限界に近づく医療体制──終わりの見えない避難生活で高まる援助ニーズ:シリア南部
2026年03月10日
シリア南部スワイダー県では 、2025年7月中旬に再燃した衝突により数千人が家を追われた。多くの人びとは当初、避難生活は一時的なものに過ぎないと考えていた。
しかし8カ月が経過した今も状況は改善せず、受け入れ先の地域コミュニティや、もともとひっ迫し機能維持が困難だった医療施設に、さらなる負担がのしかかかっている。
医療体制の弱体化と地域への重圧
「この避難所に初めて来たときは、周りの人が必要なものを色々と援助してくれました。でも、負担が重すぎるんです」と語るのは、スワイダー県西部のアル・マジダル村から逃れてきた59歳のマジェダさん。現在はシャハバ市の避難所で暮らしている。
私たちには食料も薬も必要です。すべてが足りていません。
マジェダさん 避難所で暮らす女性
昨年4月から6月にかけて、国境なき医師団(MSF)はすでにスワイダー県で深刻な医療ニーズが生じていることを確認していた。そして暴力が激化した7月、MSFは直ちに緊急対応を開始し、医療物資や燃料を提供して病院や医療施設の運営を支援した。また、避難生活を送る人びとに衛生キットや調理器具のセットを配布した。
長年にわたったシリアの内戦と暴力は、医療体制を深刻に弱体化させ、経済状況の悪化にも拍車をかけてきた。こうした状況のなかで、すでに過重な負担を抱えていた医療機関や地域の医療資源には、いっそう大きな圧力がかかっている。
コミュニティのニーズと、利用可能なサービスの提供能力とのギャップを埋めるためには、さらなる取り組みが欠かせない。避難を余儀なくされている人びと、そして彼らを受け入れているコミュニティが直面する困難を和らげるためにも、医療、避難所、救援物資といった不可欠な支援を届けることが極めて重要だ。
援助とニーズの深刻なギャップ
シリア南部のヨルダン国境沿いに位置するスワイダー県は、主にシリアのイスラム教ドルーズ派コミュニティが暮らす地域であり、ベドウィン部族やキリスト教徒といった他の少数派グループも共存している。
2011年以降、シリア各地で広がった大規模な破壊からは比較的免れてきたものの、長年にわたる経済の衰退や公共サービスの弱体化、そして治安の悪化により、県の安定は着実に揺らいでいる。医療従事者や必須医薬品、医療機器、電力の不足が続き、医療へのアクセスは一段と制限されているのが現状だ。
2025年7月中旬、武力衝突がスワイダー県の都市部と農村部の広い範囲で激化し、スワイダー県と首都ダマスカスやダルアーを結ぶ主要ルート沿いでも発生した。これにより、多くの人びとが大規模な避難を余儀なくされた。人びとは集団避難所や収容センターへ身を寄せる一方で、自宅や身分証明書、家畜、生計手段などは置き去りにせざるを得なかった。
武力衝突は、もともとぜい弱だったスワイダー県の医療体制をさらに深刻化させている。県の医療施設は、物資不足と運営上の制約に直面しながら、増え続けるニーズへの対応にすでに苦慮していた。
「ニーズの規模と提供されている支援との間には、明らかなギャップがあります」とスワイダー県のMSF医療コーディネーター、ファラ・ナセルは話す。
「91の基礎診療所のうち、完全に機能しているのはわずか9カ所で、県内の4つの病院はいずれも部分的にしか稼働していません」
私たちの優先課題は、避難してきた人びとと受け入れコミュニティが無料で質の高い医療を受けられるようにし、死亡率と合併症を減らすことです。
ファラ・ナセル MSF医療コーディネーター
「ただ家に帰りたい」──深まる心の傷
避難生活を送る人びとの心のケアもまた、最も差し迫った懸念の一つである。度重なる避難、暴力によるトラウマ、そして将来への不安によって、多くの人がストレスや恐怖、深い悲しみに苦しんでいる。
「心理的な打撃は計り知れません」と、スワイダー県でMSFの心のケア活動マネジャーを務めるカタジナ・チシェフスカは言う。
「避難してきた人びとの多くが大切な人を失い、暴力を目の当たりにし、生活のすべてを奪われました。重い精神的負担を抱える中で、心理社会的支援の必要性はかつてないほど高まっています。支援がなければ、生活再建の第一歩を踏み出すことさえ困難です。 一方で、私が心を動かされるのは、この地域に根付いている支え合いの文化です」
人びとは互いに寄り添い、気遣い、ためらうことなく手を差し伸べています。トラウマを経験した人たちが、『自分はひとりではない』と実感できることが何より重要なのです。
カタジナ・チシェフスカ MSF心のケア活動マネジャー
人道援助への資金が減少する一方でニーズは増え続けており、多くの人びとが依然として適切な住まいや基本的なサービスへの安定したアクセスを得られないまま、取り残されている。
「ただ家に帰りたいだけなんです」と、40歳のムニーラさんは息子のアマルくんを抱きしめながら言う。
子どもたちと家に戻って、また安心して暮らせるようになりたい。生活を取り戻したいのです。
ムニーラさん 避難所で暮らす女性
スワイダー県では、避難によって人びとや地域社会が大きな苦難を背負っているが、彼らの希望は失われていない。故郷に戻るという夢は、今も人びとの中に生き続けている。
彼らが安全と尊厳を守られたかたちで帰還できるようにするためには、国際社会からの継続的な援助が不可欠だ。
医療から生活支援まで──広がるMSFの活動
MSFはスワイダー県の保健当局と連携し、地域の医療サービスを強化・安定化するための取り組みを開始した。医療施設の機能を維持するための物資や燃料の提供に加え、スワイダー国立病院では救急外来エリアの改修を進めている。
また、アルマン基礎診療所および第二研修基礎診療所の一部改修や、医療スタッフへの研修の実施および給与補助も行っている。
医療活動に加え、MSFは避難生活を送る人びとに衛生キットや調理セットを配布し、基本的なニーズにも対応している。
「多くの人びとが、何も持たずに家を逃れてきました」とスワイダー県でMSFのロジスティクス・マネジャーを務めるオサマ・ヌエイラは話す。
衛生キットや調理セットを配布することで、私たちは避難キャンプや収容センターで暮らす人びとに、必要最低限の援助を届けています。
オサマ・ヌエイラ MSFロジスティクス・マネジャー




