「ようやく出られる、しかし次は」────シリアの収容キャンプが突然の閉鎖、多くの人が行き場と医療アクセスを失う

2026年03月12日
突然閉鎖され、荒れ果てたアルホール・キャンプ Ⓒ Barbara Hessel/MSF
突然閉鎖され、荒れ果てたアルホール・キャンプ Ⓒ Barbara Hessel/MSF

国境なき医師団(MSF)は、シリア北東部にある「アルホール・キャンプ」がシリア政府によって、ほとんど事前調整もないまま2月22日に閉鎖されたことについて、強い懸念を示している。

このキャンプは長期収容や人権侵害が問題視されてきた。一方で、キャンプ内で暮らしてきた数千人もの人びとは、追い出されて身の危険にさらされるのはもちろん、医療へのアクセスも困難となっている。その中には、子どももいれば、病を抱える人もいる。

一時は7万人以上を収容

このキャンプには、2019年のピーク時で7万6000人以上の人びとが収容されていた。その大半は女性と子どもである。

キャンプ内はいくつかの区域に分かれており、シリア人とイラク人は1カ所にまとめられ、それ以外の国籍の人たちは、別の箇所に隔離されていた。2026年に入ると、キャンプ人口が約2万3000人に減少したと報じられる。とりわけ、イラク人のイラクへの送還が相次いだためだ。

このキャンプは、もともと武装勢力「シリア民主軍」によって管理されていた。そのキャンプ管理権がシリア政府の手に移ると、混乱のなかでキャンプに収容されている人の数はさらに減った。脱走なども相次いだとされている。正式閉鎖の1週間前、キャンプに残る人びとは、シリア北部にある別キャンプに移送された。その一方で、故郷に帰った家族もいた。

アルホール・キャンプ内のMSF診療所の跡 Ⓒ Steve MacKay/MSF
アルホール・キャンプ内のMSF診療所の跡 Ⓒ Steve MacKay/MSF

キャンプ閉鎖による混乱

シリア北東部にてMSFプロジェクト・コーディネーターを務めるバーバラ・ヘッセルは、次のように語る。

「私たちは、キャンプ閉鎖にあたって、現地の人びとからお話を伺いました。退去手続きに14時間以上も待たされている人、自分の荷物を運び出すのに追われている人。みなさん、何をどうすればいいのか、よく分からない状況にあります。不安も広がっています。それでも、私がお話を聞いた人たちはみな、希望に満ちた未来を信じているように見えました」

彼らが移送された先のキャンプでは、医療、身体保護、生活支援など、いろいろな面で課題が多い。

MSFが特に懸念しているのは、女性や子どものことだ。今回の無計画な移送の結果として、彼らが暴力や搾取のリスクにさらされ、さらなる避難を余儀なくされる可能性を懸念している。

ヘッセルが続けて語った。

「このアル・ホールキャンプから退去することに、ホッとしている人もいれば、戸惑っている人もいます。故郷に帰りたいのに、別のキャンプに移されることになって、怒っている人もいました。ただ、共通して言えるのは、彼らが長年の疲労を体いっぱいに抱えている点です」

あるキャンプ生活者は、アル・ホールを「死んだ場所」と表現した。次に移るキャンプには木々と緑があることを願うと語っていた。

次にどこに移されるかには関心が薄く、このキャンプを離れられることに、ただ感謝を示している人も多いという。

アルホール・キャンプの光景 Ⓒ Steve MacKay/MSF
アルホール・キャンプの光景 Ⓒ Steve MacKay/MSF


キャンプ閉鎖を巡る 混乱のなか、キャンプ内の人びとは、医療機会を著しく損なうことになった。治安悪化や管理体制の変動によって、多くの人道援助団体が活動停止を余儀なくされたためである。

こうした困難な状況にあっても、MSFは、キャンプ閉鎖の最終日まで、医療と水を供給し続けた数少ない団体の一つだった。キャンプに飲料水をもたらす浄水場も運営してきた。基礎的な医療サービスをできる限り提供してきた。

MSFの治療プログラムに登録された患者には、長期分の薬を支給し、新規来院した患者に対しても、治療が途切れることのないように初期分の薬を支給するようにしてきた。

慢性疾患を抱える人びとには、MSF登録患者か否かを問わず、3カ月分の薬を支給した。患者は、みな安堵(あんど)した表情を浮かべたという。

しかしながら、対応できなくなった患者も多い。シリア政府にキャンプ管理権が移る前、MSFの「非感染性疾患プログラム」に登録されていた患者は推計347人に上っていた。しかし、その多くは、混乱した移行期のなかで、経過観察できない状況に陥った。

7年間もの「間違った状況」

MSFは、アルホールにおける長年の活動のなかで、キャンプ住民に対するネグレクトや暴力を目撃し、記録してきた。

その被害者のなかには子どももいる。彼らは「権利を有する個人」として扱われていなかった。単に「安全保障上の厄介者」として扱われていた。彼らにとって、キャンプにおける日常は、強制・搾取・虐待の繰り返しでもあった。国際社会が見ている表面的な部分よりも、はるかに複雑な現実がそこにはあったのだ。

MSFシリア担当オペレーション・マネジャーを務めるスティーブン・マッケイは、次のように語る。

「このシリア北東部の砂漠に、安全保障という名のもと、人びとを無期限で収容するシステムが7年間にわたって続いてきました。国際社会は、そのシステムに事実上加担してきたのです」

「この収容キャンプは、そこで生きている人びとの将来も人権も考慮されずに、突如として閉鎖されました。彼らをキャンプに拘束し続けたことも、彼らをキャンプから追い出したことも、いずれも無計画で場当たり的な措置でした」

彼らは人道的な処遇も受けられず、いかなる法的地位にあるのかもあいまいなままにされてきました。7年もの間、間違った状況が続いてきたのです。

MSFシリア担当オペレーション・マネジャー スティーブン・マッケイ

MSFは、アルホール・キャンプから移送された全ての人びとが基礎的医療を途切れなく受けられるよう、シリア当局と国際社会に求める。とりわけ、シリア当局に対しては、彼らの法的地位を安定化させ、彼らの生活再建に向けた環境を整備するよう、強く要請する。

MSFはまた、キャンプにかつて居住していた外国籍の人びとの行方を懸念している。その多くは、MSFチームが医療を提供してきた患者だ。MSFは、関係各国の政府に対して、特に女性と子どもへの保護措置を強化するよう求める。彼らが暴力・搾取・虐待から守られるとともに、本国への自発的な帰国が可能となるよう、支援を求める。

破壊されたMSF診療所を歩くスタッフ Ⓒ Steve MacKay/MSF
破壊されたMSF診療所を歩くスタッフ Ⓒ Steve MacKay/MSF

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