ナイジェリア:栄養失調の子どもたちが北部で急増──前年比208%増の“最重度”に

2025年08月08日
高度治療室で人工呼吸器を付ける重症の赤ちゃん。医療スタッフらが容体を見守っている=ナイジェリア北部ザムファラ州ズルミで2025年2月20日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
高度治療室で人工呼吸器を付ける重症の赤ちゃん。医療スタッフらが容体を見守っている=ナイジェリア北部ザムファラ州ズルミで2025年2月20日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF

ナイジェリア北部が現在、栄養失調という重大な危機に直面している。

治療施設には栄養失調で衰弱した子どもたちが相次いで運ばれ、死亡率も高まっている。国際援助の資金が大幅に削減される中、現地では予防と治療のための大規模な支援が早急に求められている。

国境なき医師団(MSF)は地元の保健当局と連携し、一部の地域では子ども6万6000人を対象に栄養補助食の緊急配布を始めた。患者の数はさらに増える見込みで、治療センターを新たに設けるなど対応を強化している。

半年で7万人を治療

これはナイジェリアの非常事態であり、国を挙げた対応が急務だ。

カシム・シェティマ ナイジェリア副大統領

2025年7月8日、カシム・シェティマ副大統領はこう警鐘を鳴らした。副大統領によると、ナイジェリアでは5歳未満の子どもの約40%が、脳と体の発育のために十分な栄養を取れていないという。

MSFが2021年から活動するナイジェリア北部カツィナ州 。ここは特に事態が深刻な州の一つだ。

ナイジェリア北部のカツィナ州グマ市で子どもらに栄養補助食を配布する国境なき医師団(MSF)のスタッフ=2025年7月25日 Ⓒ MSF
ナイジェリア北部のカツィナ州グマ市で子どもらに栄養補助食を配布する国境なき医師団(MSF)のスタッフ=2025年7月25日 Ⓒ MSF


2025年上半期だけで、すでに7万人近い子どもが栄養失調でMSFの治療を受けた。このうち約1万人は重症で入院。治療件数は、MSFが今年になって新設した医療施設を除いても、前年比でおよそ3割増えた。現地の状況が急速に悪化していることがうかがえる。

さらにこの上半期に、最も重い栄養失調の症状の一つである「栄養失調性浮腫」の子どもが前年同期比で208%に急増した。すぐに治療を受けられなかったことで、652人の子どもがMSFの施設で死亡した。

MSFが支援する入院栄養治療センターで、理学療法を受ける生後11カ月のハシムちゃん(手前)。ハシムちゃんは栄養失調ではいはいもできなかったが、現在は快方に向かっている=ナイジェリア北部カノ州のタウラニ地方政府区域で2025年5月22日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
MSFが支援する入院栄養治療センターで、理学療法を受ける生後11カ月のハシムちゃん(手前)。ハシムちゃんは栄養失調ではいはいもできなかったが、現在は快方に向かっている=ナイジェリア北部カノ州のタウラニ地方政府区域で2025年5月22日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF


栄養失調に苦しむのは子どもだけではない。妊娠中、授乳中の女性を中心に、大人にも影響が広がっている。

カツィナ州にあるMSFの施設で7月、治療する子どもの母親750人を対象に健康調査を実施した。すると半数以上が急性栄養失調に陥っており、このうち13%は命に関わる重度の急性栄養失調であることが判明した。

援助削減の余波、ここにも

2024年はナイジェリア北部の栄養危機における転換点だった。

アフマド・アルディカリ MSFのナイジェリア代表

MSFナイジェリア代表のアフマド・アルディカリは1年前の状況をこう振り返る。栄養失調の患者数が前年の2023年比で25%増加したためだが、実際はさらに多いとみられている。

背景にあるのは、深刻な経済的困窮だ。

入院栄養治療センターでMSFスタッフ(左)からチューブを使って食事をもらう栄養失調の赤ちゃん(中央)=ザムファラ州ズルミで2025年2月21日 Ⓒ Isaac Buay/MSF
入院栄養治療センターでMSFスタッフ(左)からチューブを使って食事をもらう栄養失調の赤ちゃん(中央)=ザムファラ州ズルミで2025年2月21日 Ⓒ Isaac Buay/MSF


市場に食料があっても、それを買う余裕のない人が増えている。複数の人道援助団体が2025年初めにカツィナ州カイタ地方政府区域で食料事情の調査を実施。農作物の収穫量が減る、雨季に入る前のこの時期でさえ、90%以上の世帯が1日の食事回数を減らしていることが明らかになった。

