「国際援助削減」のしわ寄せ、難民11万7000人に…チャドの孤立したキャンプで深まる危機

2026年09月17日
国境なき医師団(MSF)が新設する給水所で、貯水タンクの土台を掘る作業員(中央)。最も新しい地区には5000人以上が暮らすが、インフラはほとんど整っていない=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF
国境なき医師団(MSF)が新設する給水所で、貯水タンクの土台を掘る作業員(中央)。最も新しい地区には5000人以上が暮らすが、インフラはほとんど整っていない=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF

スーダンと国境を接する、チャド北東部の遠隔地にあるウレ・カッソーニ難民キャンプには、11万7000人を超える難民が暮らしている。

戦火を逃れた家族がいまも次々と到着し、支援ニーズが高まっている。一方で、人道援助の資金は減少しており、その影響が食料、水、住居といった人びとの暮らしを直撃している。

国境なき医師団(MSF)はこの状況に危機感を抱いており、ウレ・カッソーニをチャドにおける人道援助の優先対象に位置付けるべきだと訴えている。

戦火を逃れ、いまも続く難民の流入

「私は難民としてここへ来ました」

こう語るのは、内戦が続くスーダンから逃れ、家族と共にウレ・カッソーニへたどり着いたサーディア・ユースフ・アブドッラー。現在はMSFのヘルスプロモーターとして、難民キャンプでほかの難民と働いている。

ウレ・カッソーニ難民キャンプ内の、ある区画の住民を束ねるリーダー(左)と話す国境なき医師団(MSF)のヘルスプロモーター、サーディア・ユースフ・アブドッラー=チャドで2026年7月24日 © Flurina Rothenberger/MSF
ウレ・カッソーニ難民キャンプ内の、ある区画の住民を束ねるリーダー(左)と話す国境なき医師団(MSF)のヘルスプロモーター、サーディア・ユースフ・アブドッラー=チャドで2026年7月24日 © Flurina Rothenberger/MSF

明日がどうなるか分からない日々が、どれほど不安か……。いまの私は身をもって理解しています。

スーダン難民のMSFヘルスプロモーター サーディア・ユースフ・アブドッラー

ウレ・カッソーニは、チャド北東部の東エネディ州にある人里離れた地域に位置する。遠隔地にあるため、住民が必要なサービスを利用することも、外部から援助を届けることも簡単ではない。2023年4月にスーダンで内戦が始まって以来、キャンプには大勢の人びとが絶えず逃れてきている。

2025年5月には、北ダルフール州のザムザム・キャンプが陥落したことを受け、6万人を超える人びとが到着した。その後、エル・ファシールが制圧され、2025年10月~2026年8月の約1年間に新たに2万1000人以上が登録された。

いまもスーダンの人びとが毎日のように到着しているが、支援に充てられる資源は追い付いていないのが現状だ。

キャンプへの給水が足りず、湖で水をくむ人びと。岸辺は家畜のふんで汚染されているため、子どもたちは穴を掘り、そこにたまった水をくんでいる=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF
キャンプへの給水が足りず、湖で水をくむ人びと。岸辺は家畜のふんで汚染されているため、子どもたちは穴を掘り、そこにたまった水をくんでいる=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF

食料は減り、水は1日2リットル

主な課題の一つは、食料不足だ。

食料援助が削減され、子どもたちに食べさせるものさえ足りていない状況が続く。キャンプで暮らす難民で、母親のサルワさんはこう話す。

以前は、配給を頼りに子どもたちに何とか食べさせることができました。でもいまは配給が減り、子どもたちに何を食べさせればよいのか分からないことがあります。子どもだけでなく、家族全員が飢えに苦しんでいます。

ウレ・カッソーニに身を寄せるスーダン難民 サルワさん

MSFが健康状態を調べた子どもたちの間では、栄養失調が増えている。2025~2026年に、重度急性栄養失調の割合は2.2%から3.4%に、中等度急性栄養失調は10%から13%に上昇した。

子ども用の栄養補助食を母親(左)に手渡す看護師ら=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF
子ども用の栄養補助食を母親(左)に手渡す看護師ら=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF


