新型コロナウイルス:パンデミック宣言から1年 弱い立場に置かれた人びとを支え続ける
2021年03月16日
世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症の流行を「パンデミック(世界的大流行)」と宣言してから、3月11日で1年が経った。国境なき医師団(MSF)はこの1年間、未知の感染症の世界的流行という未曽有の事態の中でどう動いたのか。新型コロナウイルス援助活動の責任者を務めたブリス・デ・ル・ヴィンヌが語った。
香港から始まった活動

© MSF
既存の医療援助活動を続けながら、新たな緊急事態である新型コロナウイルス感染症にどう対応するか、ということがまず大きな課題でした。コンゴ民主共和国とギニアでのエボラの再流行など、新型コロナウイルス以外の新たな危機への対応も迫られていました。
2020年1月、MSFは新型コロナウイルス感染症に関する最初のプロジェクトを香港で立ち上げました。高齢者や、社会的に弱い立場に置かれた人びとなど、感染リスクが高い人びとへの感染予防の健康教育に焦点を当てた活動です。
3月になる頃には、感染の流行はヨーロッパ全域にまたたく間に広がりました。MSFは、ベルギー、スペイン、イタリアなど、当時多くの感染者が確認された国々で活動を開始。現地の病院を支援するため、感染症対応の経験を持つ医療チームを派遣しました。私たちはこれまでの感染症対応を通して、医療スタッフが感染にさらされるリスクを身をもって実感していたので、医療スタッフの安全確保のための研修も行いました。

国境が閉鎖される中で
これまでの感染病への対応との大きな違いは、人と物資を必要な場所に送ることが難しかったということです。コレラや黄熱病など流行発生の兆しが表れたら、すぐに現地のチーム増員、専門家の派遣、何トンもの追加物資配達を進めます。しかし今回、新型コロナウイルスの流行が拡大するにつれて、多くの政府が国境を閉鎖したので、私たちは人と物資の移動に制限を受けるという課題に直面したのです。
それでも、感染症対応の基本は変わりません。私たちは、多くの人が感染している場所を中心に、感染リスクが高い人たちを探しました。

こぼれ落ちる人がいないように
どのような形で支援すれば、地域の医療体制に最も貢献できるだろうか──。切迫した状況下にある人びとを助けるために、MSFは過去14カ月間、さまざまな活動を行ってきました。設備の整った病院でも、ごく基礎的な施設でも、最前線にいる医療従事者向けの研修会を数多く開催。感染予防・制御策、消毒、患者の優先順序を決めるトリアージ、スタッフと患者の動線管理など、あらゆる面からサポートしました。
また、軽症の方や重症の方、そして、亡くなられる方のケアをしてきました。集中治療病棟の支援や運営もその一つです。治療だけでなく、マスクの配布、ソーシャルディスタンス、手洗いなどの予防策も指導してきました。SNSを駆使してこれらのメッセージを何百万人もの人びとに届けることも行っています。そして、パンデミックの最前線で重圧にさらされながら活動しているスタッフに、心のケアを提供し続けています。
