援助削減の代償──暴力を生き抜いた女性や子どもたちを襲うチャド東部の栄養危機

2026年08月12日
チャド東部アドレの国境なき医師団(MSF)が支援する入院栄養治療センターで、生後75日の我が子を抱く女性。子どもは合併症を伴う重度の急性栄養失調と診断され、治療を受けている=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
チャド東部アドレの国境なき医師団(MSF)が支援する入院栄養治療センターで、生後75日の我が子を抱く女性。子どもは合併症を伴う重度の急性栄養失調と診断され、治療を受けている=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF

2023年4月にスーダンで内戦が始まって以来、スーダンから93万人以上の人びとが隣国チャド避難している。その80%以上を女性と子どもが占め、これまで70万人以上がチャド東部の国境の町アドレを経由して逃れてきた。

国境なき医師団(MSF)は2026年1月から6月にアドレで栄養に関するスクリーニング検査を行った。その結果、妊娠中および授乳中の女性の5人に1人以上が急性栄養失調の状態にあることが明らかになった。

そして、その約4分の3は難民を受け入れている地域の地元住民だった。深刻な資金不足により、食料配給は登録のある難民に限定されており、難民登録のない地元住民は対象外とされ、援助から取り残されているためだ。

MSFは国際的な資金拠出者に対し、チャドの2026年人道対応計画への資金提供と、食料・栄養支援の対象に地元住民も含めるよう求めている。

また、大幅な資金削減が続くなか、アドレに逃れた人びとは東部のメチェやアルコウムへ移送されている。MSFはチャド当局や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に対し、移送前に難民と地元住民の双方が、十分な食料や水、医療サービスを利用できるよう、緊急対応基準を満たした支援体制を確保するよう訴えている。

MSFが支援する入院栄養治療センター内の様子=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
MSFが支援する入院栄養治療センター内の様子=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF

逃れても、なお続く危機

2023年4月以降、チャド当局とUNHCRはスーダン国境沿いの一時滞在地から内陸部へ64万6216人を移送しているが、そのうち4万5321人は2026年1月以降に強化された移送計画によるものだ。

「何カ月にもわたる激しい暴力を生き延びた人びとは、心身ともに疲れ果て、栄養失調や深いトラウマを抱えた状態でアドレにたどり着きます」と、アドレでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるレア・ルドルーは言う。

「しかし彼らを待っているのは、すでに貧困や援助不足に苦しむ地域社会での厳しい現実です」

移送によってこの問題が解決されるわけではありません。援助が不十分な受け入れ地域から、同様の事態に直面する別の受け入れ地域へと、人びとを移しているにすぎないのです。

レア・ルドルー アドレのMSFプロジェクト・コーディネーター

重度の急性栄養失調で入院中の生後11カ月の娘に、治療用ミルクを与えるスーダン難民の母親=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
重度の急性栄養失調で入院中の生後11カ月の娘に、治療用ミルクを与えるスーダン難民の母親=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF

広がる栄養失調、縮む援助

MSFがアドレで行った妊娠・授乳中の女性を対象とした栄養のスクリーニング検査では、21.2%が中程度または重度の栄養失調と診断された。この数値は、深刻な人道危機の目安とされる15%を上回るものだ。

栄養失調は流産や分娩時の大量出血、早産のリスクを著しく高める。しかし、栄養失調の女性に対する体系的な治療を提供している組織はなく、栄養が強化された小麦粉が確保できたときに配布される程度にとどまっている。

子どもたちへの影響も深刻だ。MSFが支援するアドレ保健センターでは、2026年1月から4月の子どもの栄養失調の入院数が、2025年の同時期と比べて30%増加した。

資金不足により、5月と6月には世界食糧計画(WFP)から供給されていた中程度の急性栄養失調に用いる治療食が在庫切れとなり、子どもや妊産婦への支援が中断された。6月末に補充された在庫も9月には底をつく見込みで、その後の見通しは立っていない。

また、年間必要量のうち確保できている治療食は約3分の2にとどまり、本来は子ども1人当たり週14パックの治療食が必要だが、10パックに制限せざるを得ない状況だ。

合併症を伴う重度の急性栄養失調を患い、看護師のケアを受けている生後20カ月の男の子とスーダン難民の母親=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
合併症を伴う重度の急性栄養失調を患い、看護師のケアを受けている生後20カ月の男の子とスーダン難民の母親=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF


さらに、市場価格の高騰により、アドレでは生活必需品が手の届かないものとなっている。例えば、20リットル入りの食用油は1万2000CFAフラン(約3300円)から2万CFAフラン(約5500円)へと急騰している。しかし、地元住民は今も一般的な食料配給の対象外だ。
 
このような状況下でも、資金不足によりWFPは支援対象の優先順位を付けざるを得ず、2026年1月以降、アドレとメチェでの食料支援は2カ月に1度の現金給付へと縮小された。その給付額も、60日分の期間に対して30日分しか賄えない。その限られた支援さえも今月で底をつく可能性があり、給付そのものが停止される恐れがある。 

MSFが支援する入院栄養治療センターで、子どもの栄養失調の治療用ミルクを受け取る女性=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
MSFが支援する入院栄養治療センターで、子どもの栄養失調の治療用ミルクを受け取る女性=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF

行き着いた先にも安全はない

9月末までに、アドレから1万人以上がメチェ難民キャンプへ移送される見通しだが、すでに同キャンプには難民と地元住民あわせて4万3300人が暮らしている。

現在、キャンプ内で医療を提供しているのはMSFとアクション・コントル・ラ・ファン(ACF)のみだ。援助が縮小する中、アルコウムやアラシャからも栄養失調の子どもたちを受け入れており、MSFが支援する病院の小児入院数は2025年上半期の382人から、2026年同期には670人へと75%も増加した。

また、水の供給量は1人1日あたりわずか8リットルで、緊急時の最低基準である20リットルを大幅に下回っている。そのため、人びとは安全でない水源に頼らざるを得ず、下痢の症例数は2025年上半期の634件から、2026年同期には1044件へと急増した。

安全な水やトイレが不足するキャンプでは、飢えによって弱っている人びとの間で、水を介して感染する病気が急速に広がっている。雨季を迎えるなか、そのリスクはさらに高まっており、167人が命を落とした昨年のコレラ流行の再来が懸念される。

栄養失調で入院する男の子の母親に、治療方針を説明するMSFの医療チーム=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF
栄養失調で入院する男の子の母親に、治療方針を説明するMSFの医療チーム=2026年5月2日 © Alexis Huguet / MSF

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