ウクライナの極寒を生き抜く──続くロシア軍のインフラ攻撃 市民への深刻な影響とは
2026年01月29日
国境なき医師団(MSF)のスタッフや患者も例外ではなく、生活に必要な物資が不足する環境で活動を続けており、攻撃で損壊した住宅で暮らさざるを得ない人も少なくない。前線付近では低体温症の患者が確認され、各地で停電が相次ぐ中、ウクライナ全土には非常事態が宣言された。
厳しい寒さが患者の健康を脅かす
ドニプロペトロウシク、ドネツク、ザポリージャ各地域の前線近くに住むMSFの患者の多くは50歳以上で、慢性疾患を抱えている人びとだ。こうした持病は、続く厳しい寒さと適切な避難所の不足によって、さらに悪化している。
「今日は、1日のうち電気が使えたのがわずか1時間半という村にいました」
そう語るのは、MSFの医師イワン・アファナシエフだ。
「私たち医療チームでさえ寒さに震えるほどでしたから、住民の方々がどれほど厳しい状況に置かれているかは想像に難くありません」
極度の寒さに長時間さらされることは、慢性疾患を抱える人びとに深刻な影響を及ぼします。
MSFの医師 イワン・アファナシエフ
アファナシエフによれば、患者は血糖値や血圧の管理がこれまで以上に難しくなっているという。さらに、自力で体を温めるために動くことができない障害のある人びとは、低体温症のリスクが一段と高まってしまう。
「影響を受けているのは、屋外で暮らす人びとだけではありません」と、MSFの麻酔科医ロマン・ホレンコは説明する。
「停電や暖房の停止によって、人びとは自宅であっても体を温めることができません。私たちは、脳卒中を起こした後に身動きが取れず、数日間自宅に横たわっていた高齢の女性を治療しました」
女性は最終的に救急車でドニプロペトロウシクの病院に搬送され、脱水症状と低体温症の治療を受けた。
MSFのスタッフにも影響
ウクライナで活動するMSFのスタッフも、同様の困難に直面している。ドニプロでMSFの調達チームを率いるクセニア・リピンスカは、ドローン攻撃によって自宅の窓が粉々に砕けた経験を語った。
「ドローンが近くの発電所を攻撃し、台所の窓から炎が見えました。爆発音が次第に近づいてきたため、私と両親は廊下に避難しました。攻撃の衝撃で私たちの家の窓は粉々に砕けたのです」
「爆発がやんだ隙を見て、急いで暖かい服を取りに走りました」とリピンスカは語る。
壊れた窓を板でふさいでみましたが効果はなく、今は枕や毛布で覆うしかありません。室内はあまりに寒く、ブラインドには氷が張るほどです。
MSFの調達チームリーダー クセニア・リピンスカ
住宅への被害はあまりに広範囲に及び、再建や修復の作業は思うように進んでいない。さらに、インフレで追加費用が膨らむうえ、再び破壊される恐れも拭えず、自宅を修理すべきかどうか判断に迷う人も少なくない。
前線外にも広がる寒さと停電
ウクライナでは、戦争にまつわる冗談やミームが日常的に交わされており、ほぼ毎日のように続く爆撃やドローン攻撃が住宅を破壊し、人びとを負傷させ、命を奪うという過酷な現実に向き合うための手段となっている。家族や友人に「おやすみ」と言う代わりに、爆撃に遭わず朝を迎えられるよう願いを込めて「静かな夜を」と声を掛け合う人も多い。
前線から離れた地域でも、ビンニツァからキーウにかけて、人びとは全国的な停電の影響に苦しみ続けている。首都のキーウでは気温の急激な低下と停電が特に深刻だ。
「ここ数週間のキーウでの生活は、“生きる”というより“生き抜く”に近いものです。外の気温は氷点下20度に達し、人びとは家の中で暖を取る術もなく、絶え間ない寒さにさいなまれています」
MSFの広報担当者のアンヘリナ・ショルスは、そう語る。
まるで春など永遠に訪れないのではないか──。そんな思いにとらわれるほどです。
MSFの広報担当者 アンヘリナ・ショルス
「自宅で料理ができなくなった人びとのために移動式の炊き出し所が並ぶ光景は、第2次世界大戦中のキーウの映像を思い起こさせ、胸が痛みます」




