プレスリリース

ガザ:国境なき医師団、世界各国にパレスチナ人患者の緊急医療搬送を要請──日本政府に向けた嘆願書への署名も呼びかけ

2025年10月22日
ヨルダン・アンマンにある国境なき医師団(MSF)の再建外科病院で治療を受ける、ガザ出身のカラムさん。イスラエル軍の空爆により広範囲にやけどを負った=2024年8月27日 Ⓒ Moises Saman/Magnum Photos
ヨルダン・アンマンにある国境なき医師団(MSF)の再建外科病院で治療を受ける、ガザ出身のカラムさん。イスラエル軍の空爆により広範囲にやけどを負った=2024年8月27日 Ⓒ Moises Saman/Magnum Photos

9月29日以降停止されていたパレスチナ・ガザ地区からの医療搬送が、10月22日から再開される予定だ。国境なき医師団(MSF)は世界各国の政府に対し、ガザで必要な医療を受けられない多くの患者のために、医療搬送の規模を緊急に拡大するよう求める。同時に、イスラエル当局に対し、患者が治療のためにガザを離れることを許可するとともに、ガザに帰還できる権利も保障しなければならないと要請する。

日本においてもMSFは、政府にガザからの患者受け入れ数拡大を求めるとともに、多くの患者を受け入れたことで自国の保健医療体制が圧迫されているガザ近隣国の支援を要請すべく、現在一般市民に嘆願書への署名を募っている。署名活動はオンライン署名プラットフォーム「Change.org」で展開中だ。 

【オンライン署名にご協力ください】
パレスチナ・ガザ地区で命にかかわる治療を緊急に必要としている人びとのため、医療搬送の拡大を求めます

1万5000人以上が医療搬送を待っている──緊急治療は「今」必要

「ガザのパレスチナ人はジェノサイドに耐えています」

MSFインターナショナル会長であり、自身も昨年ガザで活動した救急医のジャビド・アブデルモネイムは訴える。

ガザの医療体制は壊滅状態にあります。イスラエル軍は病院を攻撃し、がれきに変え、医療スタッフを殺害し、拘束し、強制移動させ、物資の搬入を体系的に阻止しているのです。

MSFインターナショナル会長 ジャビド・アブデルモネイム

2025年10月時点で、世界保健機関(WHO)は、1万5600人以上(うち4人に1人が子ども)がガザからの医療搬送による救命を待っていると報告。患者には、銃弾や爆弾による複雑な外傷を負った人に加え、がんや腎不全などの命に関わる慢性疾患を抱える人びとが含まれる。

「こうした患者さんは、ガザの医療体制再建を待つことはできません。緊急の治療は今すぐ必要なのです。昨年7月から今年8月の間に、少なくとも740人の患者さんが医療搬送を待つ間に亡くなりました。うち137人は子どもです。これらは防げたはずの死です。それは、病院の破壊だけでなく政治的な無策によって引き起こされたのです」とアブドルモネイムは憤る。 

世界各国は医療搬送受け入れの拡大を

ガザ地区からの医療搬送の受け入れは、これまで複数の国が担ってきた。特に、エジプト、アラブ首長国連邦、カタール、トルコ、ヨルダンなど、ガザの近隣国は数千、数百人の規模で受け入れており、自国の医療体制が圧迫されている国もある。その一方で、より多くの支援が可能な国々が少数、あるいは全く患者を受け入れていないという不均衡な状況となっている。

MSFは「各国の医療搬送受け入れ順位表」を公開し、各国の取り組みを比較している。日本政府は2025年3月、ガザ地区からの医療搬送のニーズを重く受け止め、患者の受け入れを開始したが、その数は現在2人にとどまっている。

MSFは、各国政府に対し、以下の取り組みを強く求める。

  • 停戦を維持し、人道援助が制限なく大規模に提供できるよう圧力をかけ続けること
  • ガザからの医療搬送の数を大幅かつ緊急に増加させ、イスラエルが医療搬送を妨げないよう影響力を行使すること
  • 医療上の緊急性と臨床的必要性に基づいて医療搬送を行い、待機リストの75%を占める成人や高齢者も受け入れること
  • 患者および付き添い人のビザや行政手続きを迅速化し、命に関わる遅延を減らすこと
  • 患者が子どもあるいはぜい弱な成人の場合は、付き添い人と共に移動できるようにすること
  • 患者が希望する場合は国外に留まる権利を保障するとともに、ガザに安全で尊厳ある自発的な帰還ができる権利も確保すること
  • 患者と付き添い人に尊厳ある生活環境、継続的な治療、リハビリサービスを提供すること。治療には、患者および付き添い人全員に必要なメンタルケアも含めること

冬の到来に備え、支援の拡大を、そして医療従事者の保護を

医療搬送は、停戦の維持と、ガザ地区への大規模かつ制限のない人道支援を確保する継続的な取り組みとともに行われなければならない。冬の到来が迫る中、廃墟となったかつての住居に戻ろうとする人も多い。現在、支援物資の搬入は増えつつあるが、MSFは、医療物資、燃料、清潔な水、食料、避難所などを含む支援を迅速に拡大し、200万人のニーズに応えるよう求めている。

2025年10月時点で、WHOはガザの36の医療施設のうち、14施設が一部稼働しているが、完全に稼働する施設は皆無だと確認した。これは、イスラエルによる地上攻撃や空爆など、体系的かつ直接的な攻撃の結果だ。

破壊しつくされたガザ市のシファ病院内部=2025年2月7日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF
破壊しつくされたガザ市のシファ病院内部=2025年2月7日 Ⓒ Nour Alsaqqa/MSF


また、ガザ保健省によると、過去2年間で、1722人の医療従事者が殺害された。MSFのスタッフも15人が殺害された。停戦のわずか1週間前にも、MSFの作業療法士と理学療法士の2人が、勤務先へ向かう途中にイスラエルの空爆で命を落とした。

MSFの整形外科医ムハンマド・オベイドは、2024年10月にガザ北部の病院でイスラエル当局に逮捕され、以降1年間にわたり拘束されている。MSFは彼の即時釈放を強く求めている。医療従事者の喪失は、ガザの患者にとって壊滅的な影響を与えている。  

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