また、国際援助の削減が世界的に問題となる中、ナイジェリアもその影響を強く受けている。米英をはじめとする欧米諸国からの資金が大幅に減り、栄養失調の治療に支障が生じている。

国連世界食糧計画(WFP)は2025年7月下旬 、「重大な資金不足」によって、ナイジェリア北東部の130万人への緊急の食料・栄養支援を月末までにすべて停止せざるを得ないと発表した。

他にもさまざまな要因が絡んでいる。例えば、人びとにワクチンが行き届かず、感染症の流行が収まらない。医療体制も整っておらず、必要な治療にたどり着けない人も多い。治安が悪化しているため日常生活にも制約が生まれている。

次に収穫期が再開するのは10月ごろ。それまでの間、さらに多くの子どもたちへの栄養失調治療が必要になると予想される。  
栄養失調に苦しむ何百人もの子どもたちが保護者とともに<br> 治療を受ける順番を待っている=カノ州タウラニの<br> 外来栄養治療センターで2025年5月21日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
栄養失調に苦しむ何百人もの子どもたちが保護者とともに
治療を受ける順番を待っている=カノ州タウラニの
外来栄養治療センターで2025年5月21日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF

「命を守るため、まず食料を」

こうした事態を受け、MSFはナイジェリア北部の複数の州で、地元の保健当局との連携を深めている。

MSFは2024年、ナイジェリア北部7州で栄養失調の子ども30万人以上(前年比25%増)を治療した。特に北西部の4州(ソコト、ケビ、カツィナ、ザムファラ)では、2025年上半期だけで中等症以上の子ども約10万人を外来で治療し、約2万5000人が入院した。

重篤な容体から回復し、快方に向かう子どもをケアする治療室。MSFが支援する入院栄養治療センター内にある=カノ州タウラニで2025年5月21日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
重篤な容体から回復し、快方に向かう子どもをケアする治療室。MSFが支援する入院栄養治療センター内にある=カノ州タウラニで2025年5月21日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF


また、カツィナ州のマシ地方政府区域に外来栄養治療センター(ATFC)を新設した。トゥライ地方政府区域には入院栄養治療センター(ITFC) を追加で設置。MSFが支援する病院2カ所で、計900床の受け入れ態勢を整えた。

施設整備と並行して、すぐに食べられる栄養治療食(RUTF)の提供拡大も求められる。資金と供給体制の確保が急務だ。

これらの対策は、特に栄養失調の子どもが多い地域で優先的に進められるべきだ。実際にMSFはマシ区域で6万6000人の子どもに栄養補助食の配布を始めた。だが、いまだ必要なすべての人には届いていない。

さらに、現在は支援の対象外となっている5歳以上の人びとも栄養失調の影響を受け始めており、予防の枠組みに含める必要がある。

現地のMSF栄養担当者、エマニュエル・ベルバンは「栄養失調の犠牲者を減らすには、日々の食べ物を確保できるようにすることが何よりも大切です」と強調し、幅広い支援を呼びかけている。
プラスチック製の押し車を使って歩く練習をする、1歳を迎えた<br> ばかりのウスマンちゃん(右)。MSFの理学療法士(左)は<br> 栄養失調の子どもの保護者を対象に、退院後も家庭で<br> 続けられる簡単なリハビリ方法を教える=カノ州タウラニの<br> 入院栄養治療センターで2025年5月22日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
プラスチック製の押し車を使って歩く練習をする、1歳を迎えた
ばかりのウスマンちゃん(右)。MSFの理学療法士(左)は
栄養失調の子どもの保護者を対象に、退院後も家庭で
続けられる簡単なリハビリ方法を教える=カノ州タウラニの
入院栄養治療センターで2025年5月22日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF

この事態は、私たちがマシ区域でしているような食料や栄養治療食の配布、または現金給付によって解決することができます。

エマニュエル・ベルバン 現地のMSF栄養担当者

2歳の孫娘ズライハトちゃんに治療用のミルクを飲ませるハフサット・サリスさん(中央)。ズライハトちゃんは1週間ほど前から発熱と喉の痛みを訴え、食欲を失い体重が減っていた=カノ州タウラニの入院栄養治療センターで2025年5月20日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF
2歳の孫娘ズライハトちゃんに治療用のミルクを飲ませるハフサット・サリスさん(中央)。ズライハトちゃんは1週間ほど前から発熱と喉の痛みを訴え、食欲を失い体重が減っていた=カノ州タウラニの入院栄養治療センターで2025年5月20日 Ⓒ Abba Adamu Musa/MSF

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