同時に、水不足も差し迫った問題だ。
 
ウレ・カッソーニで1人が使える水は、1日当たりわずか約2リットル。緊急時に推奨されている15~20リットルの基準値を大幅に下回っている。
 
各家庭に清潔な水を届けるには、湖から水をくみ上げ、浄化し、水質を検査したうえで、キャンプ内の各地区まで運び、配給するという複雑な工程が必要になる。援助資金の減少に伴い、給水量も少なくなっているのだ。

その弊害は人びとの健康にも表れている。7月にMSFが難民キャンプで実施した診療のうち、14%以上が血便を伴わない下痢の症例だった。安全な飲み水の不足だけが原因ではないものの、要因の一つであることは間違いない。

ウレ・カッソーニで活動するMSFのプロジェクト・コーディネーター、ジョシュア・アユバ・ムパトはこう訴える。

ここで暮らす人びとにとって、十分な量の安全な水を使えることは、ぜいたくではありません。健康と尊厳を守るために欠かせない、最低限のものなのです。

MSFのプロジェクト・コーディネーター ジョシュア・アユバ・ムパト

処理後の水に残るアルミニウムの濃度を、検査キットの色見本と照らし合わせて調べるMSFの給水担当者。基準を満たした水は、給水車で難民キャンプへと運ばれる=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプ近郊の浄水施設で2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF
処理後の水に残るアルミニウムの濃度を、検査キットの色見本と照らし合わせて調べるMSFの給水担当者。基準を満たした水は、給水車で難民キャンプへと運ばれる=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプ近郊の浄水施設で2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF

雨風をしのげない住居、性暴力の危険

さらに、住環境の改善も求められている。

何千世帯もの家族が、手に入る材料をかき集めて住まいをつくらざるを得ず、その多くは雨風などから身を守る機能を十分に果たしていない。


健康にも悪影響が生じており、不安定な住環境との関連が強い呼吸器感染症は、キャンプの各地区、全年齢層を通じて、MSFの診療件数の30%以上を占めている。

しかし、ウレ・カッソーニにある診療所は1カ所だけで、キャンプ内では二次医療を受けられない。専門的な治療が必要な患者は外部の医療施設へ紹介されるが、費用面の支援を受けられるのは重篤な患者に限られている。

段ボールや麻袋、ビニールシートで造られた仮設住居のそばを歩く女性たち=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF
段ボールや麻袋、ビニールシートで造られた仮設住居のそばを歩く女性たち=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月25日 © Flurina Rothenberger/MSF


また、性暴力の被害も課題の一つだ。

2026年1月~7月に、MSFは性暴力サバイバー計91人をウレ・カッソーニで診療した。このうち何件が、スーダンを逃れた後にチャドで起きたかは特定できていない。しかし、劣悪な生活環境や援助不足により、女性たちが水やまきを集めるためにキャンプの外へ出ざるを得ず、暴力を受ける危険性は高まっている。

ウレ・カッソーニを援助の優先対象に

このようにウレ・カッソーニでは支援ニーズが増大する一方で、それに応じた資源は十分に割り当てられていない。

例えば、国連や人道援助団体が支援ニーズと対応方針をまとめた「2026年チャド人道ニーズ・対応計画(HNRP)」では、支援の優先地域に含まれていない。MSFはこうした現状を深刻に受け止めている。

ムパトはこう強調する。

援助国や援助団体は、ウレ・カッソーニを優先して支援しなければなりません。ここには11万7000人を超える人びとが暮らし、ニーズは極めて膨大です。しかも、いまも新たな人びとが毎日到着しているのです。援助を早急に拡大しなければ、人びとのニーズと実際に届く援助との隔たりが今後も広がり続けてしまいます。

MSFのプロジェクト・コーディネーター ジョシュア・アユバ・ムパト

「命のうでわ」で子どもの腕の太さを測り、栄養状態を調べる看護師。緑色は栄養状態が「良好」であることを示している=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF
「命のうでわ」で子どもの腕の太さを測り、栄養状態を調べる看護師。緑色は栄養状態が「良好」であることを示している=チャドのウレ・カッソーニ難民キャンプで2026年7月23日 © Flurina Rothenberger/MSF

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