階段を上ってあなたに温もりを──停電続くキーウでの生活支援:ウクライナ

2026年03月26日
停電が続くウクライナの首都キーウで暮らす80歳のインナさん © MSF
停電が続くウクライナの首都キーウで暮らす80歳のインナさん © MSF

ウクライナの首都キーウの集合住宅。97歳になるハンナさんは、11階の一室に閉じ込められるように暮らしている。

「11階に住んでいるので、冬のあいだは、部屋の外に出ることはとてもできません。部屋の中も寒くて、ずっと震えていました。なんとか正気を保つので精一杯です」

国境なき医師団(MSF)は2026年2月、キーウで新たなプロジェクトを始めた。ウクライナのエネルギーインフラに対し、ロシアが攻撃を繰り返している。停電が長く続き、そこに冬の過酷な寒さが加わる。夜になれば、気温はマイナス20度まで下がる。多くのキーウ市民が、寒さと闇に苦しんでいるのだ。

とりわけ苦難を強いられているのは、高齢者、体の不自由な人を介護している世帯、子どもたち、そして、独り暮らしの人びとだ。

キーウ市内の高層ビルでは、電力供給が不安定でエレベーターが止まることも多い。歩行や階段の上り下りが難しい人びとからすれば、エレベーターなしで行動するのは往々にして不可能だ。事実上、自室に閉じ込められてしまう。しかも、その自室でさえ、暖房も電気も満足に使えないのだ。 

ロシアによる攻撃の傷跡が見えるキーウ市内の高層アパート © MSF
ロシアによる攻撃の傷跡が見えるキーウ市内の高層アパート © MSF

「温もりセット」

「1月や2月は、部屋の中でも気温は4度ぐらいでした。寝る時は、冬用のジャケットとフードをかぶって、古びた布団を寝袋のように身体に巻きつけていましたよ」

そう語るのは、80歳のインナ・リトビノバさんだ。キーウの集合住宅に一人で暮らしている。

そうした困難な状況にある人びとのために、MSFはキーウ市の社会福祉スタッフや地域ボランティアたちと連携して、個別訪問を続けている。弱い立場に置かれた住民たちと直接会って、何を必要としているのかを見極めていく。また、停電中でも日常生活を営めるよう、基本的な支援キットも提供している。

初回の訪問は、顔合わせのようなものだ。支援キットを手渡し、何を求めているか、その理解に努める。私たちにどのような手助けができるのかを考えていくのだ。

「支援キットの中には、色々なものが入っています」とキーウでMSFの医療チームリーダーを務めるオリハ・オスムハは語る。

防寒用の毛布、繰り返して使えるカイロ、モバイルバッテリー、魔法瓶、大型懐中電灯、紅茶、インスタントスープ、ビスケット。私たちは、このキットを『温もりセット』と呼んでいます。

オリハ・オスムハ MSF医療チームリーダー

MSFが届ける「温もりセット」 Ⓒ MSF
MSFが届ける「温もりセット」 Ⓒ MSF

そして今日もチームは階段を上る

先ほどのインナさんは、次のように語る。

「ヘッドランプは必需品です。部屋がいつも暗いでしょう。だから、よく転ぶことがあって、とても危険でした」

このヘッドランプを頭につけておけば、部屋の中がよく見えます。両手も自由に使えますしね。

「朝は、魔法瓶で温かい紅茶やハーブティーを淹れます。モバイルバッテリーを使って充電作業もしますし、夕方前になったら、懐中電灯で灯りを確保しています。夜は、カイロや防寒用毛布で暖をとっています」
 
戸別訪問の際に、MSFは基本的な健康チェックも実施している。住民のなかには、心血管疾患、糖尿病、関節炎、パーキンソン病、脳卒中の後遺症など、いくつもの慢性疾患を抱えているケースも多いからだ。それゆえ、個別訪問には看護師が同行する。そして、血圧、体温、血中酸素飽和度、血糖値などを測定するのである。

「私は、重度の乾癬(皮膚の疾患)を患っています。それに、片方の目は、ほぼ失明しています」とインナさんは自分の健康についても語ってくれた。

絶え間ないストレスにさらされ、病は悪化するばかりです。でも、このような状況で、どうやって不安やストレスをなくせるというのでしょう。

インナさんは続ける。

「私の住む建物の入り口付近に、ミサイルが落ちてきたことがあります。私の部屋も、天井や壁にヒビが入りました。バルコニーの窓は、今もビニールシートが張られたままです」

あの日の朝、目が覚めたら、部屋がガラスだらけになっていました。そんなことが起きる世界で、私は生きています。前を向いて生きています。生きていかなければならないのです。

春が訪れ、少しずつ暖かくなってきた。しかし、キーウに生きる人びとは、今もなお困難の中にいる。電力供給は不安定なままだ。毎日数時間にわたって停電が続く。
 
今日もMSFチームは、彼らのもとを訪れるために、階段を上る。
 
終わりの見えない戦争のなかで、彼らに会うために、その扉を叩く。 

住民を訪問するため、高層アパートの階段を上るMSFスタッフ © MSF
住民を訪問するため、高層アパートの階段を上るMSFスタッフ © MSF

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