プレスリリース

富裕国は新型コロナ関連製品の独占一時停止を──WTOで本日協議

2021年02月04日
WTOでの提案に反対する国々の大使館前に集まり、抗議する市民ら=南アフリカで2月2日 © Tadeu Andre
WTOでの提案に反対する国々の大使館前に集まり、抗議する市民ら=南アフリカで2月2日 © Tadeu Andre

世界貿易機関(WTO)は2月4日、新型コロナウイルス感染症の薬やワクチン、その他関連品に対する知的財産権保護を、パンデミック(世界的大流行)収束まで一時的に免除するという提案について協議する。この提案はインド南アフリカ政府によって昨年10月に出されたが、一部の富裕国が反対し、結論が引き延ばされている。

国境なき医師団(MSF)は反対国に対し、提案を阻止せず、富裕国以外の多くの人命を救う可能性を潰すことのないよう求めている。世界中で感染拡大が深刻化する中、問題の先送りは許されず、WTO加盟国はこの提案実現のためにリーダーシップの発揮が期待されている。

日本も反対姿勢

この提案の目的は、全世界で集団免疫が獲得されるまで、新型コロナ治療薬やワクチン、検査機器や防護服など関連医療ツールの生産と供給に支障となる知的財産権に関しては、行使、適用、実施しないという選択肢を加盟各国に与えるもの。採択されれば、世界中のジェネリック薬(後発医薬品)メーカーなどが、特許や他の独占的権利に関わらず、医療ツールの生産を開始できる道が開かれる。

現在、エスワティニ、ケニア、モザンビーク、パキスタン、モンゴル、ベネズエラ、ボリビア、ジンバブエ、エジプトが共同提案に加わった他、100カ国が賛同しているが、日本、欧州連合(EU)、英国、米国、スイス、ブラジル、カナダ、エクアドル、エルサルバドル、オーストラリアといった少数の加盟国が反対の立場を崩していない。

変異株で医療体制ひっ迫も、ワクチン確保の見通し立たず

南アフリカでMSF医療代表を務めるコシ・マブソ医師は、「新型コロナの変異株が拡散し、アフリカ諸国の多くはいま、急速な感染拡大と医療体制のひっ迫に苦しんでいます。誰もが公平に手頃な価格でコロナの医療にアクセスできなければ、パンデミックは長期化するでしょう。それによってコロナ感染者のみならず、他の病気に対する予防や治療を行う医療体制への影響も長引き、さらに多くの死と苦しみがもたらされると懸念しています。この一時的免除の目的が、企業利益よりも人命の優先にあることは明白であり、MSFは各国に対し、迅速に行動し実現することを求めます」と語る。

現在、例えばアフリカ南部のモザンビーク、エスワティニ、マラウイでは感染力の高い変異株の拡散により感染者数が急増している。医療体制はひっ迫しているが、このような低所得国では最前線の医療従事者に対するワクチンですら確保の見通しが立っていない。

合意形成を先送りする「引き延ばし戦術」

パンデミックの当初から、新型コロナに関連する医療技術の開示や、それらを自由に生産供給する権利の確保が必要であることは、幅広く認識されてきた。複数の国の首脳がコロナ医薬品を「世界の公共財」として扱うことを求めて声明も出したが、現状ではどれもほとんど達成されていない。製薬会社は、各国と個別の商業ライセンスや購入の契約を内密に締結するなど、何の制約もなく企業活動を続けている。だがこうした契約は、途上国の顧みられない人びとのアクセスを損ねることとなる。

この提案は、企業が独占する新型コロナ医薬品の生産と供給に対し、すべての国が一丸となって立ち上がる機会となるはずだが、反対国は引き延ばし戦術を用いて結論を先送りする。 報告によると、賛同国はWTOで交わされた過去3カ月間の議論の中で、このパンデミック下で知的財産権の障壁によって実際に起きた事例を提示してきた。そして新型コロナ医療への世界的なアクセスを確保するためには、既存の法的選択肢や、企業の自主的な協力に頼るだけでは解決できないことを繰り返し説明した。しかし、反対する国々は合意形成のプロセスを阻み続けているという。

MSFアクセス・キャンペーンの南アジア責任者であるリーナ・メンガニーは、「特許制度について製薬会社が関心を持つことと言えば、競争を遮断し、独占状態を維持し、価格を高く保つために、ビジネス戦略として制度を利用することだけです」と語る。

「パンデミックが猛威を振るうなか、これまでは製薬会社を支援してきた各国政府も、企業利益のみを守ることから抜け出す必要があります。私たちは反対する加盟国に対し、議論の引き延ばし戦術を止め、この重要な提案を妨害せずに世界的な連帯を示すことを求めます。時間は刻々と過ぎており、多くの命がいまも危機に瀕しています」

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