迫り来る虐殺の危険 家族を連れ逃げた──コンゴ、激化する暴力の中で

2022年01月31日
この数カ月で4万人が新しく加わり、6万人以上の人びとが暮らす避難民キャンプ  © Alexis Huguet/MSF
この数カ月で4万人が新しく加わり、6万人以上の人びとが暮らす避難民キャンプ  © Alexis Huguet/MSF

「もう運に任せるしかありません。食べ物もなく、子どもたちも私もキャンプに来てからずっと体調が悪いままです」
 
コンゴ民主共和国の北東部に位置するイトゥリ州。暴力が広がり、3人の子どもたちと共に避難民キャンプに逃れて来たスザンヌさん(52歳)はそう話す。
 
2017年以降、イトゥリ州では部族間の緊張により武力紛争が劇化し、暴力の渦が人びとを苦しめている。避難者が急増したキャンプから、住民の様子を伝える。

隣人がナタで襲われた

2021年11月、イトゥリ州のチェおよびドロドロ、パロワス、ルコ、イボの5カ所で前例のない暴力的な襲撃が立て続けに発生。このようなことが起こる度に、人びとは避難を強いられる。
 
スザンヌさんはイボで、通行人が銃撃されるのを目にしたり、隣人がナタで襲われるのを耳にしたりしながら、家族と共に何とか切り抜けてきた。いまも、隣人が虐殺される姿が繰り返し脳裏によみがえるという。先行きが見えない中でもスザンヌさんは懸命に子どもを養おうとしてきた。そのような状況でさらに状況が悪化し、一家はロー・キャンプに避難した。スザンヌさんが住む場所を追われたのはこれで2回目だ。
 
スザンヌさんをはじめ、ブルクワ・エタ保健区域のロー・キャンプに新たに身を寄せた避難民は4万人を超えた。ここは、安全上の問題がたびたび発生し、人道援助団体も規模を縮小している場所だ。
 
「避難してきた人たちは、寒さや、仮設住居とトイレの不足など、さまざまな苦労を抱えています」と語るのは、国境なき医師団(MSF)のバンジャマン・サファリ医師だ。
 
「武装勢力間の衝突で、大勢が退去を余儀なくされました。医療従事者も避難を強いられました。保健ニーズは膨大です。MSFは15歳未満の子どもの援助を強化すべく、複数の活動を立ち上げました」

キャンプでMSFが行う水の支援に多くの人が集まる © Alexis Huguet/MSF
キャンプでMSFが行う水の支援に多くの人が集まる © Alexis Huguet/MSF

薬と包帯では解決できない問題

キャンプ内に設置された診療所の本来の目的は、より手厚い治療の必要な患者を設備の整ったドロドロ町の総合病院に引き継ぐことにあった。しかし、直近の衝突で町の一部が破壊され、住民がキャンプに避難。2カ月で4万人が加わり、現在は6万5000人を超える避難者への援助のため、MSFは診療所を野外病院に作り替えた。
 
12月以降、診療は週平均800件を超え、分娩介助は35件に上り、心の健康支援が必要な患者数十人にも対応。さらに、健康教育チームが保健講習会を開催し、急性栄養失調や流行性疾患の兆候を診たり、性暴力に遭った場合の被害者支援についての情報提供を行ったりしている。
 
ドロドロ町のMSFプロジェクト・コーディネーターであるダビデ・オッキピンティは訴える。
「一部で帰宅も始まっていますが、いまの幾分落ち着いた状況もいつまで続くか分かりません。依然としてニーズが大きい一方で、私たちはなかなか人びとと接触できません。医療スタッフの安全が確保されなければ、ドロドロの町に戻っていく人びとの様子を追うこともできません。
 
ローにとどまる人びとには他に行くあてがありません。この地域の部族間抗争はあまりにも長いこと放置されていて、薬や包帯では問題の解決は望めないでしょう。家を追われる人と死傷者をこれ以上出さないよう、コンゴ政府と関係各国は責任を果たすべきです」

夕暮れ時、テントの外で過ごす人びと © Alexis Huguet/MSF
夕暮れ時、テントの外で過ごす人びと © Alexis Huguet/MSF

1999~2003年のイトゥリ州におけるレンドゥ族とヘマ族の紛争は、多数の人に影響を及ぼし、最終的に欧州連合(EU)の軍隊が介入。2017年末には、州北部のジュグ地区を中心に暴力が再発した。金鉱と原油の豊富な同州内の主な武装勢力は、国連派遣の「国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)」部隊の支援する政府軍と、特に活発な「コンゴ開発協同組合(CODECO)」などの非国家の反政府勢力。2017年以降の虐待行為の一部が、2020年の国連で「人道に対する罪」にあたる可能性があると指摘されている。
 
MSFはイトゥリ州ドロドロ、ニジ、バンブ、アングムという4保健地域の、総合病院4カ所、診療所12カ所、簡易診療所3カ所、地域医療現場32カ所で、小児疾患・栄養失調・マラリア・性暴力被害の治療と心のケアにあたっている。

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