アフガニスタン:MSFはなぜ独立した調査を求めているのか
2015年10月13日
外傷センターから避難したスタッフも含まれている
アフガニスタン・クンドゥーズ州で国境なき医師団(MSF)が運営していた外傷センターへの爆撃は、MSFの医療施設への攻撃というだけでなく、紛争地での傷病者の保護、医療者・医療施設の保護、文民の保護を明確に定めているジュネーブ条約への攻撃でもあります。
本記事は、MSFが国際事実調査委員会(IHFFC)による調査を求める理由を改めてご説明し、皆さまにさらなるお力添えをお願いするものです。
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国際事実調査委員会(IHFFC)とは

ジュネーブ条約に基づいて1991年に結成された国際人道法の侵害を専門的に調査するための唯一の常設組織です。調印国は日本を含む76ヵ国で、MSFは全調印国に、MSFの外傷センター爆撃について調査を求める公式書簡を送付しました。
76ヵ国のうち1つでも調査を提案する国があれば、IHFFCは動きはじめますが、結成から今日まで、IHFFCの調査実績はありません。調印国が調査の提案を避けてきたためとみられます。しかし、MSFの外傷センターへの爆撃は明らかに国際人道法の侵害です。本件こそ、IHFFCによって調査されるべき事案です。
外傷センター爆撃の特異性

MSFは世界各地の紛争地で活動しており、過去にも安全が脅かされる事案が起きています。しかし、外傷センターに対する爆撃は、これまでの事例とは異なる点が数多くみられます。
MSFが紛争地で運営している医療施設は、活動の中立・独立・公平を保つ観点から、紛争の全当事者との合意を取りつけています。外傷センターも同様でした。しかし、2015年10月3日午前2時8分から3時15分まで、外傷センターの中央病棟を正確に狙った爆撃が15分間隔で繰り返されたのです。しかも、MSFが米国やアフガニスタンに外傷センターが爆撃されていることを伝え、即時停止を求めた後も30分以上続いたのです。
この経緯について、両国の談話は一貫性を欠いています。なぜこのような非人道的な爆撃が起きたのか、当事国による軍の内部調査だけでは不十分で、第三者の立場での調査が必要なことは明らかです。IHFFCはこうした事態の解決を想定して設立された唯一の国際機関であり、だからこそ、MSFは調査を求めているのです。
IHFFCの調査が始まるまでの流れ
IHFFCに調印している76ヵ国のうち、1ヵ国でも調査を提案すれば開始できます。ただ、MSFの外傷センターに対する爆撃では、米国とアフガニスタンの調査協力への同意も必要です。
IHFFCは、事実関係の調査と、その事実がジュネーブ条約を侵害していたかどうかについて精査し、報告書を作成します。ただ、報告書は紛争当事者に提出され、当事者の同意がなければ公開されません。外傷センターに対する爆撃について、MSFは調査の透明性も求めます。一方、IHFFCは調査機関であり、国際司法機関ではないため、判決を下すことはありません。
MSFがIHFFCの調査に期待すること
第1に事態が解明されることです。さらに、医療施設への攻撃は国際人道法の違反であり、戦争犯罪であることを世界各国に再認識させる効果を期待しています。ルールのない泥沼の戦争で患者やスタッフの命が奪われる事態は決して容認できません。世界各地で紛争が起きている現在、MSFはその最前線で医療・人道援助に身を投じているのです。
IHFFCに実績がないのは、各国が及び腰だからです。MSFの外傷センターに対する爆撃に各国がどのように向き合うのか、人道援助活動を保護し、人道法を支えようという姿勢が本物かどうか、試されています。