーダン・ジョングレイ州の避難民 モーゼス・マルアルさん

モーゼスさんは逃げる過程で財産を失い、食べ物を買うこともできない。本当なら故郷に戻りたいが、帰る家は焼き払われてしまった。

南スーダンの避難民、モーゼスさん=チュイルで2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF
南スーダンの避難民、モーゼスさん=チュイルで2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF

チュイルに着いたとき、私たちは心身ともに疲れ果てていました。いまは木の下で暮らしています。床に敷いているのは、川の近くにいた商人から借りた袋です。夜になるとその上で寝ています。必要なのは、食料、蚊帳、そして夜の寒さをしのぐ毛布です。私たちは弾丸で死に、飢えで死ぬんです。

南スーダン・ジョングレイ州の避難民 モーゼス・マルアルさん

子どもの半数超が急性栄養失調

南スーダンでは、ジョングレイ州のランキエン周辺や、北東部の上ナイル州ソバト川沿いで政府軍と反政府勢力の衝突が激化し、数万人が家を追われている。

南スーダンの避難民で3児の母親ニャマイ・ルオットさん。「避難して森の中を歩いているとき、少女数人が武装集団に連れていかれました。彼女たちが受けた被害は言葉にできません」と証言する=チュイルで2026年3月7日 © Isaac Buay/MSF
南スーダンの避難民で3児の母親ニャマイ・ルオットさん。「避難して森の中を歩いているとき、少女数人が武装集団に連れていかれました。彼女たちが受けた被害は言葉にできません」と証言する=チュイルで2026年3月7日 © Isaac Buay/MSF


多くの住民は数日間かけて徒歩で逃れている。

チュイルには2万5000人以上が避難し、さらに数千人が周りの村や湿地帯に散り散りになっている。ほかに、上ナイル州ウラン郡のニャンゴレやバーマッチにも人びとがたどり着き、中部のレイク州ミンカマンには新たに2万8000人が到着した。

しかも、多くの人は避難を繰り返し強いられている。人びとはほぼ何も持たずに到着し、避難所もない屋外、または最低限の食料や清潔な水、医療もない仮設の避難場所で暮らすことになる。

ジョングレイ州のタナクアッチに逃れ、ヤシの木の下に身を寄せて暮らす人びと=2026年3月10日 © Isaac Buay/MSF
ジョングレイ州のタナクアッチに逃れ、ヤシの木の下に身を寄せて暮らす人びと=2026年3月10日 © Isaac Buay/MSF


いま避難先で最も深刻なことの一つは、人びとの栄養状態だ。

例えば、MSFがチュイルで実施した栄養調査では深刻な結果が出た。 調査対象となった5歳未満の子ども1263人のうち、半数超の54%が急性栄養失調だった。妊娠中・授乳中の女性も609人のうち、約5人に1人が急性栄養失調に陥っていた。

また、水・衛生の分野も対応が急務で、コレラをはじめとする水を介する感染症がいつ流行してもおかしくない状況だ。治療が難しい重症患者を適切な医療施設へとつなぐ体制も整っていない。

強化する活動、足りぬ支援

MSFは、ウラン郡とチュイルで避難民への医療・人道援助を強化している。

チュイルでは、基礎診療所の機能を拡充。緊急治療や栄養失調治療、母子保健、外傷の初期治療に対応するため、病床数を60床に増やした。2月末以来、2200件を診察して、172人が入院し、16人をより高度な治療施設へ紹介した。

タナクアッチの移動診療で患者(左)を案内するMSFスタッフ=2026年3月10日 © Isaac Buay/MSF
タナクアッチの移動診療で患者(左)を案内するMSFスタッフ=2026年3月10日 © Isaac Buay/MSF


また、蚊帳、毛布、せっけん、ポリタンク、生理用品、ビニールシート、空の土のうなどの生活必需品を1500世帯以上に配布し、なんとか暮らせるよう支援している。さらに、水・衛生の改善のため、トイレ300基や浄水プラントの建設にも着手した。

MSFは沼地や川をボートで移動し、チュイル周辺のヤクアッチ、タナクアチャ、パシエルで移動診療をしている。これまでに1349件を診察し、より高度な治療を必要とする患者を適切な施設につないだ。

ヤクアッチの移動診療からチュイルの基礎診療所へ患者(中央)を搬送する間、点滴が外れないように支えるMSFスタッフ(右)=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF
ヤクアッチの移動診療からチュイルの基礎診療所へ患者(中央)を搬送する間、点滴が外れないように支えるMSFスタッフ(右)=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF


また、ランキエンから避難してきた70人以上のMSFスタッフもチュイルで支援に当たっている。今後、数週間でタナクアチャに診療所を設置し、ヤクアッチとパシエルでは移動診療を続け、他施設への紹介、心のケア、外来診療、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の支援を始める予定だ。

チュイルに運ばれてきた援助物資を降ろすMSFスタッフら=2026年3月6日 © Isaac Buay/MSF
チュイルに運ばれてきた援助物資を降ろすMSFスタッフら=2026年3月6日 © Isaac Buay/MSF


南スーダンのMSF活動責任者、ザカリア・ムワティアは援助活動の強化を訴える。

人道団体はチュイルやミンカマンでの活動を強化していますが、対応は依然として不十分です。被害が最も大きく、取り残されている地域に支援を届けるため、人道組織はもっと連携して速やかに対応しなければいけません。継続的な支援がなければ、感染症の流行やさらなる避難が連鎖的に起き、大惨事に発展する恐れがあります。

南スーダンのMSF活動責任者 ザカリア・ムワティア

「妨げのない医療・人道援助を」

危機は、もともと医療を届けにくい地域で起きている。

2025年には、MSFが支援するウランの病院が破壊・略奪された。2026年2月には、ランキエンにあるMSFの病院が爆撃され、近隣の主な紹介先の病院2カ所も閉鎖に追い込まれた。

MSFの緊急プロジェクト・コーディネーター、トゥナ・トゥルクメンは現地の支援状況についてこう説明する。

ランキエン周辺の沼地には、支援を待ちながら劣悪な状態に置かれた何千人もの人びとがいます。いまも毎日、新たな避難民が到着しています。現地で避難しながら活動しているMSFスタッフは全力を尽くしていますが、薬がないために患者が亡くなることがあります。MSFは地元当局に対し、現地に入る許可を要請していますが、いまのところまだ得られていません。

MSFの緊急プロジェクト・コーディネーター トゥナ・トゥルクメン

人道援助はいまも、必要な場所に安定して届けられていない。援助団体が安全に、切れ目なく現地に入れるよう環境を整えることが不可欠だ。

チュイルに向けて重傷患者(中央手前)を運ぶMSFスタッフたち=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF
チュイルに向けて重傷患者(中央手前)を運ぶMSFスタッフたち=2026年3月12日 © Isaac Buay/MSF


MSFはすべての紛争当事者に対し、民間人を戦闘の被害から守るためのあらゆる措置を取るよう強く求めている。民間人や医療施設などを標的にすることは、国際人道法の重大な違反で、いかなる場合も許されない。

もし、チュイル周辺で戦闘がこれ以上激しくなれば、避難民は甚大な被害を受けることになる。命を守るための必要な医療や人道援助は大きく妨げられ、取り返しのつかない結果を招きかねない。

トゥナは、こう強調する。

最近、医療への攻撃が相次いでおり、民間人に対する暴力と合わせて非常に深刻な状況です。チュイルには、戦闘から逃げてきた女性や子ども、高齢者ら多くの民間人が身を寄せています。ここには、いまも機能している数少ない医療施設の一つがあり、多くの援助団体が拠点として活動しています。人びとがこうした支援を受けられるとともに、人道・医療スタッフが安全に活動できるようにすることが不可欠です。

MSFの緊急プロジェクト・コーディネーター トゥナ・トゥルクメン

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